第7話 ~迫り来る炎~
ヴァントとの戦いから数日が経ち、俺はソルウへのお礼がてらに、一緒に高級レストランへと向かっていた。
「いやあ、レストランかあ。そういえば全然行ってなかったなあ。それにしてもお金は大丈夫なのか? ラウラ」
「ああ、そこは心配しなくてもいいよ、ソルウ。別に普段からそこまでお金は使ってないからさあ」
「ああそうなんだ、それじゃあいいや。にしても楽しみだなあ。どんな料理があるんだろう?」
「どうやら噂によると、いろんな種類のネタが入った寿司桶と、希少な部位の焼き肉が同時に食べれるらしいぞ」
「なんだ、その、とりあえずうまいもん全部ぶち込んどけ、みたいな組み合わせは」
「まあ実際それが美味いって評判になってるんだから、別にいいんじゃあないか?」
「は、はあ」
そんな、他愛もない会話をしていた時のことだった。
パチッ、パチパチッ。
焦げ臭い匂いと共に、何かが破裂しているような音が聞こえてきた。
「ん? 何の音だ?」
「匂い的にも、誰かが焚き火とかやってるんじゃあないのか?」
パチッ、パチパチッ、パチパチッ、パチパチパチパチパチパチパチパチッ、ブルボルボーッ!!!
「なっ!?」
「ソルウ、逃げろ!」
突然、巨大な炎が俺たちの目の前に現れた。
お互いになんとか直撃を避けることはできたが、それでも炎は留まることなく、逃げる俺たちを追いかけてくる。
「おいラウラ! 何だあれは!?」
「わかんねえ。ただ一つだけわかるのは、あの炎を出している人間はまともな奴じゃあねえ! 明らかに俺たちの事を追って来てやがる!」
「なあラウラ! 何とかあれを分解できねえのか?」
「……確か炎ができる原理は、物体が急激に酸化するからだったはずだ。だから一応、その物体と酸素を切り離すことはできるが、だとしてもヴァントの風と同じように、次々とやってくるから意味がない!」
「そうか……、それだったらしょうがない。まあどっちにしても、まずはこの炎を撒こう!」
「撒くって、どうやって?」
「恐らくあの炎を出している人間は、何かしらの方法を使って俺たちを監視しながら攻撃している。だとすれば、そいつの視界から逃れることができれば、俺たちを再び発見するまでは攻撃が止むはずだ!」
「……ほとんど不確定情報じゃねえか」
>>> 数分後
「はあ……、はあ……。とりあえずは何とか撒けたが、恐らくすぐにまた攻撃してくるはずだ。それまでに何とか策を考えないと」
「でもどうするんだ? お前の能力で炎を分解してもほとんど意味がないし、俺の能力で土を利用したとしても、流石に倒すまでは難しいぞ」
「前回のように何か物を使おうにも、相手は炎だから使えるものも少ねえんだよなあ……」
本体すらも見えない強敵の前に、行き詰っていた。そんなときの事だった。
「すいません、もしかしてあなたって」
「え? ……あっ!」
「おいラウラ、会ったことあるのか?」
「確か、君って……」
「はい、以前ラウラさんに助けていただいたものです」
「ああ、そうなのか。それで、何か用があるのか?」
「お二人の様子を見るに、何か困っているようだったので、もしも私に手伝えることがあるのならと思って」
「ありがとう。実は今、炎属性の人間に襲われているんだ。君の属性を教えてくれないか?」
「私の属性は、風です」
「風か……、んー……」
「あの、相手が炎でしたら、私の風で消すことはできないのでしょうか?」
「いや、だめだ。炎が小さいんだったら出来るかもしれないが、炎が大きいとむしろ逆効果。相手からしてみれば、物体を効率良く燃やすための酸素を送りこんでいるようなものだ」
「というかあの大きさにまでなってくると、水属性の超能力を使ったとしても消せるかどうか怪しいぞ」
「…………いよいよまずいな、…………」
パキッ
心を落ち着かせるために、いつも持ち歩いている割り箸を割る。
そこには、本来木材が有しているはずの抵抗が一切ない。
「今やっている場合かよ。……ったく本当に綺麗だなあ。断面に関しては分子レベルで真っ二つだ」
「いくら時間が迫っているとはいえ、全員が焦っていては相手の思うつぼだ」
「……すいません。あなたの名前は?」
「えっ、俺か? ソルウだけど」
「ソルウさんって地属性なんですよね? 私の風属性と組み合わせて、何かできないでしょうか?」
「組み合わせる、か……。どれくらいの風なら起こせるんだ?」
「それなりの大きさの岩程度なら、何とか吹き飛ばせます」
「……わかった。それぐらいあればなんとかなりそうだ」
「本当か? ソルウ」
「ああ。……それに、時間が来たようだしな」
「……そうか」
優雅にそびえたつ大木のそばに、一人の男が佇んでいる。
その男の目は、紛れもなく、こちらに敵意を向けていた。
~続く~
本エピソードを読んでいただきありがとうございます。感謝します。
もし本エピソードが面白いと思いましたら、高評価及び感想を送っていただけると非常に励みになります。