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片足を返品した人魚姫ですが、承知の上で踊りませんか?  作者: 英志雨
第六章 Shall We Dance?
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王子が死ねば自分は助かるわけだし

 馬鹿でよかった。

 一夜明けた布団の中で、ぼうっと天井クロスの縦横線を眺めて吐息を吐いた。


 帰宅早々ふて寝を決め込んだのが功を奏したのか、目が覚めると全てがどうでもよくなっていた。

 むくりとベッドから起きあがって伸びをして、日課の軽いストレッチ。

 時間のあるときは筋肉トレーニングも行うが、今日は起きたのが時間ぎりぎりだったので夜に回す。

 タカヒロとの待ち合わせは午後一時。

 あと一時間もない。


 数秒迷ってから、壁に下げてあった制服を掴んで着替え始める。

 張り切っていると思われるのも嫌だったので。

 セーラー服の前ボタンを絞めてスカーフを巻き、スカートを穿いたところで姿見に映った自分を見て、


「……」


 スカーフをはずしてリボンに変え、スカートを腰のところで折り返していつもより少しだけ短くしてみる。

 断端が顔をださない程度に。


(ま、デートだし……)


 短い丈がくすぐったいなあと思いながら洗面所へ向かう道すがら、壁に飾ってあるコルクボードが目についた。

 父親が送ってくる異国のポストカードが結構好きで、お気に入りの数枚がピン止めされている。

 建物や植物、祭りの風景写真が大半の中、一枚だけ人物写真が貼られていた。

 納涼祭のクイックステップで踊ったピクチャーポーズの写真。

 槙島が大隈から強奪したものだ。

 菜々子がいつも鞄に入れているという持ち運び用プリンターで印刷をして、帰り際に渡された。

 あのときは上手に踊れたと思っていたが、こうして写真にするとつけ焼き刃感がありありと現れている。

 そして当然というか、夏目はミユキに向けるような目をしていなかった。

 そもそも、あんな表情をマリに見せたことは一度もない。

 学習机に置かれたペン立てからカッターナイフを取りだして逆手に持ち、写真の縁に突き刺したところで、


「……まあ、写真に罪はないか」


 思い直して手を止めた。

 身代わりにされたことは悔しいが、あの昂揚感、足を得て踊った浮遊感は今もなおマリの中心部分にくすぶっている。


(とはいってもなあ……)


 生まれ変わってもまた選ばれることのなかったマリは、またこの呪いを断ち切ることができなかったわけで。

 それだけが癪に障っている。


 呪いを解く方法を考えているうちにふと気になった。

 王子にとってのめでたし、めでたしハピリィ・エヴァー・アフターが姫とともに死ぬことならば、人魚姫はそれを叶えてやるのだろうか。

 王子が死ねば自分は助かるわけだしハッピーエンドになるのでは。

 義足を完成させて、夏目は満足顔で死に、マリの呪いは解ける。

 身代わりにされるのだけが気に食わないが、WINーWINの関係と言えなくもない。


「痛っ」


 引っ込めようとした刃が横滑りして、写真を押さえていた左手の指を掠めた。

 親指の皮膚がぷつりと切れて赤い血の玉が浮いてくる。


「あーあ」


 デート前なのについていないなとため息交じりに指をくわえる。

 口の中に鉄の味が広がると誰かの声が囁いた。


 殺しちゃえば。

 一思いにさ。


 スマートフォンのアラームが鳴った。

 でかける四十五分前。

 昨日のうちに設定しておいた最終警告だ。


「やっば。顔洗わないと」


 追い立てられるような音に「はいはいわかってるってば」と答えつつ、音声認識なんて高尚な機能は使いこなせないので自分でアラームを止めた。

 焦るあまりカッターナイフを戻す時間も惜しくなって、とりあえずポケットに押し込むと部屋をでた。

 去り際、学習机に鎮座する足型の抜け殻が視界の隅を通過する。


 王子が死ねば自分は助かるわけだしハッピーエンドになるのでは。


 さっきぶつ切れになった問いの続きが頭によぎった。

 王様態度でマリをこき使っておいて、義足が完成した途端に挨拶もなく満足げな顔で死んでいるのではないかという、そんな様子がありありと想像できて、


(夏目さんっぽいな、すごく……)


 端的な感想を思い浮かべて戸口を通り抜けた。


 そういうほうがマリたちには合っているのかもしれない。

 実際そうなったときに自分がどう思うのかは、アラーム音のせわしなさを理由に考えないことにした。

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