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第4話 下された天啓の言葉

 【天啓】スキル、俺は一瞬その言葉に耳を疑った。噂で聞いたことがある程度だが、どんな悩み事も天からのお告げによって、解決策を教示してくれるというものだ。


 だけど噂だけで、そんなスキル持ちなんかいないと思っていた。事実俺も会ったことはない。


「その反応を見ると、会ったことがないんだね」

「はい。あの……どんな悩みでも解決できるんですか?」

「そうさ。ならばあんたの悩みを解決して、証明して見せよう」

「ありがとうございます! ではお願いします」


 俺は深々と頭を下げた。しかし老婆は右手の手の平を前に差し出す。


「誰もタダで聞いてあげるだなんて、言ってないんだがね……」

「あ! そうでした、すみません。えぇと……」


 うっかりしてた。あくまで老婆も仕事なんだから、金が必要なのは当然だ。


「……これだけですが」


 俺はおそるおそる金貨一枚を、老婆の手の平に乗せた。しかし老婆は渋い顔のままだ。


「一枚じゃ駄目だね」

「え? ってことは……」


 老婆は左手の人差し指と中指を立てた。


「二枚!? そんな……今の手持ちは」

「ないんじゃしょうがないね。私だって仕事なんだから」


 なんということだ。法外な金を要求するとは聞いていたが、まさか金貨二枚もかかるだなんて。


 甘く見ていた。老婆も妥協するつもりはなさそうだ。どうするべきか。


 そうだ。あと金貨一枚だけで占ってもらえるなら、今すぐギルドに戻って簡単な依頼を済ませればなんとか足りる。


「わかりました! あと金貨一枚なんとか用意します! 一旦出ますね」


 俺はそう言って、占い屋を出ようとした。


「ちょいとお待ち!」


 老婆が声を掛けて制した。振り返ると老婆は立ち上がって、真剣な顔で俺を見つめていた。


「……お前さん、『白銀の彗星』から追放されたんだね?」

「え? どうしてそんなことまで?」

「私は占い師さ、【鑑定】スキルも磨いていてね。私の目が節穴じゃなければ、お前さんは恵まれているよ」

「め、恵まれているって?」


 老婆の言っていることがよくわからない。と思ったら、急に俺の目の前までやってきた。そしてオーブを両手に持ったまま、じっと見入った。


「おぉ……これはなんと!」

「あの、なにが映し出されているんですか!?」

「ふふ……お前さん、ついてるね。出ていく必要はないよ」

「え? っていうことは……」

「出血大サービスだ。金貨一枚だけで引き受けてやるよ」


 まさかの展開だ。わけがわからなかったが、すぐに喜びに変わった。


「ありがとうございます! じゃあ、お願いします!」

「とりあえず座りな」


 老婆に言われるがまま、俺は対面の椅子に座った。そして老婆も座った。


 老婆はまるで獲物を仕留める冒険者のように鋭い目つきになり、オーブに手を翳す。そして目を閉じた。


「……まずお前さんの悩みを言い当てよう。【アイテムボックス】を修復してほしいんだね?」

「は、はい! その通りです」


 さすがは占い師、わざわざ説明する必要もなく簡単に言い当てるなんて。


「残念だけど、いくら私でも【アイテムボックス】の穴を修復して元に戻すなんて芸当はできやしないね」

「そんな……それならどうしたら?」

「安心しな。さっきも言ったが私には【天啓】スキルがある。今からお告げを聞かせてあげよう」

「はい、わかりました……」

「ちょっと時間がかかる。いいかい、声を出すんじゃないよ。レームミア・ファンザリケ・キド・マゴロッペン・フッザピエ……」


 老婆が妙な言葉を唱え続けた。恐らくこれが【天啓】スキルなのだろう、意味はさっぱりだがこれでお告げが下されるのか。


「…………ベゾ・ミゴラッカルピ・フーダ・エ・セムビシカ!」


 五分くらいかかったが、老婆が詠唱の言葉を止めた。すると目の前のオーブから、強烈な光が発せられた。俺は思わず目を閉じた。


「これがお告げですか!?」

「静かに! 今下されてるんだ……ふむふむ、おぉなんと……」


 光が止んだ。俺が目を開けると、老婆は目を閉じたままうんうんと頷いていた。


「話しかけていいですか?」

「あぁ、大丈夫だ。もう終わったよ」

「それじゃ、一体どんな内容だったんです?」


 直後に老婆から聞かされたのは衝撃の内容だった。


「き、禁断の地『マギーレウス』に!?」





 ミゾリア町の酒場、その前には赤い屋根が特徴の宿がある。Bランクパーティー『白竜の翼』の一員が、戻ってきたタウナの報告を聞いていた。


「その話、本当なの? あのスタンリーさんが追放されたって?」

「スタンリー・フォーゲルって言えば、『白銀の彗星』の一員だったろ? どんな理由で追放されたっていうんだ?」

「それはわからないわ、でも私達のパーティーにとっては好都合よ。一応彼には声を掛けたからね」


 剣士のタウナは意気揚々と、スタンリーをスカウトしたことを語った。だけどほかのメンバーは浮かない顔のままだ。


「どうだろうか。ほかのパーティーからもスカウトされてるだろ? なにせ元Aランクパーティーだ」

「それにさ、追放されたって言うのが気になるよね? 【アイテムボックス】持ちを追放するだなんて、よほどの事情があったと思うけど……」

「またトールの二の舞にならないか心配よ」


 もう一人の女性メンバーのジュディが呟いた。タウナも動揺した。トールとは元メンバーの【アイテムボックス】スキル所持者だ。


「トールのことは忘れなさい。彼は元々臆病者だったから……」

「でも一昨日まではやる気満々だったぜ。それが昨日になって、突然何かに怯えるようなビクビクしだして……」

「今朝になって失踪。もういやんなるわ」

「一昨日のヒドラとの戦いがこたえたんだろう。あれは相当強敵だったからな」


 メンバー全員が元メンバーへの嫌味をため息交じりに話す。


「彼は……スタンリーはトールのようにはならないわ! 私は信じてる!」


 タウナは強気に主張した。タウナの迷いのない目を見て、ほかのメンバーも少しばかり気持ちが落ち着いた。


 だけどジュディだけは浮かない顔のままだ。彼女にはトールが失踪した原因について、心当たりがあった。


(あの噂嘘だったらいいんだけど、【アイテムボックス】の最大の欠陥、〈次元穴ディメンションホール〉……)

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