第19話 マギーレウスからのお願い
「あれ、ここは……どこだ?」
気が付けば、俺は見知らぬ場所にいた。見渡す限り海が広がっている。
そして俺は、海のど真ん中に立っている。一体どうなっているんだ。
「はは、これは……夢だな」
「半分正解かな」
「だ、誰だ?」
今度は子供の声が聞こえた。聞き覚えがある声だ、かなり最近聞いた気がする。
「僕だよ、もう忘れたのかい?」
「ま、マギーレウス?」
次の瞬間、俺の目の前の水面が盛り上がった。巨大な波を起こし、水中から出てきたのはマギーレウスの巨大な顔だった。
「こんばんは、スタンリー。僕の家にようこそ!」
「い、家……だって?」
「そう、僕の家さ。今は入浴中だけど、暇だからスタンリーを召喚したんだよ」
「い、一体何がどうなって?」
俺は頭が混乱した。確かに俺は宿の部屋で寝ていたはずだ。それが一瞬にして、マギーレウスの家まで召喚されたってことか。
「僕が【アイテムボックス】の管理者だってことは知っているだろ。だったら君を【アイテムボックス】の中に入れて、僕の家に召喚するなんてことも簡単なんだよ」
「そうなのか……でも、勝手なことしないでくれるか? せっかく寝てたのに」
「大丈夫。肉体は寝ているから疲労はしっかり取れてるよ。精神だけだよ、呼んだのは」
駄目だ、マギーレウスの説明がさっぱりわからない。寝ていると言っても、全然そんな気になれないんだが。
「なんでもいいが、俺を召喚したってことは、何か用でもあるのか?」
「そうだよ。まぁとにかく、もっと近くまで来てよ」
俺はマギーレウスに言われて、彼女の顔のすぐ近くまで歩いた。海の上を歩いているようでかなり不思議な気分だ。だけどマギーレウスの家だから、何が起きても不思議じゃないな。
「来たぞ……って、おい!?」
「どうしたの? 変な顔しちゃってさ」
「な、なんでもない……というか、わざわざこんな時に呼ばなくても」
俺は思わず目を逸らした。さっきのマギーレウスの言葉を思い出した、入浴中だから当然何も着ていない。勘弁してくれ。
「はは。気にしない気にしない、というか君が寝ている時しか召喚できないからね」
「……わかったよ。で、話ってのは?」
「そうだね、まずこれを君に渡そうと思ってね」
マギーレウスが渡したのは一枚の長方形の板だ。見ると、何やら文字がいくつか書かれている。
「……ゴー・イン・アイテムボックス? ショー・オールアイテムズ? おい、もしかしてこれって……」
「気づいたね。これは合言葉一覧表さ。困った時は、この一覧表を参考にしてみて。指で触れたら簡単な効果の説明も表示されるよ」
マギーレウスの言う通り、合言葉の文字を触れると、確かに効果の説明文も合わせて表示された。これは便利だな。
「この『***』という項目はなんだ? けっこうな数あるけど」
「あぁ、それはまだ未習得の合言葉だね」
「未習得? 俺がまだ使っていないということか?」
「そうさ。最初から使えていたのは、〈ゴー・イン・アイテムボックス〉、そして〈ゴー・アウト・オブ・アイテムボックス〉だね。あとは僕と会ってから、習得し始めた合言葉もいくつかあるみたいだ。それでも、未習得分が多すぎるみたいだ」
マギーレウスの言う通り、俺がまだ習得していない合言葉が一覧表の大半を占めている。
「これを全部習得するのか、大変だな」
「大丈夫。これまでも謎の声がアドバイスを送ってただろ、それに従えばいいんだよ」
「そういえば、あの謎の声って一体何なんだ?」
「さぁ、僕もさっぱりだね」
「……設計者の声とか?」
マギーレウスは首をかしげる。なんとなく知っていそうな気もするけど、まぁ特に重要じゃないから詮索はやめておくか。
「わかった。じゃあこの一覧表はもらっておくよ、それじゃ」
「ちょっと待って。まだ用はあるよ」
マギーレウスが呼び止めた。すると俺の目の前に、突然植物の種が出現した。
「なんだこれは……種?」
「それは幻影さ。本物は君が明日向かう新ダンジョンのどこかにある、それを取ってきてもらいたいんだ」
新ダンジョン、『地下迷宮ヴァルゴ』か。でも一体何のために。
「別に構わないが、これは何の種だ?」
「ふふ、聞いて驚くなよ。虹色桃の種さ」
「虹色桃!? 世界最高珍味の果実じゃないか!?」
「もちろん果実が収穫されたら、君にも分けてあげるよ。報酬もかなり弾もうと思う」
「報酬か。一体いくらだ?」
「そうだね、相場の二倍くらい。金貨百枚でどう?」
「き、金貨百枚!?」
十分すぎる量だ。俺は即頷いてしまった。
「よーし、それじゃ交渉成立だね。頑張ってきてくれ」
「用はこれだけかい?」
「うん、言いたいことは全部終わった。まぁ君なら大丈夫だと信じてる、さっき新しいガールフレンドも見つけたっぽいしね」
「いや……ガールフレンドってわけじゃないんだが」
「またまたぁ、君も隅に置けないんだからぁ。それとも僕の方が好み?」
マギーレウスが色目を使って誘惑してきている。そしてなんと立ち上がろうとした。
「や、やめてくれ! それだけは!」
「なに遠慮してんのさ、僕はいつでもウェルカムだよ! ふふ」
「そういう問題じゃないだろー!!」
大きな波が立ち、俺は全身びしょ濡れとなった。そして目の前には巨大な裸の少女が立っている。見上げてはならないと思いつつも、見上げてしまった。
「どうだい、僕のナイスバディーは? 絶景だろ?」
「あぁ、凄いな……」
次の瞬間、俺は失神してしまった。それ以降は朝起きるまで何の記憶もなかった。
次回から『地下迷宮ヴァルゴ』攻略編に移ります。




