第31話 ティアマット討伐!
俺は全員に作戦の内容を伝えた。
「……という内容なんだけど、どうかな?」
「凄いわ。それなら行けると思う」
「はは、やっぱりお前が味方でよかった」
「それ以外にいい方法がないわ。よし、それで行きましょう!」
俺の作戦が採用された。うまくいくとは限らない、でもやるしかない。
全員覚悟は決まった。タウナとフィガロの二人掛かりで、巨大な扉を押し開ける。
扉はゆっくりと前へ動き出した。目の前には巨大な半球状の広間が登場した。天井まで何メートルあるかわからない。
何もいない。でもすぐに感じた。今までに感じたことのない、巨大なモンスターの気配。全員思わず凍り付いた。
そしてそいつは姿を現した。暗闇の中、二つの目だけが遥か頭上に光っていたけど、〈ライトスフィア〉で照らされ徐々にその全体像が浮かび上がる。
「ティアマット……」
「こぉおおおおおおおおお!!」
咆哮が広間に響き渡る。ジュディが思わず怯んでしまった。体長は今まで出てきたモンスターの何倍も大きい。
「マジかよ。なんてデカさだ」
「相手にとって不足なしだな」
「神様……どうかお守りください……」
「みんな、これが最後の戦いよ! 気を抜かないで、全力を出し切って!」
タウナが全員を鼓舞した。
「みんな、さっきの作戦の通りに動くぞ! 準備はいいな!?」
俺も全員に声を掛けた。全員一斉に頷く。
次の瞬間、ティアマットの巨大な口が開いた。その口から真っ赤に燃える炎が噴き出し、俺達に向かってきた。
「〈ゴー・イン・アイテムボックス〉!」
その炎攻撃は、【アイテムボックス】に入ることで封じ込められる。
本番はこれからだ。まずは俺とジュディで付与魔法をかける。
「煌めけ、〈ミリオンドリームズ〉!」
「〈オールエンハンス〉!」
これで全員の能力値が向上した。俺はそのままティアマットの足元まで走り出す。
ティアマットの足元まで来た。見上げると、ティアマットの顔が遥か頭上にある。俺達がいなくなって、キョロキョロと前後左右を見回している。
竜王でさえも予想できない事態のようだ。これならいける、俺は魔法爆弾をティマットの顔目掛けて放り投げた。
ドォオオオオオン!!
うまく行ったか。爆発の煙で何も見えないが、これでティマットの視界はしばらく遮られる。今の内だ。
「〈ゴー・アウト・オブ・アイテムボックス〉!」
全員が一斉に外に出る。俺達の猛攻が始まった。
*
それは一瞬の出来事のようだった。最初の爆発に耐えたものの、ティマットは次々襲い掛かる戦士達の猛攻に手も足も出なかった。
ラーサーがその素早い身のこなしを利用して、ティアマットの背中を駆け上り、強烈な麻痺撃を食らわせ動きをしばらく封じ、タウナ、フィガロの剣と槍の奥義が連続でさく裂した。
それだけでは終わらない。今度はフェリーナが後方から強烈な矢の一撃を放った。しかも矢には魔法爆弾もぶら下がっており、刺さった直後に爆発した。
とどめはジュディの魔法だ。魔力が大幅に上がったジュディの〈ライトニングランス〉でティマットの喉元に直撃させ、さらに追加でスタンリーが魔法爆弾を大量に投げ飛ばした。
〈ライトニングランス〉と、大量に誘爆した爆弾により、ティアマットは一切の反撃ができないまま倒れた。最後は無残な竜の焼死体だけが残った。
スタンリー達は激戦に勝利した。全員しばらく何も言えなかった。
*
「……勝った、の?」
「そう……みたいだな」
「嘘だろ? 本当にティマットを倒したのかよ?」
全員呆気にとられていたけど、ようやく勝利を確信したようだ。
「信じられないわ。本当に私達が……」
「スタンリー、あなたのおかげよ」
「はは。いや、みんながちゃんと動いてくれたおかげだ。俺こそ礼を言わせてくれ、ありがとう」
タウナが俺のそばに寄ってきた。
「全くあなたって人は、どこまで謙虚なのよ」
「本当です。魔法爆弾もいつの間にか最大級の威力になってるし」
「最初の炎攻撃だって防げなかった。普通あそこで全滅だぜ」
「作戦を提唱したのもあなたよ。だから、あなたが最大の貢献者」
「はは……そうか……うぅ!?」
緊張の糸が途切れて思わず倒れこんでしまった。さっきの一撃の影響か。
「どうしたの、スタンリー?」
「大変! 凄い出血じゃない!」
「攻撃を喰らっていたのか。全くお前さんこそ無茶しすぎだ」
「はは、俺は非戦闘職だからね」
ポーションを使って傷を治癒した。実は俺が今生きているのは、女神のペンダントのおかげだ。
最後の魔法爆弾を放り投げたとき、実は俺はティアマットの攻撃を喰らっていたんだ。なんと奴の足の爪先に猛毒が塗られていたようで、それが直撃したんだ。
女神のペンダントで状態異常を無効化できたのが、幸いした。何とか猛毒にはならず魔法爆弾を放り投げられた。本当に危なかった。
タウナの判断はまさに英断だったな。まぁ結果論だけど、後でタウナと二人きりになったらそれを明かそう。
「それよりティアマットを倒したんだから、討伐の証を……」
その時だった。突如目の前にあったティアマットの体が光り出した。
「なに、なんなの!?」
「まさか、まだ生きてるのか!?」
「冗談じゃないぜ! さすがにこれ以上は……」
「違うわ。あれを見て!」
一瞬絶望したが、よく見るとティアマットの体は徐々に消え去った。そして死体があった場所に、何やら奇妙な模様が描かれた石板が宙に浮いていた。
タウナが恐る恐る近づいて、それを手に取った。そして再び、強烈な光が走った。
「……勇者たちよ。そなたらの力と戦いぶり誠に見事なり。その功績を称えヴァルゴの証を授けん」
何やら野太い謎の声が響き渡り、タウナの持っていた石板が黄金に輝いた。その石板の中央にはティアマットの絵、そして上には『ヴァルゴ踏破の証』とはっきり書かれていた。
「やった……やったわ! 遂に踏破の証を手に入れたわ! 私達のものよー!!」
タウナが石板を持ち上げ叫んだ。フィガロとラーサーも歓喜の雄叫びをあげた。
俺達は遂に成し遂げた。人生で一番の偉業を成し遂げてしまった、『白銀の彗星』時代でも成し遂げられなかった新ダンジョン踏破という偉業を。
「見て! 転移装置があるわ」
ジュディが広間の奥を指差した。確かに地面から突起物がある、転移装置のようだ。でもここが最深部なのは間違いない。
「最深部にある転移装置、行先は決まってるな」
俺達は全員転移装置のそばに寄った。タウナが装置に触れると転移装置が起動した。
次の瞬間、ダンジョンの外へ出た。久しぶりの地上の空気を吸い込んだ。こんなに地上の空気がおいしいと感じたことはない。
「朝日よ」
気づけば東の空から太陽が昇っていた。丸一日近くダンジョンに潜っていたのか。
「綺麗……朝日ってあんなに綺麗だった?」
「きっと太陽も俺達を祝福してくれているんだろう」
「そうね。帰りましょう、ミゾリアの町へ!」




