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片足を返品した人魚姫ですが、承知の上で踊りませんか?  作者: 英志雨
第一章 片足を返品した人魚姫
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「うわ、晴れやがったなあ……」

「うわ、晴れやがったなあ……」


 病院の玄関を一歩踏みだした途端、白い日差しが瞼を強く灼いて目眩がした。

 頭上に広がるのは灰色のスモッグで霞んだ東京の空。

 しかしそんな障壁をものもとせず、灼熱の陽光が降り注ぐのだから夏というのは残酷だ。

 こぼれた汗が目じりを襲撃し、溶けだした日焼け止めが目に染みる。

 もともと赤っぽい黒髪が日に焼けてさらに赤みが増してしまいそうで、夏休み後の生徒指導が憂鬱だ。


 七月二日金曜日。

 ついこの間梅雨が明けたばかりだというのに、七月に入った途端かんかん照りになるなんて聞いていない。

 こんなことなら薄手の膝かけにするんだった。

 涼しくて陰気くさい病院に舞い戻りたい衝動にかられながら恨めしげにアスファルトを眺めれば、二匹のミミズが干からびて死んでいる。


 病院から続く細い裏道を進んでいくと坂道にでくわす。

 座面からずり落ちないように座りなおすと多少の速度調整をしてから下り始めた。

 この道はごみごみとした住宅街を左右にすっぱりと割いていて、海を切り裂いた聖人の気分になれる。

 そのうえ坂道の終着点には青ぼんやりとした富士山まで見えるので気に入っていた。

 今日は背景にどでかい入道雲のおまけつき。


 お婆ちゃんは車椅子で坂道なんて危ないと叱るけれど、この道はびっくりするくらい人通りがなくて移動しやすい。

 結果、マリは通院に好んでこの道を使っているのだが。


「朝は工事なんてしてなかったのに……」


 ガガガガ、と掘削機の音がリズミカルに響いてしかめっ面を揺らした。

 誘導係のお兄さんが額に汗を浮かべつつ、へこへこと頭を下げて抜け道を指し示す。

 通ったことはないけれど、抜け道として提示されるからにはそのうちこの通りに戻れるのだろう。


 まあこんな日もある。乳白色の入道雲と青白い富士山に別れを告げて、マリは行き先を切り替えた。


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