第32話 国王陛下からの祝福
一時間後、俺達はミゾリアの町へ戻った。最初にやるべきことは決まっていた。ギルドに行って新ダンジョン『地下迷宮ヴァルゴ』を踏破したことを告げた。
周りの冒険者たちは全員半信半疑だった、でも踏破の証を受付嬢のカエデさんに渡したら、途端に手の平を返し、全員が俺達を賛美した。
不思議なことにカエデさんはあまり驚かなかった。まるで俺達なら当然できると信じていたようだ。
その答えはすぐわかった。なんとカエデさんのすぐ後ろに、俺が一昨日であった占い師の老婆がいた。
占い師の老婆はマギーレウスとも知り合いだ。カエデさんも俺の【アイテムボックス】が進化していたと知っていた。
「スタンリーさん、もう一つ大事なアイテムを忘れていませんか?」
「大事なアイテム? もしかして……」
俺は内ポケットに入れていた虹色桃の種を取り出した。
「抜かりはなかったようでなによりです。これでマギーレウスさんもお喜びになりますわ」
「カエデさん、あの少女とどんな関係が?」
「秘密、ですわ」
カエデさんも謎が多い人物だ。
「あの……因みにその種の報酬は?」
「あぁ、失礼しました。報酬はこちらの金貨全てとなります。」
カウンターの上に何百枚あるかわからないほどの金貨が出てきて、俺達は思わず目を見開いた。
「嘘、何この金貨の量!?」
「ちょっと多すぎるんじゃ?」
「何を言っているんですか、虹色桃の種は超貴重品です。報酬はこれでも少ない方ですわ」
「そうなのか。みんな、この量で大丈夫か?」
一応タウナ達にもこの金額でいいか聞いてみた。全員異論はなく即座に頷いた。
「それでは金貨五百枚にて取引させていただきます。お受け取りください」
「あの……もしかしてこれだけ? 私達のランクとかは……」
「その点もご安心ください。『白竜の翼』は今回の偉業を称えられ、Sランクに昇格しました」
「Sランクだって!?」
耳を疑う言葉だ。『白竜の翼』はBランクだったはず。それが一気に二つもランクが上がるというのか。
「当然ですわ。『地下迷宮ヴァルゴ』のボスモンスターはSランクのティアマット、そのティアマットを倒したのであればSランクに相当します」
「私達が……この町で最高ランクになったの?」
「そういうことです。因みに、『白銀の彗星』も踏破に挑んでいましたが、昨日の夜に帰還しました」
「帰還した? それでどうなった?」
「彼らは深手を負っていました。連日の敗走でBランクに降格、新メンバーも脱退したそうです」
俺が抜けたせいもあるのか、今度は『白銀の彗星』の落ちぶれ具合がひどいな。
まぁ今の俺にはどうでもいいことだ。いくら元メンバーとはいえ、もう赤の他人だ。今後は関わらないよにしよう。
「それより皆さん、此度の活躍と功績は大変輝かしいものです。ギルドだけでなく、高貴な方々からも祝福されるでしょう」
「高貴な方々って?」
「話は聞かせてもらいましたぞ」
後ろから男性の声が聞こえた。振り返ると、重厚な鎧を身にまとった騎士団らしき人達がギルドに入っていた。
「あ、あなた達は?」
「我々は王宮近衛兵団。私は総長のガイエルと申します、あなた方の此度の活躍を耳にしました。ぜひ王宮に来てもらいたく存じます」
先頭に立っていた騎士団の総長が代表で喋った。そういえば思い出した。
一昨日酒場で見たギルドの貼り紙の写しに『アーウィン国王陛下から最高級のもてなしと褒美を約束する』と書かれていたんだ。
その最高級のもてなしを受けられる時が来たんだ。もちろん断る理由はなかった。
騎士団に連れられ、王宮に来た俺達は大観衆が拍手で迎えてくれた。騎士団、上流貴族、王族、そして国王陛下と女王陛下。
信じられない。ただの冒険者だった俺が、まさか一国の代表者と間近で接することができるだなんて。
「諸君らの此度の活躍、誠に見事であった。我々も国を代表して諸君らの功績を称え、褒美を授けよう」
国王陛下からの褒美、それは全部俺達の身に余るものばかりだった。
クリスタル製の武器防具、黄金に輝く装飾品、さらに金貨数百枚、正直一生遊んで暮らせるな。
これだけでも驚きなのに、この後で豪華な食事まで用意された。もちろん最高に上手い。
そして宴もたけなわに差し掛かった頃、王宮が用意した豪華絢爛な衣装に身にまとった踊り子たちが現れ、俺達に華麗な踊りを披露してくれた。
忘れられない一日となった。飯は最高にうまかったし、何より踊り子達は本当に美しい女性ばかりだった。
そんな中俺はふと考えた。このまま冒険者を続けるべきかどうか。
今回の新ダンジョン踏破の報酬で俺も一生遊んでいけるだけの金貨をもらった。さらに豪華な装飾品や武器防具ももらった。
タウナ達の分はともかく、俺は非戦闘職だ。俺の分は売って金にすればいい。
これだけの金があれば、正直一生遊んで暮らせるな。冒険者を引退して、モンスターの少ない安全な場所を探し、豪華な家を建てて過ごすのも悪くない。
それに俺は非戦闘職だ、無理なんかする必要ない。その方が俺に似合ってるだろう。
「なにぼぉーっとしてるの?」
フェリーナが声を掛けた。酒が回っていたせいもあるけど、ずっと上の空だったか。
「いや、気にしないでくれ。ちょっと、酔いが回ってきてね」
「……そう」
気のせいだろうか。フェリーナが妙に照れくさそうにしている。
「どうした? 何か言いたいのか?」
「……スタンリー、一昨日のこと覚えている?」
「一昨日のこと?」
「まだ……借りを返していないでしょ」
「借り? あぁ、君を助けたことか。何言ってんだよ、もう気にしなくていいさ」
「でも、それじゃ私の気が済まないわ」
「フェリーナ、君がいたおかげで新ダンジョンを踏破できた。君は今回の偉業に十分貢献してくれた、それで十分じゃないか」
「……スタンリー」
「お疲れでしょうか、スタンリー殿」
衛兵の一人が俺に声を掛けた。思えば昨日から一睡もしていなかった。新ダンジョンを踏破したこともあってすっかり忘れていたが、ここにきて疲れがどっと押し寄せる。
さすがにもうクタクタだ。俺は立ち上がり、衛兵に案内されて用意された部屋へ入った。
王宮の客室ということもあって、内装は豪華なものだ。ベッドもふかふかだ。一流の宿にも劣らない。
多分もう二度とこんな豪華な部屋で寝れないだろう。本当ならもっと堪能したいところだが、疲れと酔いに勝てなかった俺は、そのままベッドに横になり眠りに落ちた。




