第8話 アイテムボックスの設計者の正体
「スタンリー、助けてくれ!」
突然の助けを求める声に、俺は目を覚めた。
「みんな!?」
だけど目を覚めても、誰もいない。俺は見知らぬ場所にいた。
「ここは……どこだ?」
俺が眠っているのは、ベッドというよりかは台に近い。布団もない、だけど妙に生暖かく心地よい感覚だ。
そして周りを見ると、俺が要るのは半球状の狭い個室だ。室内には照明器具もないのに、妙に明るい。
まるで見当もつかない場所だ。見覚えがない、だけどなんというか不思議と懐かしい感じもする。俺はここに来たことがあるのか?
というか、俺はそもそも何をしていたんだっけ?
「確か俺は魔の森に来て、それから【アイテムボックス】に入ってひたすら歩き続けて……〈次元穴〉に落ちた!?」
「その通りだよ」
突如誰かの声が聞こえた。周囲を見回すも、誰もいない。
「誰だ? 一体どこにいる?」
「別の部屋さ。君が〈宇宙〉で彷徨っているのを見つけてね、ここに連れ込んだのさ」
「う、〈宇宙〉……だって?」
声の主は変なことを言い出した。
「〈宇宙〉というのは、【アイテムボックス】の外側に広がる空間のことさ。君はそこに落ちてしまったんだ。それにしても驚いたね、まさか生きた人間が漂流するなんて」
「あ、あの……一体何の話をして?」
「もしかして自分でも信じられない? まぁ無理もないか、僕でもわからない部分が多いからね。とにかくそんな部屋じゃ窮屈だから、僕の部屋に来て」
自分の部屋に来るよう促すも、俺はどうしたらいいか迷った。今いる俺の部屋は出入口らしいものが見当たらない。
「あの、どこから出ればいいんです?」
「おやおや、君は【アイテムボックス】内に入れるんだろう? ならば中に入って前に歩き続けるんだ、そうすれば僕が引っ張り出してやるから」
「ひ、引っ張り出す? 本当にできるのか?」
「僕にできないことはないよ。僕は君が会いたかった設計者だからね」
「せ、設計者!?」
俺は耳を疑った。確かに俺は【アイテムボックス】の設計者に会うために、歩き続けていた。
まさか本当に到着できたのか、『禁断の地マギーレウス』に。そして【アイテムボックス】の設計者もすぐそこにいる。
しかも声の感じからして女の子っぽい。一人称が僕だから、俗にいう“僕っ娘”だ。一体どんな見た目をしてるんだろう。
「何をぼぉっとしてるんだ? 僕に会いたいのか会いたくないのか、どっちだい?」
「もちろん会いに行くさ。ちょっと待ってて、ゴー・イン・アイテムボックス!」
俺は【アイテムボックス】に入った。見慣れた真っ白い空間が広がる。俺は言われた通り、前へ歩き続けた。
「そこで止まれ」
突然設計者が声を掛けた。まだ歩き始めて五分も経っていない。言われるがまま立ち止まると、俺の体が急に軽くなった。
「うわぁ、なんだ!?」
次の瞬間、俺は変な場所へ飛ばされた。さっきまでの殺風景の部屋とは違い、ベッドが置いてある。
普通の宿の一室といった感じだ。本棚や照明器具、テーブル、そしてさらに食事まで用意されていた。
「これは……食べていいのか?」
「もちろんさ。そのために用意したんだからね」
「ありがとう。じゃあ、遠慮なくいただくよ」
俺は椅子に腰かけた。目の前には豪華な食事が用意されている。空腹だった俺は無我夢中で食べ始める。【アイテムボックス】の設計者がどんな人間なのか気になるが、まずは腹を満たそう。
「いい食べっぷりだね。やっぱり人間を観察するのは楽しい」
「え? 人間?」
俺は思わず食事を止めた。そして窓の方に目をやった。何やら大きな物体が動いている。まるで木の幹のように見えたけど、肌色をしている。それが何本も水平に動いていた。
いや、よく見たら木の幹じゃなかった。
「ゆ、指!?」
「そう、僕の指さ」
直後、またも設計者の声が聞こえた。するとその太い棒のさらに先にある黒い球体が急に消えた。と思ったら、再び現れた。その黒い球体の正体を察して、俺は鳥肌が立った。
「今のは……まばたき?」
「ふふふ、ここの窓から君の姿を見ているんだよ。安心しな、食べたりはしないから」
「うわぁあああああ!!」
俺は思わず椅子から転げ落ちた。全て察してしまった。今いる俺の部屋の外に、巨大な女の子がいる。その女の子が俺を閉じ込めて、じっと俺のことを観察している。
信じられない。僕っ娘、ということでも驚きなのに、なんで背丈がこんなにでかいんだ。いや、俺が小さくなってんのか。
「まるで化け物でも見るかのような反応だね。それが設計者に対しての礼儀?」
「なんだって!? まさかあんたが!?」
「いかにも。この僕こそ、君が会いたかった【アイテムボックス】の設計者、マギーレウスだ」