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レジェンドオブアストラル  作者: ゆきみだいふく
アストラルの秘密

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プリンセスナイトとオルトロス

「ちょっと食べ物買ってくるねー」


 インベントリに食べ物はしまってあるが、こういうところでしか食べられないものを食べるってのもいいと思い、シロウは席を立った。闘技場の中や外に露店とかあったのを思い出す。しばらく知り合いの試合もないし、今のうちにちょっと買ってこようと思った。


「騎士君、ついでにホットドッグ買ってきて!」

「シロウ様、クレープをお願いします。いちごの方で」

「私はチョコバナナを」

「私もユキちゃんと同じ物を」

「お兄ちゃん、リンゴ飴をお願いします!」

「ルリちゃんと同じ物をお願い」

「私は紅茶を頼むわね」

「じゃあ私は焼きそばを」

「私はわたあめを」

「かき氷を」


 多い多い。うちのメンバーだけじゃなく、カナミとサツキまで注文している。


「りょーかい。それじゃあ買ってくるね」


 観覧席から離れ、通路を抜けて階段を降り、闘技場の外に出る。

 闘技場の外には屋台がずらりと並び、今回のお祭りイベントに乗じて、プレイヤーたちも店を出しているようだった。売っているものは飲食類だけじゃなく、武器や防具、ポーションなどのアイテムや果てはここでソルーコインと交換したと思われるアイテムまで売っている。当然、馬鹿みたいな金額が付いていたが。


「さー、いらはい、いらはい! 安いで、安いでー! あの有名造形師によるオリジナルロボが木製モデルで登場や! なんと完全変形して飛行形態にもなるんやでー! 闘技場の記念に定額の二割引や、持ってけドロボー!」


 元気溌剌な関西弁に目をやると、【魔族族】の女性がハリセンを叩きながら商売に汗を流していた。


「おおっと、そこの兄ちゃん! どや、買こうていかんか、これ! 男の子なら憧れるやろ!」


 グイッと、木で作られたロボットを渡される。ズッシリとして確かにカッコいい。変形をするみたいだ。ブースターとか細かいところも動くんようになっている。

 これは男心をくすぐる。


「なかなか……いいですね」

「せやろ! これな、簡単な差し込み式で作れるんや。色も自分で塗れるし、武器セットもあるから好みにカスタマイズできるんやで!」

「へえ、それはすごいですね」

「すごいやろ! 買って損はないで! まいどあり!」

「どうも。……って、まだ買うとは言ってないですよ」

「ちっ」


 危ないところだった。シロウはうっかり買わされそうになった。そもそもこれ結構な値段だった。 正直言って高い。買えなくはないが、シロウは買うか迷う。


「こんな値段で売れるんですか?」

「作ってるやつがプロのモデラーやさかいな。その金額ならめっちゃ安い方やで。リアルの方やったら出すとこ出せばン十万はするからなあ」

「やばいですね」


 そんなにするのなら買おうかと思い始めた。


「こっ、これっ! 三つ下さい!」

「へい、まいどありー!」

「えっ?」


 シロウの横にいた客のプレイヤーが商品に驚きつつ、三つも買っていった。

 観賞用、改造用、パーツ組み換え用、壊れた用、保存用とかだろうか。


「あそこだ! いたぞ、こっちこっち!」

「え?」


 後ろを振り返ると、鬼気迫る表情でこちらへと爆走してくるプレイヤーたちがいた。


「姉ちゃん、三つくれ!」

「こっちもだ!」

「押すな馬鹿野郎!」

「順番、順番にやでー! お一人様三個までや! おおきに!」


 あっという間に店に詰め寄ったプレイヤーたちが商品を手に金を出してくる。ウィンドウて交換すればいいのにと思ったが、こういう多人数で品物を渡す場合、現金化した方が早いのかもしれない。


「お姉さん、一つください」

「おおきに!」


 シロウは迷った末に一つ買うことにした。


「シロウくんも男の子なんだねー」


 幼い子供の声が投げられる。振り返るとラピスがこっちを見ている。


「ラピス、どうしたの? えーっと、ノインさんの応援をしないでいいのかい?」


 試合に出場する選手は基本的に一人だ。付き添いなどは不可で控え室には入れない。だからてっきりラピスは観客席でノインの応援をしているのだと思っていた。


「シロウくんの応援しに来たんだー!」


 (元気いっぱいなのは微笑ましいけど僕は出場者じゃないよ?)


「そろそろだね」

「そろそろ?」


 (そろそろってなにさ。まったく話が通じないんだけれど。どうしたもんか)


「シロウくん、大変だけど頑張ってねー!」


 なんだかわからないけど不安になるからやめたまえ)


「それやめて、って……え?」


 次の瞬間、ふっ、と足下がなくなり、シロウは落下するような感覚に襲われた。しかしそれも一瞬で、すぐにふわりとした浮遊感に包まれる。


「え、なになになに?」


 暗闇になり、シロウは落下する。

 落ちていく感覚だけが延々と続き、やがて暗闇を抜けたと思ったら、地面に背中から叩きつけられた。


「うへ!?」


 長い間落下したように思えたが、一メートルほどの高さから落ちたようだ。ダメージはない。

 空は青く澄み渡っているが、見渡す限りの荒野。それだけならまだよかったが、地面の至るところには様々な剣や槍、斧や刀などが突き刺さり、まるで墓標のようだ。

 絶対に闘技場ではない。いったいどうなってるのやら。

 訳がわからず混乱する。ラピスが何か起こるような口ぶりだったが、何か知っているのだろうか。


「きゃあ!?」


 呆然としながらも立ち上がったシロウの前に、突然女の子が落ちてきた。


「えっ、セレナ?」

「あいたた……。シロウ様? えっ、ここどこですか?」

「おいおい、ここはどこだよ!?」


 驚きの表情で、セレナが座ったままキョロキョロと辺りを見回す。なんでセレナとレメまでここに……。


「どわっ!?」

「きゃっ!?」

「ひゃっ!」

「……っ!?」

「えっえっえっ!?」

「……っ!?」

「のあっ!?」

「どわっ!?」

「どひっ!?」

「……っ!?」

「おわっ!?」


 どさどさどさどさっ! とシロウらの周りに11人の人物がセレナと同じように落ちてくる。驚くべきことに、そのうち六人までがシロウの知り合いのプレイヤーだった。


「なっ!? なんなんだいここは!?」

「……まったくあの人達には困ったもんですよ」


 カズハは何が起きたのかわからず驚いている。それに対してヤエは何か知っているのかやけに冷静だった。


「ここは……」


 呆然と佇む銀髪で水色のローブを羽織った美女。腰には細身の剣を下げた、【氷帝】だ。

 さらには【炎帝】、【雷帝】もいる。

 他にはミナトにミヤビ、ヒカル、セイジに【カレイドブラッド】のツカサとノウェムがいる。


「…………」


 十三人が突然わけのわからない空間フィールドに拉致された。


「シロウここはどこなんだい? なんで僕たちはこんなところに?」

「いや、僕にもさっぱりで……。闘技場の外で知り合いと話してたら突然ここへ……」


 カズハが僕に尋ねてくるが、シロウにだってなにが起こっているのかわからない。ミヤビがマップウィンドウを開き現在地を確認している。


「ダメだね。ここはシークレットエリアみたい。どこなのかもわからないわ」

「ちょっと聞きたいことがあるんですけど、ヤエさん達の仕業ですか?」

「なぜ、私達がこんな面倒なことをしなきゃいけないんですか。まあ知っていると言えば知ってますけど。知ったところでキミ達は忘れちゃうから意味がないんですけどね」

「それはどういうことですか?」


 忘れるとはどういうことなのか。まるで知っている口ぶりのようだ。


「僕達がここに転移させたのは、ヤエさん達じゃないんですか?」

「私達が原因だと言いたいんですか?」

「だって、ヤエさん達のバックには七冠セブンクラウンズがいるので、能力を使ってるんじゃないかなって……」

「信じてはもらえませんけど、今回は私達は何も関わっていませんよ」

「ふん、どうだか何か企んでいるんじゃないのか?」

「まあ……やってきたことがことですし、疑われても仕方がないですが、本当に関わってないですよ」


 正義感の強いヒカルはヤエ達が何か良からぬことを企んでいるんじゃないかと疑っている。

 少なくとも嘘をついているような感じはしないが、PKをやっているので信用はできない。


「まあまあ、ここは一旦落ち着くッスよ。まずは状況を確認しようッス。ついでにみなさん初対面の人たちもいるんで自己紹介も兼ねながらやっていくッスよ」


 ピリピリとした雰囲気を【雷帝】が払拭してきた。


「おっ、それはナイスアイデアだよ! 確か名前は……」

「ライカッスよ。みなさんは自分の通り名をご存知だと思うッスけど【雷帝】って呼ばれているッス!」 


 ライカは元気いっぱいな女の子だ。


「自己紹介なんて時間の無駄。今はこの状況をどうにかするべき」


 冷たくクールな女性だ。まさに【氷帝】にふさわしい通り名だ。


「まあまあ、そう言わずに氷帝ちゃん」

「氷帝じゃない。……ナギサ」


【氷帝】の頭上に【ナギサ】と名前がポップした。ネームプレートをONにしてくれたらしい。


「ナギサちゃんね。それじゃあ次は私だね。私はミヤビ! よろしくねー♪」

「僕はカズハだ」

「私はミナトだよー! みんなよろしくー!」


 ミヤビ、カズハ、ミナトが自己紹介し、続いてシロウ達も紹介する。


「シロウです」

「セレナと申します」

「レメだぜ! よろしくな!」

「ホムラだ」

「ヒカルです。よろしくお願いします」

「セイジです。みなさんよろしくお願いします!」


 改めて見ると全員が上位プレイヤー達に入る錚々たるメンバーで、【炎帝】のホムラもいる。


「ヤエです」

「俺はノウェムだ! よろしくな!」

「ツカサだ。みんなよろしくー♪」


 続いて【カレイドブラッド】のメンバーが紹介する。

 反応は微妙でなんとも言えない雰囲気だ。


「どうして僕達がここに転移されたのか。気になるが、何か気づいたことはないだろうか?」

「ここにいる全員は上位に入るプレイヤー達だってことぐらいしかないですけど……関係があるんですかね? ただ……ヤエさん達がいるのかまでは知らないですけど」


 シロウが気づいたことといえば、ここにいる全員は上位のプレイヤー達だ。

 どうして【カレイドブラッド】であるヤエ達がいるのかまでは分からない。

 他にあるといえば自分とツカサが七冠に選ばれた【プリンセスナイト】と【プリンスナイト】だ。

 七冠との関係関連。


「シロウ?」

「えっ? あ、すみません」


 思考の海に沈んでいた意識がカズハの声により急浮上する。


「他には何か気づいたことがあるのかい?」

「いえ、分からないです」

「シロウ様、大丈夫ですか?」

「え? あ、ごめん。ちょっと考え事してたもんだから」

「ここへ呼び寄せられた理由……」

『ゴガァァァァァァッ!!』

「ッ!?」


 シロウらの思考をぶった斬るように、辺りに突然大地を震わすような咆哮が響き渡る。

 振り向くと、荒野の向こうから巨大なモンスターがこちらへ向けて悠然と歩いてくるのが見えた。

 黒い毛並みと大きな体躯、たてがみと尻尾が蛇で、赤く光る目を持つ犬の頭が二つ。双頭の黒犬だ。


「オルトロス……!」

「オルトロス?」

「ギリシャ神話に出てくる双頭の魔犬。ケルベロスの弟で、英雄ヘラクレスが退治した怪物です」


 オルトロスを知らないようなのでシロウはセイジに説明した。

 黒犬のモンスターに視線を合わせると、その頭上に【オルトロス】とネームプレートがポップして、すぐに消えたのだった。


 To be comtinued

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