第11話 小型爆弾でまさかの撃破!?
「スタンリー!!」
ミノタウロスがスタンリーに向かって突進したのを見て、タウナは叫んだ。思わず彼のもとに駆け寄ろうとした。
しかしそんな彼女をほかのメンバーは制止する。
「駄目だ、タウナ! 彼の行為を無駄にする気か?」
「でも……だからって!」
「俺達でかなう相手じゃない。今の内に逃げるぞ! ジュディもいいな?」
「……ちょっと待って、あれ見て!」
ジュディがミノタウロスの方向を指差した。ほかの三人も一斉に視線を移す。
「あれは……噓でしょ?」
「スタンリーが……」
「いない!?」
そこにいたはずのスタンリーが跡形もなく消えていた。ミノタウロスも右往左往している。明らかに彼を見失ったのだろう。
すると次の瞬間、またも彼らは信じられないものを目にした。
「おい、アレを見ろ!」
「手が……出てる?」
一同はミノタウロスの頭上に現れたものに釘付けとなった。なんと空中から人の手が出現している。
そしてその手は、黒い球体を手にしていた。手はそのまま球体をミノタウロスの頭に落とした。
「ぐお?」
球体が頭に落下し、ミノタウロスは頭を押さえる。特にダメージはないが、地面に落ちた球体が気になりそれを手にした。
「あれは……まさか?」
「ジュディ、わかるのか?」
「みんな、離れた方がいいわ!」
四人はジュディの指示に従い、ミノタウロスとの距離を広げた。ミノタウロスは顔に近づけて、その球体を見ようとした。
バァアアアアアン!!
「な、なんだ!?」
「やっぱり! あれは魔法爆弾よ」
「魔法爆弾だって!? 嘘だろ、すさまじい威力じゃないか!? あれじゃ、ミノタウロスは……」
「みんな、大丈夫か?」
今度は聞きなれない男の声が聞こえた。四人とも声がした方へ振り返る。するとそこには、さっき消えたばかりの男が立っていた。
「スタンリー!?」
*
よかった、全員無事みたいだな。俺の作戦はうまくいった。ミノタウロスの注意を引き付け、【アイテムボックス】に入り、奴の頭上に魔法爆弾を落とした。
魔法爆弾は小型だから、そこまでの威力はないだろう。だけど時間稼ぎには十分だ。今のうちに全員を避難させよう。
「みんな、急いで逃げるぞ。奴もすぐに追ってくる、俺の【アイテムボックス】へ!」
「……いや、その必要はないぞ」
「え、何言ってるんだ?」
「あれを見ろよ」
男の戦士が指差した先を見た。ミノタウロスがいた方向だが、なんとミノタウロスが跡形もなく消えていた。
「消えてる? そんな……奴はどこに?」
「消えたんだじゃなくて、吹き飛んだ。さっきの爆弾でな」
「吹き飛んだって? 馬鹿な、あれは小型のはずだが」
「よく見て地面を」
女性の魔道士が言った。俺はその言葉通り奴が立っていた周辺の地面を見た。なんとそこら中に、ミノタウロスの肉片が散らばっている。
「まさか……嘘だろ!?」
「ミノタウロスを倒したんだよ! はは、あんたすげぇよ!」
「今のは特大級の魔法爆弾よ。そりゃミノタウロスだって一撃だわ」
「特大級だって?」
女性の魔道士の言葉が信じられなかった。俺が落としたのは、【アイテムボックス】内にあった小型の魔法爆弾のはずだ。特大級の爆弾はもう一回りサイズが大きいはずだ。
それに【アイテムボックス】内に、特大級の魔法爆弾なってなかったはずだ。俺の記憶では。
わけがわからない。だけど、倒したのならそれでいいか。俺は改めてみんなと向き合った。
「そうか、倒したんだな。それより、みんな怪我はないか? 俺の【アイテムボックス】内に回復アイテムがあるから使ってくれ」
俺は【アイテムボックス】内からポーションを数個取り出した。
「あんた、【アイテムボックス】持ちか!?」
「そうだ。まぁ大した戦闘スキルもないけど、これだけが俺の取柄でね」
「もしかして、スタンリー・フォーゲルさん?」
女性の魔道士が俺の名前を言い当てた。
「あれ? なんで俺の名前を?」
「さっき私が言ったじゃないのよ」
赤毛の女性剣士が俺の目の前までやってきた。
「タウナ!? そうか、君がいたんだっけ」
「もう、スタンリーったら! あんな危ない真似して、こっちはヒヤヒヤしたんだからね!」
「いや、俺は別に心配させるつもりでやったわけじゃ」
「よく言うわ。【アイテムボックス】持ちは、そこまで戦闘スキルがあるわけじゃないでしょ? あんな自らを囮にするだなんて、自殺行為としか思えない」
「でも、スタンリーはどういうわけか成功させた」
ここで槍を持った男の戦士が前に出てきた。男は軽く自己紹介した。
「フィガロ・スタンリッジだ。このパーティーで槍使いをしている」
「俺も自己紹介するぜ。ラーサー・マルティネスだ、シーフをしている」
「私はジュディ・ラングドン、見ての通り魔道士よ」
「そしてリーダーはこの私、タウナ・バンフィールズ、剣士よ」
「あぁ、よろしく。って、君がリーダー?」
タウナの言葉が一瞬信じられなかった。
「なによ、女がリーダーはやっぱりおかしい?」
「いや、そんなことは……」
「はは、やっぱり同じ感想をもらうな」
「言っておくけど、Bランクの中じゃ剣の腕で誰にも負けない自信があるわよ」
「それは頼もしいな。それはそうと……怪我は大丈夫か?」
「あれ? そういえば……」
全員俺が【アイテムボックス】から取り出したポーションを飲んだようだ。そして見たところ、傷もなく完治しているようだ。
「よかった。大した怪我じゃなかったんだね」
「いや……そんなことないわ」
「信じられない。たったポーション一つでここまで回復するなんて!」
「嘘だろ? ミノタウロスから受けた傷は相当深かったのに!」