第34話 国王陛下からの要請
ガタン、ギシン、バタン
物音が聞こえ俺は目が覚めた。
「朝……か? なんか妙に冷えるな」
朝日が俺の顔に当たっていた。どうやら本当に熟睡していたらしい、すっかり朝になっていた。
でもすぐに異変に気付いた。
「あれ……服を着ていない?」
なんと俺は服を脱いで寝ていた。服が全部床に落ちていた。
どういうことだ。脱いだ記憶はないのに。そわそわとベッドの横に右手を伸ばした。
すると何やら柔らかいものを触った。人の肌のような感覚がした。横を向くと、信じられないものを見てしまった。
「ふぇ、フェリーナ!?」
なんと俺の横で寝ていたのはフェリーナだった。それだけではない。
フェリーナも同じく何も身に着けず寝ている。どういうことだ、頭が真っ白になった。
「……思い出した。昨夜フェリーナが入ってきて」
うっすらとだが記憶が蘇る。寝ぼけていたが、俺の部屋にフェリーナが入ってきた。
そしてそのまま一緒に寝た。マギーレウスは言っていたな、「素晴らしい夜を満喫したまえ」って。
一体マギーレウスが何をしたのかはわからないけど、その言葉通りになってしまった。なんてことだ。
それにフェリーナは「借りを返していない」とも言っていた。なるほど、これでチャラになったというわけか。さすがだ。
コンコン!
突然部屋のドアをノックする音が聞こえた。まずい。こんな状況を見られたら、怪しまれる。
「おはようございます。スタンリー様」
誰かと思ったら、王宮の執事の声だ。
「あぁ、おはよう。どうしたんだ、こんな朝早くに?」
「突然申し訳ございません。今お時間よろしいでしょうか?」
「いや、今入られるとちょっと困るんだ。要件なら今聞くよ」
「かしこまりました。それでは手短に申します。国王陛下より、大事なお話があるようで、朝食を済ませた後でよいので、謁見の間にお越しいただきたいのです」
「大事な話……?」
「私からは以上です。それでは失礼します」
国王陛下からの大事な話か。内容が気になるけど、とりあえず今は服を着よう。
*
一時間後、朝食を済ませた俺はタウナ達と合流して謁見の間に足を運んだ。そこにアーウィン国王陛下とその皇后もいた。
二人から聞く大事な話、緊張していたが、やはり本当に大事な話だった。
「そなた達に、東にあるアーミスダル帝国へ行ってもらいたい」
「アーミスダル帝国!?」
アーミスダル帝国、その単語には聞き覚えがあった。昨夜の夢でマギーレウスが言っていた。
その後国王陛下から聞かれた内容は、マギーレウスから聞いた内容とほぼ同じだった。
アーミスダル帝国周辺にある幾多のダンジョンの攻略に、タウナ達を派遣するとのことだ。さらにダンジョンを放置したことで生じる被害の大きさについても語った。
すでにダンジョンを放置したことでモンスターが何体も地上に溢れてきて、帝国の騎士軍だけでは対処が難しいとのことだ。
帝国からの要請とあっては、アーウィン国王陛下も断るのが難しい。
いくら新ダンジョンを踏破してSランクに昇格したとはいえ、まだこの前までBランクだったタウナ達に依頼をするのは、半分無謀だとも言える。
だけどリーダーのタウナは乗り気だった。彼女は根っからの戦士、戦いに身を置くことが好きな性格だ。
そしてなんと言っても正義感が高いのだろう、ダンジョンを放置したことで生じるモンスターの地上への氾濫を食い止めないといけないと強く感じているようだ。
「悪いけど、俺は降りるよ」
そんな中断る発言をしたのは、ラーサーだった。意外だ、まさか彼がこんなことを言うなんて。
ラーサーが言うには、自分が言っても足手まといになるとのことだ。確かにシーフは剣士や槍使い、魔道士に比べて前衛には向かない。
【アイテムボックス】持ちの俺よりは戦闘力はあるけど、帝国の周辺にはヴァルゴ以上に深くさらに凶悪なモンスターがいるダンジョンもたくさんいる。
そんな危険な場所には自分が言っても役に立たない。昨日のヴァルゴ攻略で改めてラーサーは自分の非力さを思い知ったのだ。
その判断は英断だと思うけど、タウナにも考え直してもらいたい。でもタウナは決意を変えようとしなかった。
ラーサーが降りることには反対しなかったけど、代わりのシーフは帝国に行けば見つかると思っているのだろうか。
そしてタウナが行けば当然自分達もついて行くと、フィガロとジュディも賛成した。
フェリーナはすぐに同意しなかった。彼女は俺の顔を見た。
「あなたが行くなら、私もついて行く」
フェリーナは俺に惚れてしまった。昨日の夜の会話でそんな感じはしていたけど、まさか本当だったとは。
俺と一緒に行動したい、それがフェリーナの強い思いだ。俺は必死で考えた。
「スタンリーよ、そなたは無理することはない」
国王陛下が俺に声を掛けた。
「聞けばそなたは【アイテムボックス】持ちらしいな。【アイテムボックス】持ちは非力な職だ」
「陛下……」
「帝国周辺のダンジョンは、凶悪なSランクモンスターも蔓延るとのことだ。あまりこんなことは言いたくないが、非力なそなたが行くのは酷かと」
「そのようなことはありません!」
次回で最終話となる予定です。