第16話 フェリーナを救え!
耳を疑う言葉が出てきた。俺とは違う別の【アイテムボックス】持ちが重傷だと。
俺は窓を開けた。すでに暗くなっていて、遠くまで見えない。どこにいるんだ。
「いや、待て。町に接近中ってことは、まだここに来ていないのか?」
つまり町の外にいる。迷ってはいられない。
「〈ゴー・イン・アイテムボックス〉!」
いちいち部屋から出るのも億劫だ。このまま【アイテムボックス】内をひたすら走り続けよう。
(重傷の【アイテムボックス】持ち、名前はフェリーナ・ベルッチ、距離残り十メートル)
「フェリーナ・ベルッチ!? その名前、どこかで……あ!」
思い出した。今朝『白銀の彗星』を追放された際に、俺の代わりに入った新しい【アイテムボックス】持ちだ。
なんという偶然か。さっき『白銀の彗星』のメンバーがこの町に戻ったのに、なぜフェリーナだけが遅れて戻ってきたんだ。
いや、そんなことはどうでもいい。とにかく重傷ということは一刻を争うはずだ。距離は残り十メートルか。
だけど距離だけじゃな。前から思っていたが、外の様子がわかればいいんだけど。
(〈ペリスコープ〉と叫べ!)
またこの声だ。今度は〈ペリスコープ〉か。
なんとなくわかってきたぞ。この声は、俺が心の中で要望したら、それを叶えてくれる合言葉を教えてくれるんだ。なんて便利なんだ。
「やっぱり、俺の【アイテムボックス】進化しているな。おっと、感心している場合じゃないな。〈ペリスコープ〉!」
俺の目の前に大きな真っ黒い長方形が出現した。そして長方形の中に、映像が表示された。
俺の予想通りだ、今映し出されているのは外の様子だ。
「あれは……フェリーナ?」
見覚えのある白髪の女性が棒を地面に立てながら歩いている。間違いない、フェリーナだ。
よく見たら、かなりの重傷だ。よろよろしていて、今にも倒れそうだ。
「早く助けないと! 〈ゴー・アウト・オブ・アイテムボックス〉!」
すぐさま【アイテムボックス】から飛び出し、俺はフェリーナのもとへ駆け寄った。俺が駆け寄る直前、彼女は倒れこんだ。
「おい、大丈夫か!? しっかりしろ!」
必死で声を掛けるも返事がない。遅かったのか。
「……水を……」
かすかだが彼女の声が聞こえた。俺は安堵した。
「水だな、ちょっと待ってくれ!」
俺は腰に掛けていた水筒に手を伸ばす。だけど手に持つと異様に軽かった。
「しまった、空か! くそ、どうする!?」
なんとか彼女を救いたい。【アイテムボックス】内にも水はなかった。どうするべきか。
待てよ。さっきと同じで心の中で念じればいい。そうすれば、また返事をしてくれる。フェリーナに水を飲ませたい、どうしたらいい。
(…………)
何も返事は帰って来なかった。
「おい、どうしたんだよ? さっきみたいに、『なんとかを叫べ!』って言ってくれ!」
(…………)
やはり返事は帰って来ない。どういうことだ。
まさか【アイテムボックス】でも、できることとできないことがあるのか。今俺が要求しているのは、できないことか。
だけど、このままじゃ彼女が。となると、方法は一つ。
今から急いで町に戻って水を分けてもらう、それかこの近くにどこか新鮮な湧水が出ている場所を探す。どっちがいいんだ。
(川を発見! 西に三十メートル行け!)
「声だ。川だって?」
返事をしてくれた。よかった、川を発見したんだな。西に三十メートル、そこまで離れてないな。
「ここで待っててくれ、今すぐ水を持ってくるから!」
俺は急いで西へ向かった。三十メートルほど西に行くと茂みがあり、確かに水が流れる音が聞こえた。
「やった。川だ……あ、しまった」
新鮮な水なように見えて、もしかしたら毒物や寄生虫が含まれているかもしれない。
俺としたことがうっかりしてた。川の水をそのまま飲むのは危険だ、こういう場合【鑑定】スキルで川の水の安全性を確かめないといけない。
(川の水を【アイテムボックス】に入れろ!)
また声だ。【アイテムボックス】に川の水を入れたって、解決できる問題じゃないと思うけど。
(川の水を【アイテムボックス】に入れろ!)
「あぁ、わかったよ。お前がそういうなら従うよ」
俺は水筒にありったけの川の水を入れ、そのまま【アイテムボックス】内に入れた。
これでいいはずだ。俺は言う通りにした。とにかくフェリーナの場所まで戻ろう。
フェリーナはまだ倒れたままだ。息はしている、だがかなりの深手を負っている。一体どんなモンスターにやられたんだ。
「いや、違う。これは……」
モンスターの傷跡には見えない。俺には【鑑定】スキルはないが、この傷はまるで何かが激しくぶつかった痕のようにも見える。
「み、水を……」




