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レジェンドオブアストラル  作者: ゆきみだいふく
アストラルの秘密

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プリンセスナイトと幽霊屋敷2

 セレナとレメが飛ばされたのと同様にシロウもまたどこかに飛ばされていた。


「えっと……セレナ、レメ?」


 シロウが周りを確認するものの二人の姿はない。

 シロウがいるのはどこかの部屋だった。

 扉が外れてしまったクローゼットに、埃の積もったベッド。シーツはボロボロになっており、床はところどころめくれている。


「探さないと!」


 シロウが外へ出ようとドアノブを掴むが、ひねってもガチャガチャと音がするだけで扉は開かない。

 鍵穴もなく、開かない理由は分からなかった。


「んっ……壊せるかな? 試してみようか」


 シロウはそう言いつつ剣を扉に向ける。

 その時背後でギシッと音がして、シロウは振り返った。

 すると、まるで夜闇を固めて形作ったようなどこまでも黒い影がのっそりと起き上がっているところだった。


「【ホーリーアロー】!」


 シロウは急いで魔法を放った。

 黒い影は倒れていった。

 光属性の魔法なら幽霊に効果がある。

 そして影が消えていくとともに後ろでガチャリと鍵の開いた音がした。


「開いたのかな? 鍵穴はなかったけど」


 メイプルはドアノブをひねる。

 すると先程とは違い、ドアはするりと開いた。


「やったね。出られる」


 シロウはまた閉じ込められないようにと急いで部屋から出た。


「足元に気をつけながらセレナを探そう。また飛ばされても嫌だしね」


 シロウはぱたぱたと走って廊下を進んでいった。

 さて、その頃セレナとレメはというと転がり込んだ部屋にあった机の下に隠れて震えていた。

 外には出るに出られないため、シロウをひたすら待つしかなかったのである。


「そ、そうです……メッセージ」


 セレナはシロウにメッセージを送った。

 書かれていることは助けて欲しいというようなことだけで、これが状況を好転させる要素は一つもなかったがセレナはそんなことに気づかない。


「しばらくはここにいましょう……」

「そうだな」


 セレナの言うしばらくとはシロウが来るまでを示していた。

 ようはずっとと同義である。


 ただ、そんなセレナを見逃してくれるようにこのエリアはできていない。


 ぎいっ、と音を立てて部屋の扉が開く。

 机の下にいるセレナとレメからは見えないものの確かに何かが歩いてくる。

 それを聞いて、セレナとレメは両手で口を塞ぎ息を止めて気配を殺す。


 傷んだ床がぎしぎしと音を立てる。

 音はゆっくりと机の方に近づいてきて、ついにセレナの目の前に青白い足が見えてくる。


「……っ!!」


 通り過ぎることを祈るセレナの願いが届いたのか、人のものとは思えない足は、そのままセレナの前を通り過ぎていった。


「…………」


 セレナが安心したその時、メッセージを受信した音が鳴った。


 優しいシロウが返信しない訳はなかったのである。


 急速に迫る足音に、セレナは机の下から転がり出て、ばたばたと部屋から抜け出した。


「シロウ! シロウ! 助けてくださいっ!」

「セレナ、落ち着けよ!」


 壁から地面から伸びる手と、血にまみれて体の抉れた子どもの霊だった。


「【加速(アクセル】!加速、加速!」


 セレナとレメは滅茶苦茶に走って、また別の部屋へと入った。

 しかし、そもそも溢れかえる霊を撒くことなどできはしない訳で。

 迷子になってなお走り回るセレナはより奥へ奥へと迷い込んでいった。


「ひぐっ……すんっ……っ」


 逃げて逃げて、部屋を移って移って。

 そうしているうちにセレナは何度もあの冷たい腕に捕まっていた。

 そもそもまともに逃げられてすらいないのが現状である。


 セレナは霊がオークやゴブリンの見た目をしているなら、触れてくる腕を躱し続けることも容易な程の能力を持っている。

 ただ、それを発揮できなければ少し素早い程度のよくいるプレイヤーに過ぎないのだ。


 セレナの【AGI】は既に四分の一にまで減少していた。

 普段とは違った感覚がただでさえ下がっている回避能力をさらに下げてしまっている。

 そのため、セレナの捕まるペースは次第に早くなっていた。

 さて、そうして遂に完全に心が折れたセレナは、クローゼットの中に閉じこもって、目を閉じて震えているのである。


 セレナにクローゼットの中にいると、返信はいらないことを添えてメッセージを送り、もう自力生存の文字は頭の隅にもなかった。


「シロウ……すん……きて……」

「セレナ、大丈夫か?」

「無理、もう帰りたい……」


 すんすんと鼻を鳴らして呟くセレナにレメは困った。

 セレナがこんな状態になるとは思っていなかった。



 この時二人にゆっくりと近づいてくるものが二つあった。

 一つはセレナを追い込んでいる霊であり、もう一つはようやくセレナのいるフロアに来ることができたシロウだった。

 偶然にもようやく近づいてきたシロウは一つ一つ部屋を探索していた。


「セレナがどこにいるか分からないよー。部屋を見て回ってるけどいないし……でもやられてもないみたい」

 シロウは行く先にいる霊全てに、魔法を叩きつけてきていた。


 そんなシロウの前に血塗れの子どもの霊が現れてゆっくりと近づいてくる。


「うっ……成仏してくださいっ!【ホーリーアロー】」


 魔法を放つと子供の霊は消えていった。

 シロウはログアウトができなくなっていることに気がついた。


「これセレナが言ってた……ってことはセレナとレメはここのどこかにいるんだ」


 シロウはようやく着いたと、小さくガッツポーズする。


「でも……んー、セレナ大丈夫かな」


 シロウは今まで探索した場所よりも見た目が怖い霊が出てきたのを見てセレナの身を案じる。


「うん。絶対大丈夫じゃなさそうだね、探さないと」


 少し考えてこの結論に至ったシロウは、雰囲気の変わった廊下を、警戒しつつも急いで進む。


「セレナは……返事しないよね」

 シロウは【気配察知】を使い耳を研ぎ澄ませて、セレナの声がしないか注意しつつ、探し出す。


「セレナに近くまできたことは伝えておこう」


 シロウはセレナにメッセージを送ってまた、捜索を再開した。

 シロウが送ったメッセージがセレナに届く。

 セレナはそのメッセージを読んで、差し込んだ希望の光に助かったという表情を見せる。


「あ、足音……!シロウ?」

「嫌な予感がするぞ」


 足音は部屋の前で止まり、扉が開く音がした。

 扉を開けて右手の壁にはセレナのいるクローゼットがある。


「ちょっとだけ……」

「やめておいた方がいいと思うぞ」


 セレナはクローゼットの扉を少しだけ開けて入ってきた人を確認する。

 不思議なことに、セレナはこの時入ってきた者をほぼ間違いなくシロウだと信じていた。

 それはもうどうしても助かりたいと思っていたために起こった判断ミスだったのである。


 細長い腕、血の気のない肌。

 初めて見た顔、長く伸びた前髪の向こうにあるはずの目は既になく、真っ黒な穴からはどろりとした濁った血が涙のように流れ出ていた。


 二人と霊は一瞬ではあるものの確かに目が合った。

 合ってしまったのだ。


「「ひっ……!」」

 慌ててセレナがクローゼットを閉めるが、床を踏みしめる音が近づいてくる。

 レメも霊と目が合い、思わず悲鳴を上げる。


「や、やだ、やだ!」

「シロウ、早く助けてくれー!」


 セレナが震える手で扉を抑えるが、ゆっくりとそれは開いていく。

 そして、そこでは霊の暗い暗い目の跡が隙間から二人をじっと見つめていた。


「あ……」

「ひー……!」


 セレナから一切の力が抜けて、クローゼットの床にぺたっと座り込んでしまう。

 扉は開ききり、霊がゆっくりとセレナに手を伸ばしてくる。

 霊の周りには黒い影が溢れ出し、眼窩がんかからはどろどろと血が零れ落ちてくる。


「ごめんなさい……ごめんなさい……」

「こ、こっちに来るなー!!」


「っ!【ホーリーアロー】【防護障壁】」


 セレナとレメがもうどうしようもなくなって謝り始めたとき、開いていた扉から飛び込んできたのはシロウだった。

 魔法を放つと不気味な黒い影はパッと消えた。


「セレナ、レメ大丈夫!?」


「うっ、ううぅ……シロウぅ……」

「うっ、ううぅ……怖かったぞ……」


 セレナとレメはクローゼットから出て、シロウにしがみついた。


「よかった……けど、これどうしよう」


 シロウが顔を上げると、障壁の上からあの霊がさらににまとわりついてきていた。


「わーお、すごい見てくるんだけど」

「うえっ……ぅう……えぐっ……」

「うっ、シロウ、なんとかしてくれ」


 シロウがしばらくそうして霊に見つめられたまま座っていると、セレナとレメも徐々に落ち着いてきた。


「シロウ……まだいる?」


 セレナが顔を上げずにシロウに聞く。


「うん、まだいる」

「うぇぇ……早くどこか行ってくれないかよ……」


 二人の声は少し震えが残るもののいつもの調子に戻ってきていた。


「どう、落ち着いた?」

「落ち着いたけど。恥ずかしいから顔は見ないで……」

 セレナはシロウに泣き顔をばっちりと見られた訳で。

 隠れていないセレナの耳は真っ赤になっており、顔も同様かそれ以上に赤くなっていることはシロウにも想像できた。


「分かった。けど……そこまでして欲しいスキル? だったの?」


「止めておけばよかったと後悔してるところです……本当に。もしかしたら大丈夫かもって思った自分を殴りたいです……」


 セレナ曰く、スキルに目が眩んだとのことだった。


「珍しいね。セレナが見誤るのって」


「あんまりにも欲しいものが並んでたからつい……。でも落ち着いて頭冷やしたらなくても何とかなるスキルでした」


「結局セレナの欲しかったスキルってどんなの? ちゃんと聞いてなかったよね」


 シロウがそう言うと、セレナは欲しいと思っていたスキルやアイテム、ここで起こったあれこれなどについて知っていることを話し始める。

 シロウはそれを聞いて、自分に役立てられそうなものは少ないことが分かった。

 必要ないものは取りに行かないでよくなるため、今後の探索の効率を上げることができる。


 しかしシロウは探索そのものを楽しんでいるところがあるため、行かないとも言いきれなかった。

 面白そうと感じたなら出向くこともあるかもしれないのだ。


 こうして話をしている間に霊がどこかに行ってくれないかと思っていたシロウだったが、霊は頑なに動こうとしない。

 そろそろ障壁をの効果が切れる時間だ。このままというわけにもいかない。


「怯ませているうちに脱出……セレナ、できる?」


 シロウはセレナだけでも逃げられないかと提案してみたのだ。

【AGI】はセレナの方が早い。


「えっと……だめそうです」


 それは【AGI】がゼロになっているからというだけではないことは間違いなかった。


「どうしようかなー? えっ?」


 シロウ達からなかなか離れようとしなかった霊は、突然二人からふらっと離れてそのまま部屋から出ていく。

【気配察知】でプレイヤーがいることに気がついた。霊は標的を変えて別のプレイヤーを狙いに行ったようだ。



「チャンスだ!行こうサリー!」


「えっ、えっ?う、うん!」

 顔を伏せていて状況が飲み込めていないセレナの手を引いて、駆けていく。


 背後からは代わりに霊の餌食になってくれた者の声が聞こえてくる。

 新しく入ってきた誰かが狙われて上げている声に、サリーは自分もああだったのだろうとまた少し顔を赤くした。


「っ、だっしゅーつ!」


 シロウは覚えていた道を最短で帰って、とうとうログアウト可能な場所まで戻ってきた。


「ありがとうございました。シロウ様」

「シロウありがとな!」

「えへへ……どういたしましてー!」


 戻ってきたことを喜ぶ三人。


 その背後から、冷たい腕が伸び三人をまとめて抱きしめる。


「ひっ……!」

「んっ!」

「ひゃー……!」


 三人が驚き一瞬固まったところでスキル獲得の通知がきた。


「えっと……【冥府の縁】? あ、セレナがアイテム効果が二倍になるって言ってたスキルだ」


 シロウがスキル内容を確認する。

 その場にへにゃっと座り込んだセレナも、同じスキルを手に入れることができているようだった。


 スキルに書かれているフレーバーとして、時折背後からそっと手を貸してくれる誰かとの奇妙な縁というものがあった。


「う……そんな縁いりません」


「どうするセレナ? 次の探索まだ僕付き合えるよ」


「ログアウトする。帰る」


 即決でセレナが答える。


「あはは、だよね、じゃあバイバイ?」


 シロウが小さく手を振ってみる。


「今日はありがとうございました。埋め合わせは必ずするので」

「いいよいいよ、今までお世話になってるし」


 シロウがそう言って笑うと、セレナも少し表情が明るくなった。


「ありがとうございます。じゃあ、また次のエリアに行く時にでも」

「そう言ってまた戻ってきたりして」

「しませんよ……流石に」


 この会話を最後にしてセレナはログアウトして帰っていった。


 To be comtinued

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