第9話 アイテムボックスからチートボックスへ!
設計者は自己紹介した。未だに気持ちの整理が追いつかない、俺が会いたかった【アイテムボックス】の設計者が巨大な女の子だったなんて。
「マギーレウス、今マギーレウスって言ったのか?」
「そうさ。君が目的としていた禁断の地の名前だよ。そもそも禁断の地なんて、そんな土地は存在しないよ。ここは僕の家さ」
「だから禁断の地がマギーレウスっていう名前なのか。でも……まさか女の子だとは」
「何も不思議なことじゃないよ。占いの老婆は設計者の性別までは言ってないだろ?」
「あの老婆と知り合いなのか?」
「そうだ。面白い男が来るから楽しみに待っておれと聞かされていてね。どんな男かと思ってみたら、僕の想像を遥かに超えてて驚いたよ」
「それは……一体どういう意味で?」
マギーレウスは窓にその瞳をぐっと近づけた。怖いからやめてほしい。
「もちろん、凄い意味でだよ!」
「あぁ、そうか。それはそうと、あんたが設計者なら、ぜひお願いしたいことがあって」
本来の目的を思い出して、俺は設計者に【アイテムボックス】の修復をお願いしてみた。
「あぁ、修復だね。容易いことだよ、やろうと思えばすぐにできるんだけど……」
マギーレウスはすぐに了承してくれなかった。
「あの……まだなにか?」
「いや、本来なら【アイテムボックス】の修復は、莫大な報酬がかかるんだよね。君の所持金からしたら足りないと思うけど……」
「ま、まさか……」
マギーレウスも占い師と同じか。やっぱり金貨が必要になるのか。だけど俺にはもう金貨はない、占いで一枚使ってしまった。
「はは、安心してよ。君の手持ちくらいは察しているから」
「そ、それでは一体どうしたら?」
「さっきも言ったけど、君は僕の想像を遥かに超えた逸材だよ。もしかしたら、歴史を塗り替えるかもしれない」
「歴史を塗り替える?」
「そうさ。君は【アイテムボックス】に好かれている」
「【アイテムボックス】に好かれている? この俺が?」
突然の言葉に俺は戸惑った。
「【アイテムボックス】内に入れるのがその証拠だよ。【アイテムボックス】に入れるのは、どうも君だけのようでね」
「あ、そういえば……」
そうだった。思えば俺が初めて【アイテムボックス】スキルを初めてもらった頃から、当たり前のように中に入って遊んでいたことがあるが、よく考えたら俺だけしかできない能力だった。
同じ【アイテムボックス】持ちでもできることと、できないことがあるらしい。それは俺の祖父からの遺言だった。
祖父も【アイテムボックス】持ちだった。【アイテムボックス】には禁じられた能力、秘密がある。祖父はそれを知っていた。俺は幼い頃にそれをこっそり教わっていたっけ。
「君は【アイテムボックス】の隠された能力を知ってしまった。そしてそれを当たり前のように使っている。正直こんな事例は初めてなんだ」
「そうなんですか。でも、そう言われても実感がわかないな」
「そうか、そうか。だがそんな人間だからこそ、僕も俄然興味が湧いてきたんだ。そこで僕から提案がある」
次の瞬間、窓の外に会った巨大な瞳が消えた。そして俺の目の前に、丸い球体に乗った可愛らしい少女が現れた。
「うわぁ!? ま、マギーレウス?」
「そんなに驚くなよ。さすがにこれから先の話は君と直に対面で話した方がいいからね」
「……一体何が望みなんだ?」
「結論から言うと、【アイテムボックス】のさらなる秘密を解き明かしてほしいんだ」
「さらなる秘密って……」
「そうだ。実は、僕は先代の【アイテムボックス】設計者から、【アイテムボックス】の管理だけを任されていてね」
「せ、先代?」
マギーレウスが信じられないことを言った。そして下をペロッと出した。
「黙っていてごめん。僕は管理者に過ぎないんだ。本物の設計者はすでにこの世にいなくてね」
「なんだって!? じゃあ俺の【アイテムボックス】は……」
「安心してよ。修復はちゃんとできる、だから話を最後まで聞いてくれ」
俺は怒りをこらえてマギーレウスの話を聞くことにした。
「先代の設計者は言っていたんだ。【アイテムボックス】の秘密を解き明かせば、様々な奇跡を巻き起こせる【チートボックス】になるってね」
「ち、【チートボックス】? なんてネーミングなんだ」
「変な名前かもしれないけど、僕は見てみたいんだ。【チートボックス】をね」
なるほど。俺が【アイテムボックス】の秘密を解き明かし、最終的に【チートボックス】に変貌させればいいんだな。
「できるかどうかわからないが、俺にはほかに選択肢はないな」
「そういうことになるかな。いや、もしかしたらもうなっているかもしれないよ。まぁ僕は君だったらできると信じてるよ」
「期待してくれてありがとう。それじゃ、引き受ける。どんな奇跡だって起こして見せるさ!」
「よーし、交渉成立だね。それじゃ、まずは【アイテムボックス】の修復だ。〈リペアー・スタンリー・アイテムボックス〉!」
マギーレウスが呪文を叫ぶと、俺の頭の中が真っ白になった。そして俺は気を失った。




