第13話 アイテムボックスが進化した!
俺はしばらく全員と声を交わさずに、今起きていることを整理した。俺の【アイテムボックス】の状態はさっき見た。
【アイテムボックス】に異常はない。それは〈次元穴〉がなくなっていることを示していることで安堵していたが、さらに詳しい情報が知りたい。
そうだな、所持品だ。【アイテムボックス】の状態がわかるなら、今どんなアイテムが収納されているかもわかるはずだ。
(〈ショー・オールアイテムズ〉と叫べ!)
また頭の中で声が聞こえた。なんなんだ、この声は。まるでさっきから俺の心に呼応しているかのようだ。
だけど不思議と悪い感じもしない。ここは素直に従うか。
「〈ショー・オールアイテムズ〉!」
俺は叫んだ。タウナ達は何事かと俺の方を見た。
「今のは……呪文?」
「気にしないでくれ。なんでもないから!」
「うわぁ、なんだ!?」
突然シーフのラーサーの声が聞こえた。ラーサーが何かを見て驚いている。
「まさか……あれは?」
ラーサーの目の前に現れたのは長方形の板だ。
さっき俺が【アイテムボックス】の状態を見たときにも、同じものが出現した。まさかと思い、ラーサーのそばへ駆け寄った。
「スタンリー、なんだこれは? 突然出現したみたいだが……」
「驚かせてごめん。これは多分……アイテム一覧だ」
「あ、アイテム一覧だって?」
「俺の予想通りなら、これは俺の【アイテムボックス】内にあるアイテム一覧を表示しているはずだ」
「まさか……嘘だろ?」
ラーサーも信じられない反応をする。確かにそんな能力は【アイテムボックス】持ちにはないだろう。事実俺も以前は使えなかった。
だけど今の俺は違う。マギーレウスが言っていた。「【アイテムボックス】の秘密を解き明かせば、様々な奇跡を巻き起こせる」と。
俺は今その片鱗を覗いている。そして俺の読みは当たった。
「やっぱり、アイテム一覧だ」
「嘘だろ? これ全部……」
「あなたの【アイテムボックス】内にあるわけ?」
「おい、ミスリル製の槍まであるのか?」
フィガロが早速発見した。確かにミスリル製の槍の表示がある。でもそんなものなかったはずだ。
そして今度は特大級の魔法爆弾という表記まで発見した。やっぱり俺の予想通りのことが起きている。
「アイテムが……進化している?」
純銅製の武具がミスリル製に、そして小型の魔法爆弾も特大級に、これは凄いことだ。
いや、凄いどころじゃないぞ。まさに奇跡じゃないか。
「ミスリル製の剣とナイフまであるわ!」
「すげぇな、俺達の武器一新できるぞ!」
「なぁ、スタンリー。ここからはお願いなんだけど……」
フィガロがあらたまって話し始めた。俺は彼らの要求がわかった。
「あぁ、俺には無用の産物だ。どうぞ受け取ってくれ」
「ほ、本当にいいのか!?」
「ミスリル製の武具だぞ? 売ったら金貨何十枚だってくだらない。本当にタダでくれるってのか?」
「あ、それは……」
俺は一瞬ためらった。そうだ、売るという選択肢があるな。
思えば俺は手持ちが残り少ない、ここはがめつく行ってもいいかも。
「……そうだな。じゃあ、相場通りの金額で」
「ちょっと待って、スタンリー。その前に大事な話があるわ!」
突然タウナが声を張った。
「大事な話? タウナ、一体何が言いたいんだ?」
「今朝の話覚えてるでしょ? 私があなたにお願いしたこと」
「今朝? あぁ、そういえば!」
思い出した。タウナのパーティー『白竜の翼』からスカウトされていたんだっけ。
「その……あなたが大丈夫なら、ぜひスカウトしたいの! みんなも異論はないでしょ?」
タウナがメンバー達に話しかけると、全員即座に頷いた。
「俺は異論はない。こんなにすごい【アイテムボックス】持ちは初めてだ」
「なにかあったら、この中に避難できるし、しかも強力なアイテムまである」
「私も異論はないわ! あなたが味方になってくれたら、こんなに心強いことはないと思う」
なんと三人とも俺のことを持ち上げてくれた。すごく嬉しい。今までこんなに褒めちぎられたことはない。
今までいた『白銀の彗星』の奴らとはだいぶ印象が違う。
だけどやっぱり俺は非戦闘職だ、これは正直に言っておかないと。
「タウナ、気持ちは嬉しい。でも俺は【アイテムボックス】持ちだから、戦闘スキルもないんだよね。それでもいいかい?」
「もちろんよ。【アイテムボックス】持ちという時点で、恵まれた存在なのよ。もっと自信を持ちなさい」
「そ、それもそうだな」
「それに同じ【アイテムボックス】持ちでも、中に入れるだなんて。正直お前だけだと思う」
「ありがとう。それじゃ、みんな」
俺は手をさし伸ばした。
「改めて、よろしく頼む!」
タウナ達も喜んで握手してくれた。俺は今日から正式に『白竜の翼』の一員となった。