小説を書き始めて5年
「まーた書いてんの? その読まれない小説」
「うるさいわね。別にいいじゃない」
余計な口出ししてきた同居人……と言うと怒るから同棲人、いや、今はただの同居人でいいや。私がパソコンに向かって無料小説サイトに投稿する話を書いていたら、後ろからのぞき込んできた。
「勝手に見ないでよ」
「なんでネットで世界中に発信してるくせに、俺に見られるのは嫌がるんだよ」
「ヤなものはヤなの」
ネットで顔の見えない相手に読まれることと、よく知っている相手に読まれることは、全くの別物だ。パソコンの画面を隠したら、同居人はすごく嫌な顔をした。
「よくやるよ、金になるわけでもないし、読まれもしない話を、一生懸命書いてるんだから」
「ちゃんと読む人いるの!」
「なに、少しはブクマ増えたの?」
「増えてない……けどっ!」
失礼な男に噛み付く。少ないことは否定しないけど、ゼロじゃない。でも、例えゼロでも譲れないものはある。
「この作品は、私の"好き"をたくさん詰め込んでるのっ! 私が読んでるのっ! 私が読んで、"なんでこんな良い所で止まってるの"って思っちゃったら、続き書くしかないでしょっ! 他の誰も書けないんだから!」
私の心の底からの叫びに、目の前の男は大きくため息をつきやがった。
「……よく分からん」
「なんでっ!」
本当にこの男はムカつく。大体、分からないなら余計な口出ししてこなきゃいいのに。私は腹が立って仕方ないのに、なぜか男は笑った。
「ま、でもさ、俺も結の書く話、好きだよ」
「……へ?」
「数少ないブクマの一人、俺だから」
「…………へ?」
顔がボンと赤くなる。私が小説を書き始めて5年。初めて知る真実である。
「い、いつから……?」
「んー、多分最初のブクマが俺だと思うけど」
「んなっ!」
私はいきり立った。それは絶対知りたくなかった。
「初めてブクマついたーって喜んでたのにっ!」
「喜んでりゃいいじゃんか。何がダメなんだよ」
「ダメなものはダメー!」
とりあえず叫んだ。初めて知った事実が恥ずかしすぎる。なのに、今までの「自分が読みたいから」ってだけじゃなくて、目の前の読者のためにも書きたいって思っちゃってるんだから、世の中は不思議だ。