第6話 白銀の彗星、まさかの苦戦!?
『ミゾリア町』から西に約30kmほどの場所に、大量の魔石が採掘できる鍾乳洞があった。その鍾乳洞の奥の広場にて、Aランクパーティー『白銀の彗星』はモンスターの討伐に勤しんでいた。
「アイアンリザードの群れも、大体片付いたな」
ランクBのモンスター、アイアンリザードはもはやAランクの彼らにとって敵ではなかった。ランクA随一の剣の使い手ゲイル、魔道士のメアリー、さらにシーフのガッシュの連携が冴えわたっていた。
そして新たに加入したフェリーナも、ただの【アイテムボックス】持ちではなく、弓の使い手だった。三人が倒しきれなかったアイアンリザードを、片っ端から遠距離による矢の攻撃で仕留めて行った。
「はは、全くすげぇぜ。今まで以上に狩れている。あいつがいなくなって正解だ」
「本当ね。フェリーナが弓の使い手でよかったわ。前任者はただ傍観していただけだから」
「それはどうも……でも【アイテムボックス】持ちだからと言って、戦闘スキルがないのはさすがにね」
「全く。今まで損してたぜ、なんであんな奴に頼っていたのか」
「おまけに穴開きの【アイテムボックス】だしね。それじゃフェリーナ、倒したアイアンリザードの戦利品の収納頼むぜ」
フェリーナはアイアンリザードの牙や鱗などの戦利品を【アイテムボックス】内に収納していった。
だがその最中、ガッシュは浮かない顔をしていた。
「どうした、ガッシュ? 気分でも悪いのか?」
「いや、なんか今日のアイアンリザード、妙に硬い気がしたんだが……」
「何言ってやがる、お前は元々前衛向きじゃないだろうが」
「そうだけど……いつもなら俺のナイフでも一撃なんだよね」
「そうか……まぁそれよりほかにモンスターがいないか、【気配探知】で探ってくれ」
ガッシュは疑問をぬぐい切れないまま、モンスターの気配を探りに行った。
「さて、今日はこの辺で戻るか」
「そろそろ魔の森のモンスターも討伐したいわね。あそこにいるというSランクモンスターを倒せば、私達もすぐに昇格できるわ」
「はは、メアリー。慌てるのは禁物だぜ、Aランクパーティーは俺たち以外にいねぇ。まだ準備を万全にする時間と余裕はあるさ、それに新しいダンジョンも出現したっていう噂があるらしい」
「新しいダンジョンですって?」
「あぁ、ここから北の方角に行った場所だ。確か『地下迷宮ヴァルゴ』……」
ドシィイイイン!!
突如、鍾乳洞内が轟音とともに揺れた。
「な、なんだ? 今の音?」
「みんな! こっちに来てくれ!」
ガッシュがしゃがんで声を掛けた。ガッシュのもとに駆け寄ったメンバーは岩陰に隠れ、顔を出して前方の様子を見た。
「あれは……ミスリルゴーレムじゃねぇか!」
目に入ったのは、全身を濃緑色に輝くミスリル銀で出来た巨大なゴーレムの姿だ。
「ミスリルゴーレム!? Aランクモンスターがなんでこんな場所に? 討伐依頼も出てなかったわ」
「なんでもいいさ。おいメアリー、ミスリル製の杖欲しかったよな?」
「えぇ、そうね。やっちゃう?」
「なんですって? まさか倒すつもり?」
フェリーナはゲイル達の会話の内容が信じられなかった。Aランクのミスリルゴーレムを倒すということが。
「何言ってやがる? あんな奴敵じゃねぇ、この前も倒したしな」
「あぁ、スタンリーがいた頃ね。しかもあの時と違って、今回はフェリーナもいるんだし楽勝でしょ?」
「いや、そんなことは!」
「おいおい、何ビビッてやがる? ったく、これだから【アイテムボックス】持ちは」
ゲイルもメアリーもすっかり倒せる気でいる。するとガッシュがフェリーナのそばに寄って耳打ちした。
「安心しな。危なくなったら、例の手で逃げればいいだろ?」
「え? 一体何の話を……?」
フェリーナはガッシュの言っていることが理解できなかった。しかし聞き返そうとした矢先、ミスリルゴーレムの目が強烈に光った。
「しまった、気づかれたぞ!」
ミスリルゴーレムは体の向きを変え、攻撃態勢に入った。
「メアリー、奴の弱点は知ってるな?」
「雷でしょ。〈ライトニングランス〉であんな奴、一撃よ」
メアリーは余裕の表情を浮かべ、ミスリルゴーレムに杖の先端を向けた。そして先端から強烈な雷の槍が飛び出した。
「〈ライトニングランス〉!」
巨大な雷の槍がミスリルゴーレムの胴体に直撃した。爆発音とともに煙が立ち込める。
「やったわ! 呆気ないわね」
「いや、まだ倒してないよ」
「なんですって?」
煙がおさまると、ミスリルゴーレムはまだ健全と立っていた。
「ったくしょうがねぇな。おいガッシュ、今度は俺達二人がかりで行くぞ!」
ゲイルは剣を構え勢いよく走り出した。そしてガッシュもそれに続こうとしたが、フェリーナが咄嗟にガッシュの手を掴んだ。
「おいおい、何だよフェリーナ!?」
「さっきの話の続きよ。例の手って、一体何の話してるの?」
「はぁ? 【アイテムボックス】の中に入るんだよ、それで安全に逃げられるだろ?」
「なに? 【アイテムボックス】に……入る?」
フェリーナはガッシュの答えに混乱してしまう。【アイテムボックス】の中に入る、そんな芸当はフェリーナにはできなかった。
「くそ! 一体どうなってやがる!?」
ミスリルゴーレムに攻撃していたゲイルが叫んだ。彼は攻撃の手を止めなかったが、一向にミスリルゴーレムは倒れる気配を見せていない。
「ゲイル、なんで手加減してんのよ?」
「手加減なんてしてねぇよ! なんで攻撃が通らねぇんだ!?」
「嘘……どういうこと?」
様子が明らかにおかしい。ゲイルは手を抜いているように見えない。そしてミスリルゴーレムに何度も強烈な一撃を食らわしている。
にもかかわらず、ミスリルゴーレムは倒れない。
「あのミスリルゴーレム、もしかしたら前会った個体より強い奴じゃ?」
ガッシュは震えながら口走った。
「ミスリルゴーレムは魔法生物よ。魔法生物は個体差がそこまで激しいモンスターじゃないわ」
「そんな……じゃあ一体!?」
「危ない、ゲイル!」
メアリーの声が叫んだ。次の瞬間、ミスリルゴーレムの巨大な右拳が地面をたたき割った。
「ぐわぁあ!?」
地響きが起きる。咄嗟に攻撃をかわしたゲイルだったが、ミスリルゴーレムの攻撃で鍾乳洞内が強く揺れ、崩落した岩盤が直撃した。
「ライトニングランス!」
すかさずメアリーがミスリルゴーレムに攻撃を仕掛ける。しかしやはり効いているように見えない。
「どうなってんの? あいつ、強すぎるんだけど……」
「くそ! 撤退だ、撤退するぞ!」
ゲイルが号令した。するとみんなが一斉にフェリーナの近くへ走ってきた。
「なにやってんの、フェリーナ? さぁ、【アイテムボックス】に入れて!」
「ま、まさか……そんな、私の【アイテムボックス】は……」