第22話 白銀の彗星再び!
フェリーナも少し呆れながら走り出した。確かに彼女の言う通り、タウナは少し無鉄砲な一面があるかもしれない。
などと思いたくなるが、俺も宝のことが気になる。急いでメンバーの後を追いかけると、再び開けた場所に出た。
「あった、宝よ!」
開けた場所に出ると、その中央奥の段の上に宝箱が置いてあった。
だけどその蓋が開いていた。おそるおそるタウナが近づき、中身を確認する。
「どうだ、入っているか?」
「……遅かったわ」
タウナはうなだれて言った。俺達も中身を確認した。もぬけの空だった。
「はっはっは! 残念だったな、その宝はもう俺達のものさ!」
突然男の声が聞こえた。フィガロとラーサーの声じゃないけど、聞き覚えがある声だ。俺は嫌な記憶がよみがえった。
「この声、まさか……」
「ようスタンリー、また会ったな」
物陰から出てきたのは、見覚えのある金髪の剣士の男だ。
「ゲイル、やっぱりお前かよ」
「まさか新パーティーをすでに組んでいたなんてな。そして何気に新ダンジョンまで攻略しようってのか、図々しいぜ!」
ゲイルだけじゃない。魔道士のメアリー、シーフのガッシュ、さらに新しいメンバーも二人ほど顔を出した。
「『白銀の彗星』! あなた達もここの踏破を目指すのね!」
「そうだ。お前達は『白竜の翼』か、Bランクごときが踏破なんて10年早いんだよ。出直しな」
「なんですって!? 言わせておけば、Bランクだからって甘く見ないで」
タウナが腰に掛けていた鞘に手を伸ばす。フィガロが咄嗟に制した。
「やめろ! 冒険者同士の戦いはご法度だ、冷静になれよ」
「あぁ! その盾はもしかして?」
今度はラーサーがゲイルが左手に掲げている盾を見て叫んだ。
「あぁ、この盾がその宝の中身だぜ。凄いだろ?」
「クリスタルの盾よ。これさえあれば怖いものなしだわ」
「く、クリスタルの盾ですって!?」
全員が驚愕した。無理もない、クリスタルの盾と言えば盾の中でも最高級品だ。性能と防御力、どれをとっても段違いだ。
俺の【アイテムボックス】内にもない超高級品、まさか入口に近いこんな場所で手に入るなんて。ゲイル達は勝ち誇ったような顔だ。
「もちろん宝箱なんてのは、早い者勝ちだ。お前達はその欠陥持ちの【アイテムボックス】持ちと頑張りな」
「え? 欠陥持ちってどういうこと?」
タウナ達が俺の顔を見た。しまった。思えば、〈次元穴〉についてはタウナ達に話していない。どうするべきか。
「なんだよ、話してねぇのかスタンリー? まぁ無理もないか、話せるわけないもんな。あんな欠陥がバレたら、お前は居場所がなくなるはずだ」
「安心しろ、その欠陥はもう直ったさ」
俺は言い返した。ゲイルは俺の言葉を聞いて、笑いを止めた。
「……直っただと? は、強がるのもそこまでだ。こっちにはAランク屈指の鑑定力を持つガッシュがいる。おい、あいつの嘘を暴いてやれ」
ガッシュが前に出た。ガッシュの鑑定力なら、俺の【アイテムボックス】の状態もわかるだろう。
さぁ、どんな反応をするかな。
「……これは」
ガッシュの顔色が変わった。さっきまでゲイルと同じにやけていたが、次第にこわばった。
「おい、どうしたガッシュ? そんなに時間がかかるわけないだろ」
「異常なし、となっている」
「そうか、異常なしか。それなら問題……なんだと!?」
「まさか、直ったというの!?」
ゲイルもメアリーも驚きを隠せない様子だ。
「ガッシュの【鑑定】は正しいよ。まさかAランクのガッシュの鑑定力を疑うつもりかい?」
俺は昨日ゲイルから言われたのと同じ言葉で言い返した。いい気味だ。
「……ちっ、どんな方法で直したか知らねぇが、今更遅いんだよ」
「そうかしら? 優れた【アイテムボックス】持ちがいなくなって、すぐに後悔することになるわ」
「なんだと……って、お前はフェリーナ!?」
「え? フェリーナも知り合いなの?」
「知り合いもなにも、元メンバーよ。一日だけだったけど」
「お前どの面下げて、俺達の前に姿を現した? お前のせいで昨日は……」
ゲイルが怒りに満ちた表情でフェリーナを見ている。
「勝てもしないミスリルゴーレムに勝手に喧嘩を売ったあなた達が悪いのよ」
「なんだと? お前こそ、大した実力もねぇでデカい顔すんじゃねぇよ」
「そうよ。何がAランクの弓使いよ、そこまでの実力なんてないんじゃないの!?」
メアリーまでフェリーナにひどいことを言っている。俺はいてもたってもいられなくなった。
「おい、ふざけんな! フェリーナのことをそれ以上侮辱したら……」
「いいわ。言わせておきなさい」
「フェリーナ、いいのかよ? 黙っていないで何か反論しないと」
「こんな場所でくだらない口論なんかしている暇はないでしょ!」
「なんだと……お前!」
ゲイルはついに堪忍袋の緒が切れそうになったが、ガッシュが必死で制した。
「やめろよ、ゲイル! 彼女の言う通りだ、俺たちは先を急がないと」
「そうね。最深部到達は、私達が先よ。ゲイル、取るものも取ったし、もう行きましょう!」
メアリーとほかの二人のメンバーが、振り向いて歩き出した。
「……ちっ。いいか! この新ダンジョンの踏破の証は俺達がいただく、お前達は指をくわえて見てな!」
ゲイルもそれだけ言い残してメアリー達のあとを追った。
「行っちゃった。なんて感じの悪い奴らなの!?」
「あれでAランクかよ。気にくわないったらありゃしない」
「スタンリー、あんなパーティー抜けて正解だよ」
「はは、それはどうも……」
「それはそうと、俺達もすぐ行かないと、もうここには用はないだろ?」
「えぇ、そうね。でも……クリスタルの盾が……」
タウナは落胆を隠せないでいる。
「タウナ、宝はまだここ以外にあるはずだ。そんなに落ち込むなって」
「わかってる。そうね、リーダーの私がこんなことで落ち込むわけにはいかないわ。みんな、先を急ぎましょう」
タウナも気を引き締めて、来た道を引き返し始めた。俺達もタウナの後を追った。
だけどフェリーナだけ立ち止まって、何かを考え込んでいる。
「妙ね……」
「どうした、フェリーナ?」
「入口から近いこの場所の宝が、まだ残っていたなんて……」
「それが……どうかしたのか?」
「思い出して。この新ダンジョンは昨日ギルドで発表されたのよ」
「そうだけど……それがなにか?」
するとフェリーナの言葉を聞いたジュディも止まった。
「それは……確かに変です」
「うぅーん、俺にはわからないが、一体何が変なんだ?」
「まだわからないの? 昨日の段階ですでに別のパーティーが、クリスタルの盾を取っていてもおかしくない。それがまだ今日も残っているってあり得る?」
「あ、確かにな。ってことは、あの宝は……」
「クリスタルの盾は罠よ。恐らく今戻ったら……」
(ウォーニング! ウォーニング!)
また声が聞こえた。しかも「ウォーニング」と来た。この言葉が聞こえたということは。
「強敵か、一体何が出たんだ。え、なんだって!?」
「どうしたの、スタンリー?」
俺は急いで全員に止まるよう呼び掛け、この先に出現したモンスター名を叫んだ。
「ダークスケルトンですって!? でも一体なら……」
「いや、一体だけじゃないみたいだ」
「まさかスタンリー……」
「数え切れないくらいいる。逃げた方がいいな」




