第7話 スタンリーは付与魔法も使えてた?
今回も『白銀の彗星』側の視点です。
フェリーナは動揺するしかない。自分にはそんな能力がない。確かに【アイテムボックス】持ちではあるが、【アイテムボックス】の中に人間を入れるなど彼女にはできなかった。
「どうしたんだ? 一体何をグズグズしてる?」
「……できないわ」
「はぁ? できないだと!?」
「【アイテムボックス】の中に入るなんて不可能よ。そんな芸当、聞いたこともないわ」
「何言ってんの? スタンリーは普通にやってたのよ、あなたにできないことは?」
「そんなこと言われても……」
「うわぁ、ミスリルゴーレムが!」
ガッシュが叫んだ。ミスリルゴーレムが巨大な岩石を持ち上げようとしている。どんな攻撃が来るか、彼らも察した。
「まずい! おい、早く入れろって。できねぇことはねぇだろ?」
「そうよ。スタンリーと同じく、〈ゴー・イン・アイテムボックス〉って叫べば!」
「……わかった、やるわ。〈ゴー・イン・アイテムボックス〉!」
フェリーナはダメもとで叫んでみた。しかし何の反応もない。
「そんな……噓でしょ!?」
「くそぉ! こうなったら……」
ゲイルは振り返り、再び剣を構えた。
「駄目よ、あいつは異常に強い! 勝ち目はないわ」
「そんなことねぇ! ていうか強化が切れただけだ。早く付与魔法掛けなおせって」
「何言ってんの? さっきかけたばかりよ!?」
「な、なんだと!?」
ゲイルの考えをメアリーが否定した。すでに付与魔法で強化されていた。ゲイルは混乱してしまう。
「……こうなったらアレを使う!」
フェリーナが叫んだ。彼女が【アイテムボックス】から、特大の魔法爆弾を取り出した。
「おい! そんなもの爆発させたら、この鍾乳洞が!」
「このままじゃあいつの攻撃を喰らうだけよ。ならダメもとで……やるしかない! みんな急いで逃げて!」
三人とも戸惑ったが、ほかに選択肢はなかった。そして三人が走り去ったのを見て、フェリーナは魔法爆弾をミスリルゴーレムに向けて投げた。
直後、ミスリルゴーレムも岩を投げた直後だった。間一髪、フェリーナの魔法爆弾がその岩に直撃、巨大な爆発が起きた。
ドォオオオオオオン!!
フェリーナも急いで逃走をはかった。しかし逃げる途中、崩落してきた岩盤が彼女の行く手を遮ってしまった。
「こ、こんな場所で……」
*
爆発が起きて数分後、ゲイル達はからくも鍾乳洞内から脱出した。しかしフェリーナだけ鍾乳洞内に取り残された。
「くそ、あの女! 何が【アイテムボックス】持ちだ、肝心な時に役に立たねぇなんてよ!」
「ゲイル、怒ってないでフェリーナを助けに行かないと!」
「無駄だ、もうそこら中崩落している。今頃助けに言ったって、とっくに下敷きになってるだろうぜ」
「そんな……それじゃ見捨てるってのか?」
「あの女が悪いんだろ? なんで【アイテムボックス】内に入れなかった? まさかのスタンリー以下だなんて、あり得ねぇだろ」
「……ねぇ、今更だけどさ」
メアリーは何かを悟ったかのような顔で質問した。
「まさか【アイテムボックス】内に入れたのって、彼だけの能力じゃ?」
メアリーの言葉は一瞬ゲイルには受け入れがたかった。
「はは、何言ってやがる!? そんな馬鹿なこと……」
「俺も聞いていいかな。今日に限って妙に敵の防御が硬すぎだと感じた。メアリーはちゃんと付与魔法使ってたよね?」
「当たり前でしょ、馬鹿なこと聞かないで!」
「じゃあ、やっぱりこれも杞憂ならいいんだけどさ」
「なんだよ、ガッシュ。一体何が言いたい?」
ゲイルは苛立ちを隠せない様子でガッシュに問い詰める。
「いやもしかしてだけど、スタンリーは付与魔法も使えてたんじゃ?」
「んなわけねぇだろ!? てめぇは正気か!?」
「でも、そう考えたら全て納得がいくよ。ミスリルゴーレムだって、スタンリーがいた頃はそんなに苦戦しなかったし」
「だぁ!! おい、メアリー! お前も黙ってないで、何か言い返したらどうだ? 戦闘スキルも使えないスタンリーが付与魔法なんて使えるわけがねぇ!」
「……戦闘スキルだけでしょ、使えないのは?」
メアリーは冷静になって言い返した。
「……なんだと?」
「よく思い出して。彼は戦闘スキルは使えないって言ったの、付与魔法は別に戦闘スキルじゃないわ。じゃあ使えてたって不思議じゃない」
「お、おいおい。メアリーまで何言ってやがる? 揃いも揃ってあんな欠陥【アイテムボックス】持ちをかばってよ」
「かばってねぇよ。付与魔法は重複するって知ってるだろ? 重複されることで俺達のステータスは何倍も強化される、だからスタンリーの付与魔法がなくなったと考えたら……」
ガッシュもメアリーの援護をした。ゲイルは何も言い返せなかった。
ゲイルもうすうす感じていた。今日に限って確かに自分の動きにキレがなかった。ミスリルゴーレムとの戦いでそれを実感していた。
「……だぁ、もういいよ! それより町に戻るぞ、また新手の【アイテムボックス】持ちを探さねぇとな!」
ゲイルの言葉に賛同して、三人とも引き上げようとした。
しかし歩き始めた直後、ゲイルに異変が起きた。
「ぐわぁあ!?」
突然何かに襲われたのか、出血を伴い倒れこむ。
「気をつけろ、何かいるぞ!」
「なんですって? ちょっと待って……ウィンドカッター!」
メアリーが風の刃を巻き起こした。空を飛行していたモンスターが刃に斬り刻まれ、地面に落下した。
落ちたのはコウモリタイプのモンスターだった。
「こいつは……スニークバットじゃないか!」
「ガッシュ、気配探知はあなたの仕事でしょ! ボォーっとしてるんじゃないの!」
「わかってるよ、ごめん。ちょっと待ってほかには……」
ガッシュは【気配探知】スキルを使った。そして次の瞬間、ガッシュは青ざめた。
「なに、どうしたのよ?」
「……囲まれた」
「なんだと!?」
ゲイルも立ち上がり周囲を目を凝らして見回す。すると、周囲の木々の枝の上に百匹近くのスニークバットの群れが止まっていて、自分達を包囲していた。
「なんだよ、これ! おい、ガッシュ! 一匹だけならともかく、これだけの数を逃すなんてどうしたんだよ!?」
「そ、そんなこと言われても……」
ガッシュは思い出した。スニークバットは元々気配を殺して忍び寄るモンスター、本来なら通常の【気配探知】スキルでは探知が不可能だ。
しかしスタンリーがいた頃は、ちゃんと探知できていた。理由は一つしかない。
「あいつの付与魔法で俺の【気配探知】スキルも向上していた。でもあいつがいなくなってしまった今は……」
メンバー達は絶望する。こんな状況でも、スタンリーの【アイテムボックス】で安全に逃走できた。今ここにきて彼らは、スタンリーを外したことを後悔した。