第17話 川の水もアイテムボックスでグレードアップ!
フェリーナはまたか細い声を出した。
水は持ってきたが、素直に飲ませるべきか。ここは川の水だと正直に言おう。
「川の水は大量にある。消毒はしていないが、それでもいいか?」
フェリーナは黙って頷いた。
「わかった。今すぐ出すからな」
俺は【アイテムボックス】内に手を伸ばした。
(川の水がグレードアップ、浄化成功!)
「グレードアップ? 浄化ってどういうことだ?」
俺は一瞬何を言われたのかわからなかった。だけどしばらく考えて気づいた。
「そうか。純銅製の杖がミスリル製の杖に進化したのと同様に、川の水が浄化されたのか!」
川の水を【アイテムボックス】内に入れたのは、このためだったのか。原理はまるでわからないが、浄化されたのなら安心だ。
だけど念には念を入れて、まず俺が毒味をしよう。一口だけ水筒の水を飲んだ。
「う、うまい! 体が透き通るようだ」
今まで飲んだどんな水よりもうまい。そして体全体に力が漲るようだ。
「さぁ水だ! たっぷり飲め」
俺はフェリーナの口に水筒の水を流し込んだ。口に水が入った瞬間、彼女は水筒を両手で掴んで無我夢中で飲み始めた。
よほど喉が渇いていたのだろう。だけどこの様子なら、もう大丈夫だな。
「……ありがとう。消毒薬なら持っている、大丈夫よ」
「そうか、それならいいんだが、次は傷の手当てをしないと……」
「わかってる……うぅ!?」
彼女が傷口を抑え、再び倒れこむ。
「おい、大丈夫か? 無理をするな」
「平気よ。もう一人で歩けるから、それに町までもう少し」
彼女は必死になって立ち上がったが、まだふらついている。
「その状態で歩くこともないだろ、というかポーションは持ってないのか?」
「……使い切った」
彼女は首を横に振りながら言った。ポーションを使い切っても、これだけの傷なのか。よほど深い傷だったのか。
「わかった。じゃあ俺のポーションを使ってくれ!」
俺は【アイテムボックス】内からポーションを取り出し、彼女に渡した。
「……いくら出せばいい?」
「何言ってんだ? こんな時に金なんか取るかよ!」
「まさか……無料で渡してくれると?」
彼女は俺が無料でポーションを差し出すことに驚いている。確かに金銭を要求する場面かもしれない、だけど俺はそこまでがめつくはない。
「いいから使ってくれ。困った時はお互い様だろ」
「……ありがとう。この借りは必ず返すわ」
彼女がポーションを飲んだ。すると彼女の体中の傷が見る見るうちに癒えていく。これは俺の期待通りの結果だ。
「え? なんなの……この効果は!?」
「俺が作成した究極のポーションさ」
正確には俺の【アイテムボックス】内で勝手にグレードアップしたポーションだけどね。でも本当のことを言っても、変に混乱するだけだから誤魔化そう。
「信じられない! あれだけ深かった傷が……」
「よかった。これでもう安心だな」
「これを無料で……あなたは……一体!?」
フェリーナは俺の顔をまじまじと見た。そしてやっと気づいたのか、目を見開いた。
「スタンリー!? あなた、スタンリー・フォーゲル?」
「あぁ、そういえば今朝会ったね。俺も君のことを覚えているよ、フェリーナ・ベルッチだよね」
俺は握手を求めるため、手を挿し伸ばした。フェリーナも手を伸ばし握手をしてくれた。
「……ごめんなさい。私、あなたの代わりにはなれないわ」
「え? 何を言ってるんだ?」
突然フェリーナが謝罪した。そして手を離し、そのまま俺への目を逸らした。
「そういえば気になってたんだが、どうしてそんなに深い傷を? どんなモンスターにやられた?」
「それは……話せば長くなるわ……」
その後フェリーナの口から告げられたのは驚くべき事実だった。
「なんだって、ミスリルゴーレムと?」
彼女が言うには、鍾乳洞でミスリルゴーレムと遭遇したとのことだ。そして遭遇したミスリルゴーレムに戦いを挑むも、全く歯が立たず、一か八か魔法爆弾を投げて撃破を試みた。
結果的にミスリルゴーレムは倒したが、爆発の影響で鍾乳洞内が崩落、彼女は取り残されてしまった。
運よく鍾乳洞から抜け出せたものの、落盤によるダメージが思った以上に深かったらしい。
ポーションを使い切っても全快せず、ボロボロの状態のまま町まで帰還していた最中だった。
「そんなことが……なんて奴らだ。君を見捨てるなんてな……」
俺は怒りが込み上げてきた。俺だけでなく、フェリーナをも使い捨てにするつもりなのか。
「ちょっと待って! 彼らのせいじゃないわ。爆弾を投じたのも私の判断よ」
「でも、だからと言ってこのまま見過ごせって言うのは」
「彼らには人を見る目がないだけよ。そもそもあなたを追放したのは間違いだから」
「あぁ、その話か。でも、君には戦闘スキルもあるんだろ?」
「弓のスキルね。だけど同ランク帯には私以上の弓使いもいるわ。それに……」
フェリーナは持っていたポーションを眺めた。
「どうやって作ったのかの知らないけど、このポーションは凄いわ。もう全快しているし、それにさっきの水だってそう。あなたは、【改良】スキルも持っているの?」
「いや、それは……」
「とにかくあなたには、かないそうにないわ。私はやはり『白銀の彗星』の【アイテムボックス】持ちには不向きよ」
「ということは、抜けるのか?」
彼女は黙って頷いた。
「そうか。でも俺だってあのパーティーには戻る気はないんだよな」
「ならば、私と組んでくれないか!?」