第18話 フェリーナのアイテムボックスにも穴が!?
突然フェリーナが意外なことを言った。
「え? 君と組むのか?」
「あ! いや……その……あなたが今ソロで、誰ともパーティーを組んでいない場合という話なんだが」
「ごめん、もうパーティーを組んでいるんだ」
「そう……ごめんなさい、今の話は忘れて」
フェリーナはそれだけ言って、町に戻ろうとした。だけどすぐに立ち止まった。
そして銀貨を【アイテムボックス】から取り出した。枚数を数えている。
「今夜の宿代は足りているかい?」
「……」
俺が聞いても無言のままだ。そして再び【アイテムボックス】内に手を伸ばした。何か血眼になって探しているようだ。
「おい、どうした? 何を探している?」
「……足りない」
彼女がボソッと答えた。
「足りない? となれば、もっと安い宿に」
「いや、そうじゃない。なくなってる!」
「え? なくなってる?」
フェリーナの様子が明らかにおかしい。
「銀貨は三十枚あった。今数えたら、二十枚しかない」
「なんだと? それは……もしかして!」
あったはずの銀貨がなくなってる。いや、消えたというべきか。それを聞いて俺は再び凍り付いた。
〈次元穴〉か。まさか彼女の【アイテムボックス】にも、同じ現象が起きているのか。
(〈オールアイテムボックス・ステータス〉と叫べ!)
またこの声だ。そういえば、俺が自分の【アイテムボックス】の状態を見たときも、似たような合言葉を教わった。
今度は「オール」という単語がくっついている。もしかしたら二人分の情報が見れるのか。
「やってみるか、〈オールアイテムボックス・ステータス〉!」
「今のは……」
「これで【アイテムボックス】の状態が見れるんだ」
「【アイテムボックス】の状態ですって?」
「表示された。どれどれ……」
『アイテムボックス(スタンリー):状態に異常なし』
『アイテムボックス(フェリーナ):次元穴(小)出現!』
出現した二枚のプレートには、確かに俺とフェリーナの分の【アイテムボックス】の情報が表示されていた。
そしてフェリーナの【アイテムボックス】の情報欄には、しっかりと〈次元穴〉の文言があった。なんてことだ。
「これは……〈次元穴〉!?」
フェリーナも見てしまった。恐怖と絶望が嫌でも伝わってくる。
確かに以前の俺でもこんな状況だと、指をくわえて見ているだけだった。でも今は違う。
「フェリーナ、安心してくれ。俺が修復してやる」
「なんですって!? 穴を修復できるというの!?」
「驚くのも無理はない。俺も今日初めて知ったんだ、あの女の子が最後に放った言葉を君にもかける。見ててくれ……」
フェリーナは固唾をのんで俺を見つめる。
俺は目を閉じた。『禁断の地』でマギーレウスが最後に放った合言葉、それをフェリーナに置き換えればいいだけだ。
「〈リペアー・フェリーナ・アイテムボックス〉!」
「くぅっ!?」
直後、フェリーナが目を閉じたまま倒れこんだ。
「おい、どうした? しっかりしろ!」
俺は声を掛け、フェリーナを抱えた。しかし目を閉じたままうんともすんとも言わない。
息はしているから死んではないが、一体どうして急に気絶なんか。
(フェリーナの【アイテムボックス】を修復中。しばらく安静を要する)
修復中か。どうやら成功したみたいで一安心だ。
そういえば俺もマギーレウスに修復の合言葉を言われた直後、気絶したんだっけ。
でも困った。このままこんな場所で寝かせておくわけにはいかない。だからと言って、町の宿まで連れて行くのも一苦労だ。
「仕方ない、一旦【アイテムボックス】内に移動だ。〈ゴー・イン・アイテムボックス〉!」
俺はフェリーナと一緒に【アイテムボックス】内に入った。
宿のカウンターに彼女を抱えたまま行くと怪しまれる。このままこの中を歩き続けて、俺の部屋に直行することにした。
*
十分後、宿の部屋に戻ってきた俺はフェリーナをベッドに寝かせた。ひとまずこれで安心か。
だけど俺の寝る場所がなくなる。羽織るものがない以上、床で寝るのもしんどいな。
それか寝袋があればいいんだけど。俺の【アイテムボックス】に入ってなかったっけ。
「〈ショー・オールアイテムズ〉!」
俺はアイテム一覧を見た。寝袋はなかった。代わりにあったのは毛布だけだ。
「仕方ない、これで我慢するか」
俺は毛布を取り出した。枕に関しては、適当に手荷物や手ぬぐい類を折りたたんで簡単に作った。
「お休み、フェリーナ」
部屋の明かりを落とし、俺は床の上で寝た。
目を閉じて、明日のことを考え始めた。明日は新パーティーで新ダンジョン『地下迷宮ヴァルゴ』の攻略を始める。俺も初めて行くダンジョンだ。
どんな敵が待ち構えているのか、どんなお宝が手に入るのか、そもそも踏破できるのだろうか。
タウナは自分達で踏破する気満々のようだ。だけど『白竜の翼』はあくまでBランク、自分達の実力として不相応ではないか。
せめてあと一人くらい強力な味方がいてくれたら。いや、待てよ。俺は大事なことを忘れていた。
「いるじゃないか、ここに」