第26話 最高級のアクセサリーをゲット!
フェリーナが指示した。俺もそれに従うことに異論はなかった。
(付与魔法を使え!)
また声か。今度の指示は、合言葉じゃない。付与魔法を使えとはどういうことだ。
待てよ。俺はなんとなく察しがついた。
「どうしたの、スタンリー? 早く宝を外に出して」
「ちょっと待ってくれ、試したいことがあるんだ」
「試したいこと?」
「煌めけ、〈ミリオン・ドリームズ〉!」
俺は声に従い、全員に付与魔法をかけた。
「スタンリー、今のは何なの!?」
「黙っててごめん。実は今のが俺の付与魔法さ」
「はぁ、今のが付与魔法ですって!?」
「聞いたことない呪文だわ。付与魔法の類は普通〈エンハンス〉が定型句のはずなのに」
やっぱり全員信じられないような顔をしている。俺もこの呪文だけは祖父から教わったものだ。
祖父が言うには、この呪文で全員の能力を一時的に向上させることができる。モンスターとの戦いの際には、常に唱えるようにと言われた。
「ラーサー、これでもう一回【鑑定】してくれるか?」
「はぁ? 一体何を言ってるんだ?」
「多分、さっきの付与魔法でその宝の中身もわかるはずなんだ。俺を信じてくれ」
ラーサーが訝しむのも無理はない。本来付与魔法で【鑑定】の性能は上がらない。でも俺の付与魔法だけは特別だ、シーフの特殊能力の性能も上がるはずだ。
「……わかったよ、やってみる」
ラーサーが渋々残った宝箱に手を当てた。
「本当に大丈夫なの? 付与魔法で【鑑定】の性能が上がるなんて」
「フェリーナ、今の付与魔法はかなり特別だと思うわ」
「ジュディ、もしかしてわかるの?」
「意味はわからないけど、さっきの呪文不思議な響きがしたわ。事実私もなんだか力が漲ってきてる」
さすが魔道士とだけあって、ジュディは感性が違うな。
「そういえば……そうね。私もさっきに比べて体が軽い感じ」
「はは、今ならどんな強敵でも倒せそうな気がするぞ!」
「うお、これは!?」
突然ラーサーが叫んだ。
「どうしたの、ラーサー?」
「中身がわかった……しかも……かなり詳細にな。こんなのあり得ねぇよ」
ラーサーが宝箱の中身を説明した。それを聞いて、俺達も驚愕する。
「……準備はいいか? 開けるぞ」
「いつでもいいわよ」
「初めての戦闘か」
全員が武器を構えた。緊張が走る。そしてラーサーが宝を開けた。
「がぁあはぁあああああ!」
出てきたのはデビルボックス、一種のトラップモンスターだ。箱と一体化した奇妙な姿形をして、多彩な攻撃を仕掛けてくる。
本来なら苦戦が予想されるが、事前に正体がわかっていたよかった。
「でぇい!」
「せやぁあ!」
出てきた瞬間を、タウナとフィガロの二人が剣と槍でバラバラに斬り裂いた。
「ぐぎ? ぎぎぎ……」
「ファイアーボール!」
まだ動いていたが、ジュディの火魔法でとどめをさした。
多くの冒険者を苦しめるトラップモンスターだけに、呆気なさすぎる気がする。
「ふぅ、終わったか……」
「嘘、倒しちゃった?」
「呆気なかったわね。デビルボックスってこんなに弱かった?」
「多分、さっきのスタンリーの付与魔法のおかげだと思うわ」
全員が俺の顔を見た。もしかして本当に俺のおかげだと思っているのか、でも実感がわかない。
「いや、俺の付与魔法なんか大したことは……」
「そんなことないわ。私のファイアーボールも威力が上がってた」
「今まで以上にないほど動きにキレがあった気がするわ。こんなの初めてよ!」
「そ、そうか。でも効果は短いんだ、あまり過度に頼りすぎないでくれ」
俺は一応念押しした。祖父から教えてもらった付与魔法、効果時間が短いのが欠点だ。通常の付与魔法の半分程度の時間くらいしかない。
そんな俺の付与魔法でも役に立つなんてな。これは嬉しい誤算だ。
「それより、ラーサー。その箱の中身はあるのか?」
「デビルボックス、だけじゃないわよね?」
「あぁ、あるさ。見ててくれ……」
ラーサーが箱の中身から取り出したのは、キラキラと眩く光るペンダントだ。
「これは……ペンダントね。正式名称はわかる?」
「信じられねぇかもしれないが、〈女神のペンダント〉さ」
ラーサーの口から驚愕の名前が飛び出した。
「め、女神のペンダント!?」
俺も含め全員が驚いた。〈女神のペンダント〉といえば、あらゆる状態異常攻撃を無効化してくれる超優れアクセサリーじゃないか。
「……誰がつける?」
全員が互いの顔を見た。こういう場合、合理的に考えれば着けるべき人はただ一人だ。
「タウナ、リーダーの君がつけるべきだ」
俺は進言した。そしてラーサーも異論はないようで、彼女に手渡した。
「……ちょっと待ってくれない?」
「どうしたんだよ、タウナ? こういう場合はリーダーが優先だろ?」
「これは……あなたが付けるべきよ」
なんとタウナが持っていた女神のペンダントを俺に渡した。
「一体何のつもりだよ、タウナ? どうして俺に?」
「よく考えてみたら、あなたのおかげなのよ。これを取れたのもね」
「言っている意味がよくわからないが……」
「確かにタウナの言う通りだな」
なんとフィガロまで同調している。
「デビルボックス、本来ならかなりの強敵だな。それもこうもあっさり倒せるとは」
「あなたの付与魔法がなかったらもっと苦戦していたわ」
「そうね。それにあなたの【アイテムボックス】内なら、安心して迷宮も攻略できそう」
「お前が状態異常にかかったら、この中に避難もできないだろ?」
「みんな……」
「いいじゃないの、スタンリー。遠慮はしなくていいわ、あなたは最も貢献しているから」




