第15話 スタンリーの付与魔法は規格外!?
俺達はそれからギルドに向かった。ギルドには大勢の冒険者たちがいた。『白銀の彗星』が帰ってきたことは、ここでも話題となっていた。
だけど新ダンジョンが踏破されたということは広まっていない。
受付嬢のカエデさんが言うには、まだ踏破の証は誰も持ち帰ってないとのこと。タウナは再び元気が出た。
「これで間違いないわ! まだ『地下迷宮ヴァルゴ』は踏破されていない。私達にもまだチャンスがあるわ」
「でも『白銀の彗星』があのざまじゃ、厳しいかも」
「そうね。いくらスニークバットでも、集団で襲われたら一たまりもない」
「ましてや新ダンジョンは未知の領域が多い。Aランクの彼らがあの状態で帰ってきたのなら、俺達が挑むのは……」
タウナの言葉に反して、ほかの三人は消極的だ。『白銀の彗星』の無残な敗走を目にしたから、しょうがないな。
「何弱気になってんのよ? こっちには新メンバーのスタンリーもいるのよ、自信をもって!」
「いや、それは……」
タウナはまた俺のことを持ち上げた。正直そこまで期待されると困る。俺も自信をなくしていたのに。
「タウナ、俺はただの【アイテムボックス】持ちだ。戦闘スキルもない俺にできることといったら、アイテムの無限収納くらいで……」
「なにを謙虚なこと言ってるんですか、スタンリーさん?」
突然一人の女性が割り込んできた。
「カエデさん? あの……俺に何か?」
「スタンリーさんはもっと自分の凄さに自信を持って。あなたがただの【アイテムボックス】持ちじゃないことは、私も知っているわ」
カエデさんも俺のことを持ち上げた。
「ほら、受付嬢さんもあぁ言ってるわ。あなたはやっぱり凄いのよ」
「そうです。付与魔法だって一流の腕前じゃないですか」
カエデさんは信じられないことを言った。俺の付与魔法が一流だって、何を言っているんだ。
「あの……大した付与魔法じゃありませんけど」
「あら、私の目は節穴じゃありませんよ。今まで『白銀の彗星』がここまで台頭できたのも、全てあなたの付与魔法のおかげですよ」
「今の話、本当なの? 付与魔法も使えるんなら……」
「いや、何かの間違いだ。付与魔法は使えないことはないけど、大した効果じゃ」
「あなたの付与魔法は間違いなく規格外です。ご自身でも気づいていないだけです、ふふ……」
カエデさんはそう言い残して、再びカウンターに戻った。いつも眼鏡をかけていて、無愛想な返事くらいしかしないカエデさんだけど、今日はなんか変だ。
俺のことをタウナ以上に持ち上げている。そしてあまり見せない笑顔を俺に見せてくれた。嬉しいんだけど、なんか複雑な気持ちだ。
「カエデさんもあなたを絶賛しているわ。間違いない、私達なら絶対新ダンジョンを踏破できるわ」
「そうは言ってもな……」
「付与魔法も使えるとか驚いたな。どこまでも隅に置けない男だ」
「大した効果じゃないんだ。事実元メンバーの魔道士のメアリーにはかなわなかったよ」
「そうなの……でも、付与魔法使いが二人もいてくれたら心強いわよ。ねぇ、ジュディ!」
タウナはジュディに声を掛ける。ジュディも自信に満ちた顔をしている。
「はい、本当に心強いです。付与魔法は重複しますから、私とあなたのを掛け合わされば!」
確かに付与魔法は重複する。ぶっちゃけ俺の付与魔法を重複させてもあまりおいしくないが、ないよりかはマシか。
「とにかく、明日『地下迷宮ヴァルゴ』に挑みましょう。最深部まで到着できなくても、行けるところまでは行く。わかった?」
タウナは完全に挑戦する気だ。メンバー達もその気のようだ、俺も渋々頷いた。
「それじゃ、今日はもう寝ましょう。明日のために、みんなたっぷり睡眠はとってね!」
俺は再度カエデさんを見た。彼女はウインクして俺のガッツポーズを見せた。「頑張って」という合図かな、でも期待に応えられそうにない。
その後、夜は近くにある宿で一泊することにした。タウナ達は『白銀の彗星』のメンバーがいる宿とは違う宿を手配してくれた。
俺に気を利かせたのかはわからない。ただ単に手持ちの問題かも。『白銀の彗星』はAランク、泊まる宿も金貨一枚で高級だ。
それに対して、俺達が向かった宿は銀貨三枚で泊れる宿だ。といっても、俺が今朝泊った宿よりかは高いからこれでも贅沢な方か。
なにはともあれ、今日はもう疲れた。明日はまた忙しいことになるから、今日は早めに寝よう。
部屋に入った俺はそのままベッドに横になろうとした。
(エマージェンシー! 同能力者より緊急のシグナルを察知!)
突然脳内で例の声が聞こえた。
「またこの声か……エマージェンシーだって?」
俺は嫌な予感がした。聞きなれない言葉だが、明らかに緊迫感が漂っている。
(重傷の【アイテムボックス】持ちがミゾリア町に接近中!)
「なんだって? 重傷の【アイテムボックス】持ち!?」