第5話 禁断の地マギーレウスへ
正午過ぎ、俺は『ミゾリアの町』を出て、ひたすら北西の方角を目指していた。俺が行くべき場所はただ一つ、『禁断の地マギーレウス』だ。
「なんであんな危ない場所に……誰一人帰ってこない場所って言われてるのに」
ほかに選択肢はなかった。さっきの老婆の占いの最後で言われた言葉を思い出した。
「『禁断の地マギーレウス』に行きなされ。そこには、【アイテムボックス】の設計者がいる。お前さんの【アイテムボックス】の欠陥も、すぐに直してくれるだろう」
【アイテムボックス】の設計者、その言葉をにわかには信じられなかった。【アイテムボックス】は無限にアイテムを収納できる便利なスキルだ。
このスキルは俺が子供の頃、スキル授与の儀式で授かった特別な能力だ。まさかそんなスキルの設計者がいるだなんて思わなかった。
俺は仄かな期待を抱いた。設計者となれば、【アイテムボックス】について誰よりも熟知しているはずだ。当然俺の知らないことも。
穴も修復して元通りにしてもらえるはずだ。でもそのために、超危険な魔の森を抜け、さらにその先にある『禁断の地マギーレウス』に行かないといけない。
もし老婆が嘘を言っていたら。【天啓】スキルだなんて、ただの客引きのためのデタラメなのでは。そんな考えも浮かんだ。
いや、余計なことは考えるな。信じるんだ、ここで変に迷ったら多分同じことの繰り返しだ。危険は承知でも行くしかない。
「着いたな。ここが魔の森か」
考えながら歩き続けていたら、いつの間にか魔の森の入口まで来ていた。
『この先【魔の森】、Aランク以上のモンスター出現可能性あり! 低ランク冒険者は立ち入り禁止!』と書かれた看板が置いてあった。
『禁断の地マギーレウス』も危険だが、その前に広がる魔の森も危険地帯だ。この魔の森に生息するモンスターはAランク以上ばかり、Sランクモンスターもいるという。正直Aランクパーティーでも苦戦が予想される。
俺も元Aランクパーティーだったが、この魔の森には入ったことはない。それほど危険な場所だ。ここを抜けるというのか。
だけど、俺には裏技があった。
「あれを使うか。〈ゴー・イン・アイテムボックス〉!」
俺はとりあえず【アイテムボックス】内に避難した。そしてひたすら前方へ歩き続ける。
一見すると無意味に見える行動も実は意味がある。なんと俺の移動とともに【アイテムボックス】も移動している。行ってみれば、乗り物になっているんだ。
そしてこの【アイテムボックス】内にいれば、モンスターは襲ってこない。非戦闘職の俺がこの魔の森を抜けるとしたら、もうこの方法しかない。
老婆も言っていた。
「お前さんは【アイテムボックス】に入れるのだろう。魔の森の入口に着いたらその中に入って、ひたすら前へ歩き続きなされ。一時間くらいで辿り着く、いいかい決して止まるんじゃないよ」
騙されたつもりで俺はひたすら歩き続けた。でも一時間か、長いな。
確かに安全だが、外の様子がわからないのが不便だ。今どこにいるかもわからない。前いたパーティーのメンバーからも、外の様子がわからない以上、使い勝手が悪いと批判された。
頼りになるのは【時間測定】のスキルだけか。俺は非戦闘職、戦闘系のスキルはない。でも【時間測定】のスキルは使える。これで正確に時間が測れる、まさかこんな場面で役に立つなんてな。
「……よし、五十五分か。あと五分……え?」
歩き続けついに残り五分となったその時、妙な悪寒が走った。
背後から何かが近づいていたように感じた。俺は恐る恐る後ろを振り向く。
「まさか、穴か!?」
なんということか、【アイテムボックス】内で生じていた巨大な穴が、俺のすぐ後ろまで迫っていた。俺は確かに前へ歩き続けていたはずだ。
まさか、穴も一緒に移動していたというのか。信じられない。俺は一瞬立ち止まってしまった。
「しまった、老婆は止まるなと言ったんだ!」
俺は再び歩き続けた。穴のことは気にしては駄目だ、とにかく前へ歩かないといけない。あと五分なんだ。
そして再び【時間測定】のスキルを使った。ピッタリ一時間となった。これでもう大丈夫なはずだ。
「ゴー・アウト・オブ・アイテムボ……」
だけどそれ以上言えなかった。なんと直後俺の体は、不思議な無重力の空間に飛ばされてしまった。周りが暗黒の世界、俺は【アイテムボックス】の巨大な穴の中に吸い込まれたのだ。
俺は心の中で老婆を憎んだ。やっぱり、インチキ占い師かよ。俺も生きて帰ってこれなかった冒険者の一人にすぎなかったわけか。
次回は追放パーティー側の視点です。