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片足を返品した人魚姫ですが、承知の上で踊りませんか?  作者: 英志雨
第二章 そこは世界を目指すバスルーム。
13/54

『みんなで世界にいけますように』

 93、94、95……。


 両手でバーを掴んで半円のバランスボールに片足で乗り、重りがわりの義足を前後にぶんぶんと振りながら目の前の壁いっぱいに貼られたメモを眺める。


『身体は一枚板』『肩・腰・足は全部一緒に動かして』『腰から上が遅れない』『←俺の足だけ走って逃げました』『求む・お兄ちゃんの足』『←ばか言ってないで練習しろ』『ケイが怒った怖い』『ケイちゃんはもっと笑顔になったほうがいいと思いまーす』『←同意』『←激しく同意』『お前らうるさい』『うるさいって言ったほうがうるさいんだばーか』『ユウスケは基本急ぎすぎ。足下もっと静かに、ボールの位置ちゃんとそろえろ、ライズ甘い、ロアーは休けいじゃないんだもっと上体引きあげろあれじゃまるでしこ――紙が足りない口で言う』『ごめんなさいもう許して』


 他にもいろいろと書いてあるが、よく見るとちゃんとした注意書きは半分くらいで、残りの半分はよくわからない落書きだ。

 壁の一番高いところには拙い文字で、


『みんなで世界にいけますように』


 暇つぶしがてら流し読みをしていたが、すぐに興味を失って視線をはずした。

 字が幼いので小学生くらいのメモだと思うが一人だけかわいげのない子どもがいる。


(98、99、100……っと)


 指定された回数をやり終えてバランスボールから飛び降りた。

 つけていた義足をはずし(これは足にあっていない試作品だ。重さに慣れるためにつけているのでこれで歩こうものなら激怒される。傷ができるとかなんとかで)立てかけていた松葉杖を引っつかむと時計を見あげた。

 しかし時刻は四時二十七分で止まっていたので腹時計でだいたい昼頃だなと当たりをつける。


「夏目さーん、お昼一緒に食べなーい?」


 ドアの閉まっているマッドサイエンティスト工房に声をかけるも返事がない。

 来たときに一度工房の中から「練習してろ」という声を聞いたので生きているのは確かなのだが。

 仕方ないなあと松葉杖で近くまで行き、


「夏目さんったら、聞いてるの?」


 杖先でごんごんと叩いてみると「う」という短い呻き声が聞こえた。

 入っていいという合図だと勝手に解釈してドアをあける。


「ぎゃっ」


 工房の明かりはついておらず、パソコンのディスプレイが机に突っ伏した夏目の顔を蒼白く照らしていた。

 夏目はフェルトペンを握りしめ、紙はもちろん机や壁、そして試作品の足に至るまで数式などが書き連ねてある。

 何かの呪詛かダイイングメッセージにしか見えない。


「どうしちゃったのこれ」


 手探りで電気をつけ、夏目が胸に抱きかかえていたメモ用紙がわりの義足を奪い取ると「足関節がうまく動かない」とよくわからないことをもごもごと。

 詳しく訊いたところでわからないことは明白だったので無視して机周辺を片づけていく。


「お昼ご飯食べようよ。来るときにパン買ってきたんだよ。夏目さんのぶんも」

「無理」


 いらないじゃなくて無理ってなんだ。

 夏目が「くあ」とあくびをしながら明かりを疎むように目を細める。


 義足の型取りから三日目。

 ここ数日スタジオに通い詰めてわかったことは、夏目の生命力はミジンコ程度しかないということだ。


 会ったばかりのときはマリを被験者として誘うためにそれなりに動いていたが(それでもやっぱり死人みたいだった)、あれはかなりのレアケースだったようで、基本的にはこうして腐乱死体みたいにへたばっていることのほうが多い。

 予想通り食事という概念もないようで、時折り固形のラムネを口に入れては「グルコースさえあれば脳は動く」とのたまう始末。

 この猛暑を乗り越えられるのかすらマリには疑問だ。


「今日何日」

「え? 十三日だけど」

「そうか」


 再び「くあ」とあくびをした夏目がおもむろに立ちあがり、工房の隅に置いてあったものを持ちあげると不機嫌そうに吐き捨てた。


「でかけるぞ、月島」

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