第10話 タウナ達を救え!
「ここは……どこだ?」
目が覚めると俺は魔の森の入口付近に寝そべっていた。空を見上げるともう日が暮れ始めていた。
かなり長い間気を失っていたのだろうか。気を失う直前の記憶を必死に振り返る。
「確か、禁断の地には辿り着いた。そしてマギーレウスという少女に会って……リペアー?」
(〈アイテムボックス・ステータス〉と叫べ!)
突然心の中で声が聞こえた。聞きなれない言葉だ。
「だ、誰だ?」
振り返っても、周囲を見回しても誰もいない。心の中で誰かが俺に話しかけてきたのか。
(〈アイテムボックス・ステータス〉と叫べ!)
また聞こえた。声の主はさっぱりわからない、だけどその言葉に従った方がよさそうだと、俺は直感した。
「〈アイテムボックス・ステータス〉!」
俺は言われた通り叫んだ。すると俺の目の前に、文字が表示された長方形の板が出現した。
「なんだこれは!?」
『アイテムボックス(スタンリー):状態に異常なし』
長方形の板にはこう書かれていた。一瞬わけがわからなかったが、『状態に異常なし』という文言を見て、俺は納得した。
「そうか。これは俺の【アイテムボックス】の状態を表している。異常なしということは、直ったんだな」
やった。ついに俺は【アイテムボックス】の欠陥、〈次元穴〉を修復したんだ。これならまたパーティーに復帰できる。
いや、どうしようか。
今更あのパーティーに戻るというのか。明らかに俺を毛嫌いしていたようなメンバー達だ。仮に修復したと告げても、信じてもらえないだろうし、何より俺より優れた【アイテムボックス】持ちがすでに味方に加わっている。
やめておこう。そういえば、朝ギルドで別のパーティーから誘われたんだっけ。
ランクBの剣士のタウナと言ったっけ、美人な女性だった。ランクは下がるけど、心機一転だ。やり直そう、もう一度。
(ウォーニング! ウォーニング!)
突然頭の中で大きな音が鳴り響いた。
「な、なんだ!? ウォーニングだって?」
(近くにモンスター出現! Aランクの可能性あり!)
「モンスター!? しかもAランク?」
俺は耳を疑った。そもそも頭の中で声が鳴り響くこと自体が驚きだけど、それ以上にまるで【気配探知】スキルが発動されているみたいだ。
俺には【気配探知】スキルは使えなかったはずだけど、一体これはどういうことだ。
「ぐぉおおおおおお!!」
「今の声は……まさか?」
どうやら嘘ではなかった。本当にモンスターがいるらしい、しかもかなり近い。俺は声がした森の方へ入った。
「あれはミノタウロス?」
目に入ったのは、巨大な斧を持ち牛の顔をしたモンスターだ。Aランクのミノタウロスだ、ランクまで言い当てたとは凄い。
などと感心している場合じゃなかった。本来ならこんな場所で遭遇などするはずもないミノタウロスは、誰かと戦っていた。
見たところ、四人ほどのパーティーだ。そしてその中の一人に、俺は目が止まった。
「あれは……タウナ!?」
見覚えのある赤毛だと思ったら、朝出会ったタウナじゃないか。なんでこんな場所にいるんだ。
ほかのメンバーもいることから、彼らが『白竜の翼』か。でも相手が悪すぎる、彼らはBランク、相手はAランクのミノタウロス、ほぼ勝ち目はない。
事実、タウナ以外のメンバーは消耗しきっている。魔道士らしき女性も、魔力が尽きたのだろうか。
見捨てるわけにはいかない。俺は咄嗟に飛び出した。
「おい! ミノタウロス、俺が相手だ!」
俺は叫んだ。そしてミノタウロスは振り向いて、俺の顔を見下ろす。改めて見ると、俺の背丈の倍以上はあるデカさに思わず圧倒されてしまった。
「あなた……スタンリー!?」
タウナも俺の姿に気付いた。俺の名前を覚えていてくれて嬉しい。
「タウナ、俺が奴の注意を引き付けるから、その間に逃げるんだ!」
「何言ってんの? あなた一人でどうこうできる相手じゃないでしょ!?」
「大丈夫、俺には秘策がある。いいから俺を信じてくれ!」
「ぐがぁああああ!」
ミノタウロスは完全に俺を攻撃の対象とした。これでタウナ達が逃げれる時間を稼げる、狙い通りだ。
でも問題は俺だ。相手はAランクのミノタウロス、俺は非戦闘職、勝ち目はない。どうするか。
「さぁ、来い! 面白いものを見せてやるよ!」
俺はさらに挑発した。ミノタウロスは人語などわからないが、それでも効果はあったのか、俺に突進してきた。
巨体とは思えないほどのスピードだ。俺の目前まで来たところで、巨大な斧を振り上げた。
タウナの顔が一瞬だけ目に入った。もはや俺が殺されるのを確信しているようだ。
でも安心してくれ、俺は死なない。
「〈ゴー・イン・アイテムボックス〉!」
そしてミノタウロスの斧は空を切った。