第14話 新ダンジョン出現!
その夜、俺達はミゾリアの町の酒場を訪れ、新メンバーの俺を歓迎してくれた。俺は手持ちが少なかったが、全員が酒を驕ってくれた。
「さぁ、それじゃ新メンバーが加入したことを祝して乾杯!」
「乾杯!」
「さらに、俺達の武具もミスリル製に一新されたことを祝って乾杯!」
タウナ、そしてフィガロが乾杯の音頭をとった。フィガロが言うには、俺が『白竜の翼』の一員になれたことで、武具も実質彼らのモノとなる。
まぁ本来なら金をとるところなんだが、俺にはほかに行くパーティーもなかったから仕方ない。それに武具は俺にとって必要ないものだ、彼らが持って行った方がいいだろう。
「はは、いやぁ俺達はついてるぜ。これで新ダンジョンの踏破も近いな、これもスタンリーのおかげさ」
ラーサーが気になることを言った。
「新ダンジョン? 一体何のことを言ってるんだ?」
「あれ、スタンリーは知らないのか? 『地下迷宮ヴァルゴ』のこと」
「『地下迷宮ヴァルゴ』!?」
「これを見た方が早いわ」
ジュディが一枚の紙をテーブルの上に出した。
「新ダンジョン『地下迷宮ヴァルゴ』出現! 勇敢な冒険者達よ、最深部まで到達したものにアーウィン国王陛下から最高級のもてなしと褒美を約束する!」
「ね、凄いでしょ?」
「これは……信じられないな、いつの間に登場したんだ?」
「今日の昼過ぎにギルドの掲示板に大々的に貼られていたのよ。これはその写し」
「場所はミゾリアの町から北西に約50km、ちょっと待て。この場所って……」
「あぁ、さっき俺達がいた場所の近くだよ」
「もしかして……」
タウナがここで咳払いした。
「ごほん、実はどんな場所か下見しに行ったのよ。そしたら帰り道に、ミノタウロスに遭遇しちゃってね」
「そうだったのか。もしかしてあのミノタウロス」
「多分、新ダンジョンが出現した影響だね。新ダンジョン出現で、モンスターの生息分布が微妙に変わるから」
「それはそうと。あなたこそなんであの場所にいたのよ?」
今度はタウナが俺に質問した。
「あぁ、それはね……」
どうしようか。『禁断の地』に行ってきて、【アイテムボックス】を修復してもらった、なんて答えて信じてもらえるだろうか。誰も生きて帰って来られない場所だ。
別の答えを考えてなかったな。しかたない、正直に話すか。
「実はね、『禁断の地』に……」
「おい、あいつらが帰って来たぞ!」
突然酒場の入り口付近から男の大声が響いた。
「なんだ? 誰が帰ってきたって?」
「あいつらだよ、『白銀の彗星』の連中だ!」
「なに? Aランクパーティーじゃねぇか、もしかして例のダンジョン踏破したのか?」
俺が元いたパーティーの話だ。これにはタウナ達も釘付けとなる。
「『白銀の彗星』って、あなたがいた元パーティーじゃない?」
「あぁ、そうだね」
「帰ってきたって言ったが、もしかして……」
「『地下迷宮ヴァルゴ』が踏破された?」
タウナ達ががっかりした顔を見せる。自分達がこれから踏破しようとしていたからな。
だけどAランクの『白銀の彗星』ならば、仕方ないか。俺に変わる【アイテムボックス】持ちも加わったしな。
「タウナ、気持ちはわかるけど『白銀の彗星』の実力は確かだよ」
するとタウナは立ち上がった。
「……まだわからないわ」
「おい、タウナどこへ!?」
「真相を確かめに行くわ!」
タウナが走って酒場を出て行った。
「全くタウナの奴、あきらめが悪いな」
「でも、タウナの言う通りかもしれないわ。私も行ってみる」
「どういうことだ?」
「だって、スタンリーさんは『白銀の彗星』を追放されたんでしょ?」
「あぁ、そうだね。でも、俺に代わる新しい【アイテムボックス】持ちが加わったからね。しかも戦闘スキルもある。彼女がいたら……」
「そうなの。でもね、私はスタンリーさん以上の【アイテムボックス】持ちはいないと思うわ」
「いや、そんなことは……」
「確かにな。俺もスタンリーが抜けた『白銀の彗星』が新ダンジョンを踏破できるとは思えねぇ」
「そこまで言うなら、俺達も行くか。彼らがどんな結果を持ち帰ったか、直接見てみようぜ」
タウナ以外の三人も立ち上がって酒場を出て行った。
「みんな『白銀の彗星』の実力を甘く見ている。あいつらなら最深部到達だって不可能じゃないと思うけど」
俺は行く気がしなかった。今朝あいつらから追放されたばかりなんだ。
多分俺の顔を見たら、「お前が抜けたおかげで新ダンジョンを踏破できたぜ、ありがとよ!」とか言うに決まってる。
そんな胸糞悪い思いをするわけにはいかない。俺は一人で酒を飲み続けた。
「スタンリー、まだいたの!?」
突然タウナの声が聞こえた。もう戻ってきていたのか。
「タウナ、どうだった? もしかして凱旋パレードでもやってた?」
「そうね……何て伝えたらいいのか……わからないけど」
「あれじゃ、とても凱旋とは言えないな」
今度はフィガロの声が聞こえた。そしてジュディとラーサーも戻ってきた。
全員の顔を見た。嬉しいのかがっかりしているのかわからない。
「ボロボロだったわよ、彼ら」
「ボロボロって、どういうこと?」
「そのままの意味だよ。体中傷だらけだった、魔道士の女性なんか瀕死だったぜ」
「あれじゃ全治までしばらくかかるよね、可哀そうに」
「まさか彼らが? いや、仕方ないか。新ダンジョンを踏破したんだから、相当な強敵が出たんだろうな」
俺は勝手に推測した。だけど俺の答えに、ラーサーは首を横に振った。
「違うと思うぜ。俺が【鑑定】したところ彼らが負っていた傷は、スニークバットがつけたものさ」
「す、スニークバットだって?」
「一応本人達にも会って聞いてみたわ。だけど私達が何を聞いても、だんまりよ」
「そのまま宿に行ったぜ。心配してやったのに感じ悪すぎるぜ」
信じられない。スニークバットはCランクの魔物じゃないか、なんであいつらがそんな相手におくれをとるんだ。
「いずれにせよ、新ダンジョンは踏破されていないだろ。スニークバットごときにやられるわけでもないし」
「ましてや、新ダンジョンを踏破したんなら、踏破の証も持って帰ってきているはずよ」
「あ、そうか」
新ダンジョンの最下層には凶悪なボスモンスターがいる。そいつを倒せば踏破の証を入手できる。
「念のため、ギルドに行って確認しよう。もしかしたら、すでにギルドに提出されたかもしれないから」




