第12話 ただのアイテムボックス持ちじゃない!
みんな俺のポーションの効果を褒めたたえている。正直ただのポーションをくばって、ここまで称賛されるだなんてな。俺はなんだか照れくさくなった。
「なにはともあれ怪我も治ったみたいだね」
「そうね、改めて礼を言わせてもらうわ。本当にありがとう」
「俺はやれるだけのことをしたまでさ。礼には及ばない」
「あなたって謙虚な人ね。さらっと神業を披露しておいて」
「神業……なんのことかな?」
タウナは半分呆れたような顔をしている。
「お前、ミノタウロスの攻撃をどうやってかわしたんだ?」
槍使いのフィガロが代わりに質問した。
「さっきはもう駄目かと思ったけど、いつの間にか消えてるし。そして空中から手を出していたみたいだし……」
「いつの間にか俺達の前に姿を現した。しかも一切気配を感じなかった」
「超高速移動か? それともワープ?」
「あぁ、それはその……」
「いろいろ信じられないことだらけよ。超常現象というか、あなたはまるで……」
「魔道士、じゃないわよね?」
タウナ達がとんでもない誤解をしているようだ。俺は魔道士じゃない。ただの【アイテムボックス】持ちだ。
「いやその……【アイテムボックス】の中に入っただけさ。その中にいれば安心だし、さっきみたいに敵の不意を突ける」
「な、なんだって!?」
タウナ達が驚愕した顔で俺を見つめる。
「今、【アイテムボックス】の中に入ったって言ったの?」
「あぁ、そうだけど……」
タウナ達はしばらく沈黙した。そういえば、思い出した。
マギーレウスが言っていた。この能力は同じ【アイテムボックス】持ちでも、俺だけしかできないんだ。
どうしようか。でも以前のパーティーでも普通に使っていたし、ここは隠しても仕方ないか。
「信じられないなら、今から案内するよ。俺の【アイテムボックス】に」
「はぁ!? 嘘でしょ、私達も入れるワケ!?」
「大丈夫。俺以外でも入れるよ、ただ人数制限があって……」
思い出した。前回いたパーティーは俺を含めて四人だった。ギリギリ四人までなら入れた。今回は違う。
よく見たら、俺以外が四人いるな。これじゃ一人余る形になる。
「ごめん、多分一人は入れないかな。でも残り三人なら入れるはずだ、準備はいいかい?」
タウナ達は頷いた。俺は叫んだ。
「〈ゴー・イン・アイテムボックス〉!」
直後、見慣れた真っ白い空間に入った。タウナ達は呆然となった。
「嘘……これって……?」
「本当に……入れた?」
「す、スゲェ! こんなの初めてだ!」
「【アイテムボックス】の中に入れるだなんてな。はは、こいつは驚きだ!」
タウナ達が驚愕している。やっぱり初めて入るんだな。
思えば『白銀の彗星』のメンバー達も、最初は同じ感想を言っていたんだっけ。いけない、嫌な記憶を思い出してしまった。
「気に入ってくれて嬉しいよ。って、あれ? ちょっと待って!」
「どうかしたか?」
「いや、おかしいんだ。何で五人もいるんだ!?」
「あれ……そういえば?」
俺はもう一度全員の数を数えた。俺とタウナ、フィガロ、ラーサー、ジュディ、確かに五人いる。
「どうして……確かに以前は四人までだった。そのせいで前回のパーティーは、人数が四人までに絞られていたのに……」
「なんでもいいじゃない。全員入れるだなんて大歓迎よ。あなたの能力、本当に凄いわ!」
「あぁ、これは!?」
魔道士のジュディが何かを見て叫んだ。
「どうしたんだ、ジュディ?」
「これは……ミスリル製の杖よ!」
「なに? ミスリル製だって?」
「ミスリル銀はAランクのミスリルゴーレムからしか手に入らない逸品だぞ!」
「スタンリーさん、凄いです! こんな入手困難なアイテムを持っているなんて!」
「どこがただの【アイテムボックス】持ちよ。全然隅におけないわね」
タウナがお世辞を言った。俺は半分嬉しさが湧いてきた。
だけど半分は複雑な気持ちだ。確かに杖はおいていたが、ただの純銅製の杖だったはずだ。
ミスリル製の杖はあったかどうかは覚えていない。そもそも、『白銀の彗星』を追放されたときに、前持っていた戦利品や装備品は奪われたはずだ。
逆に今アイテムボックス内に残っているのは、価値がないと判断されたアイテムばかりだ。ミスリル製の杖は貴重品、あいつらが逃すわけがない。
さっきの魔法爆弾もそうだった。何かがおかしい。
「純銅製の杖が、ミスリル製に? そして小型の魔法爆弾が特大級……まさか?」
「どうしたのよ? 考え事なんかしちゃって」
「ちょっと待ってくれ、いろいろと整理したい」