第21話 いきなり分かれ道だ
フィガロが声を張り上げた。視界の先に、洞窟の入口が見えてくる。その真横にある看板には、「新ダンジョン『地下迷宮ヴァルゴ』」とご丁寧に書かれていた。
「ついに、到着しちゃったな」
「みんな、降りるわよ」
俺達は馬を降り、洞窟の入口の前に集まった。
「ここが……『地下迷宮ヴァルゴ』の入口か」
目の前まで来て、その大きさに圧倒された。漆黒の巨大な穴、まがまがしい雰囲気が漂う。低ランクの冒険者は、この入口の前で恐れをなして帰ってしまいそうだ。
「……準備はいい、みんな?」
「いつでも大丈夫さ」
「忘れないでね。国王陛下から最高の御持て成しが待ってるということを」
「あぁ、多分一生遊んで暮らせるくらいの大金が手に入るぜ!」
国王陛下から最高の御持て成しか。確かにギルドの貼り紙にも同じことが書かれていた。どんな内容か想像できないが、ラーサーはすっかり金貨だと思い込んでいる。
そう期待していないと、モチベが保てないからな。嫌でも危険が潜んでいるだろうから。
「大丈夫。怖くない、怖くない……」
ジュディは小言でブツブツ呟いていた。ちゃっかり震えている、聞けば彼女が最年少だそうだ。こんな若い女性を危険な目に遭わせたくはない。
「ジュディ、危なくなったら俺のすぐ近くに来るんだ。いつでも【アイテムボックス】内に入れてやるから」
「わかったわ。ありがとう」
「そうよ! スタンリー、逃走に関してはあなたの能力が頼り! 絶対にみんなとはぐれないでね!」
「あぁ、任せてくれ」
「……先客がいるわ」
俺の後ろにいたフェリーナがボソッと呟いた。
「フェリーナ、今なんて?」
「先客がいると言ったの。あれを見て」
フェリーナが漆黒の闇が広がる洞窟の穴を指差した。真っ暗で何も見えない。しかしフェリーナは弓使い、視力に関しては俺達の中でずば抜けている。
「何も見えないけど……あっ!」
「どうした、タウナ?」
「今、一瞬だけ光ったわ!」
「なんだって、まさか?」
「あの光、光魔法の〈ライトスフィア〉ね。ということは」
「ぼやぼやしていると先を越される。恐らく彼らの正体は……」
フェリーナが俺の目を見ながら言った。
「まさか……」
先客の正体、多分俺の予想通りならあいつらだ。
「先を越されてなるものですか、行くわよみんな! 私とフィガロが先導ね、ラーサーは【気配探知】を忘れないで!」
タウナとフィガロが武器を構えたまま、洞窟に入って行った。続いてラーサー、ジュディ、そしてしんがりは俺とフェリーナだ。
中に入ると予想以上に暗かった。ここは当然メイレンの光魔法の出番だ。〈ライトスフィア〉で煌々と照らされ、洞窟内の様子がわかった。正直今のところは普通の洞窟と変わらない。
だけど三十メートルほど進んだあたりだろうか、妙に開けた場所に出た。
「わ、分かれ道……?」
なんと道が三つに分かれていた。一体どの道を行けばいいんだ。
「こういう場合は……ジュディ!」
「任せて! 〈フロア・スキャニング〉!」
ジュディが魔法を唱えると、杖の先端から光る球体が三つ発射された。そして三つの球体が、それぞれの道に入って行った。
「なるほど。迷宮とはよく言ったものだが、初っ端からこう来るとはな」
「ジュディが〈フロア・スキャニング〉を使えてよかったわ」
「でも、意外と魔力を使うのよね。これって……」
ジュディが左手に正方形の板を持った。
「それは……魔法板?」
「そうよ。この板に、〈フロア・スキャニング〉で作成された地図が表示されるの」
便利な魔法だ。そういえばメアリーも同じ魔法を使っていたっけ。
「出てきたわ」
魔法板に地図らしき模様が浮かび上がってきた。
「あら、思ったより早くない?」
「そうね……一階だからそこまで時間かからなかったみたい」
「それより、この分かれ道は一体どこを行ったらいいんだ?」
タウナが表示された地図をじっくりと見た。見たところ、三つの分かれ道の真ん中と右側の道はすぐに行き止まりになっている。
「なるほど。この地図によれば、正解は一番左のルートね。よし、行くわよ!」
「ちょっと待った! 一番右側も行った方がいいぜ」
ラーサーが突然声を掛けた。
「……もしかして、臭う?」
「あぁ、臭うぜ。お宝発見だ」
なるほど。やはりラーサーも筋金入りのシーフだ。シーフの特殊能力の一つ〈トレジャー・サーチ〉のおかげで、近くに宝があれば察知してくれる。これは凄いな。
「でも、罠の可能性もあるんじゃ」
「大丈夫よ。罠があっても、ラーサーが察知してくれるわ」
「あぁ、安心してくれ」
「そうか、それは頼もしいな」
「いや、もう遅い」
突然フェリーナが不穏なことを言った。
「遅いって、いきなり何言い出すんだ?」
「さっき先客がいるって言ったでしょ。となると、お宝は」
「いけない、そうだったわ。みんな走って!」
「あぁ、おい。タウナ、慌てるな!」
タウナが勢いよく走り出した。それを見てほかのメンバーも走り出す。
「全く、リーダーがあれだと少し不安だわ」