第23話 罠にかかった白銀の彗星
クリスタルの盾を手に入れた白銀の彗星は、最初の分かれ道に辿り着いた。
「ちっ、全くあいつら。気にくわねぇぜ、何気にミスリル製の武具まで揃えてやがった」
「ゲイル、そうカリカリすんなよ。どうせあいつらには最深部まで行けはしねぇって」
「そうよ、こっちには新メンバーが二人もいるわ。【アイテムボックス】持ち、そして……」
「Aランク屈指の重戦士、ザッパがいるからな!」
「おうよ、俺にかかれば怖いものなしだぜ」
巨体で斧を担いだ坊主頭の男が自慢げに喋る。
「もはや敵なしだぜ、どんな強敵が出てきたって負ける気がしねぇ!」
「Sランクモンスター討伐も、ふふ早いかも」
「あれ、どうなってんだ?」
ゲイルとメアリーが得意げに話している最中、ガッシュが急に立ち止まった。彼の前には、鉄格子が並んでいた。
「おい、なんで鉄格子がこんな場所に!?」
「さっきまでなかったぞ。一体こりゃ……」
「メアリー、地図もう一度見せてくれ」
「いいわよ」
メアリーが〈フロア・スキャニング〉で作成した地図を、全員に見せた。
「やっぱり間違いない。この先だ」
「おい、どうなってんだよ? 先に進めねぇじゃねえか!」
「しょうがない、俺がぶち破ってやる! 下がってろ」
ザッパが巨大な斧を両手に持った。次の瞬間、鉄格子に向けて全力で斧を真横に振りぬいた。
「ふん!」
ザッパの斧の刃先が鉄格子に直撃した。
ガキィーン!!
「なに!?」
無情にもザッパの斧は鉄格子にはじかれた。鉄格子はビクともしていない。
「おい、ザッパ。手加減してんじゃねぇよ!」
「て、手加減など……」
「待って、これは……〈ハードバリア〉よ!」
「〈ハードバリア〉だと!?」
「それじゃ魔法攻撃も通用しねぇじゃん。どうすんだよ?」
「おい、みんな。後ろを見ろ!」
別のメンバーが叫んだ。後ろを振り向くと、なんと武器を持った骸骨型のモンスターが数体ほど出現していた。
「ダークスケルトン? くそ、罠かよ」
「面倒だ、俺が片づけてやる。ぬぉおおお!」
ザッパが全力で斧を振り払った。巨大な斧でスケルトンの体は、ことごとく粉砕された。
「まぁ、こんなもんか。で、問題はこの鉄格子だが……」
「ゲイル、まだ終わってないわ」
「なんだと? うっ!?」
なんと地面からいくつもの骸骨の手が伸びていた。そして次から次に、地中からダークスケルトンがその姿を現す。
徐々にゲイル達の顔はこわばってきた。さっきまでとは数が違う。彼らは完全にダークスケルトンの群れに囲まれた。
「どうなってんだ!? くそ、昨日といい今日といい」
「多分、さっきの宝だ。あれを取ると罠が発動するようになってる」
「ふざけんな、だからと言ってクリスタルの盾をあきらめるのか? 俺は嫌だぜ!」
ゲイルはあくまで強行突破の構えを崩さない。ガッシュはまたも後悔する。
(さっきスタンリーを味方にしていれば、こいつらスルー出来たのによ)
そんな愚痴をゲイルに言っても、余計不機嫌になるだけだ。ガッシュは何も言わず、攻撃を続ける。
ゲイル達にとってはダークスケルトンは敵ではない。しかし数が多すぎた、倒しても倒しても次から次に復活し、メアリーも疲労が見えた。
「きりがないわ! ゲイル、いい加減宝を戻しましょう!」
「お前らそれでもAランクか!? 無限に湧くことはねぇ、倒し続けたら絶対終わりが来るに決まってる!」
「そんな……何を根拠に」
だがゲイルの言う通りになった。湧き続けていたダークスケルトンの数が徐々に減ってきた。
「本当だ、減ってきてるわ」
「だから言っただろ。こいつらが最後の一波だ、気を抜かずに戦え」
ダークスケルトンの群れを最後の一匹まで倒すことができ、全員が安堵にひたる。
しかしそれでも鉄格子は開かなかった。
「どうなってんだ? なんで鉄格子が開かねぇ!?」
「やっぱりクリスタルの盾を戻さないといけないみたいだ」
「ふざけるな! ダークスケルトンどもは倒したんだ。ほかに何か方法があるはずだろ!?」
「げ、ゲイル……」
後ろからメアリーの震える声が聞こえた。ゲイルも振り向いた。メアリーの目と鼻の先に、巨大な影が動いていた。
「な、なんだ……こりゃ?」
「嘘でしょ、まさか……?」
巨大な影の正体は骸骨型のモンスターだった。
さっきまでゲイル達が倒したダークスケルトンの残骸が集まって、巨大なドラゴンの全身の骨格を形成していた。
「ど、ドラゴンゾンビ……」
「嘘だろ? さっきまでのは前座かよ」
「どうするんだ、ゲイル? 相手はSランクモンスターだぜ」
全員がゲイルの顔を見た。ゲイルは強気の顔だ。
「どうするもこうするも、やるしか……」
「ぐごぉおおおおおおおお!!」
ドラゴンゾンビの咆哮が鳴り響いた。そして瞳の部分が赤く光り、ゲイル達を見下ろす。その瞳を見て、ゲイルは完全に動けなくなった。
さっきまで戦ったダークスケルトンとは次元が違う。彼の決意は翻った。
「……盾を戻そう」