第3話 ~水の使者~
ソルウが去った後、俺は本来の目的だった狩猟を再開した。
先程の戦いのせいで時間はいつもより少なかったが、それでも十分に食料を取ることはできた。
カー、カー、カー。
気が付けば太陽は沈みかけており、猛獣に襲われることを懸念した俺は急いで家に帰った。
夕暮れの光が部屋の中を照らす。
森で取ってきた食料を材料にポトフを作る。
ソルウとの戦いによって疲れた体に、あたたかいポトフのスープが染み渡る。
自分で作った料理に言うのも何だが、やはり絶品だ。
そうしてポトフを完食すると、一通りの身支度を終え寝床に入った。
その中で俺は、ソルウが言っていたことを思い出した。
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「……気づいたんだ、お前は無能力じゃあないって事に。それにお前の能力は他とは明らかに違った。どの属性にも当てはまらない特殊なやつだ。だから、お前がその事に気付く前に一刻も早く始末しようと思ったが……」
「それほどまでに危険なんだ、お前の能力は。俺もあの時まではお前の詳細な能力はわからなかったが、お前の一番危険な部分は、その能力を無自覚の内に発動させてしまっている点なんだ。」
「無自覚の内でも発動してしまうような能力にもしお前が気付いて、その能力を悪用しようと考えてしまったら、最悪誰も止められなくなってしまう」
「だが、気を付けておけ。もしかしたら俺のように、お前の能力に気付いて始末しに来る奴がまた現れるかもしれない」
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確かに炎・水・風・地以外の属性が元になった超能力は、従来の属性よりも威力等が強いと聞いたことがある。
それにその数自体も少ないから目立ちやすいし、あながち間違ってはいなさそうだ。
もしも襲ってくるのだとしたら、それは一体どんな奴なのだろうか。
いや、もしかしたら集団の可能性もある。
俺は、今は見えず、それでも確かな存在を感じる敵に怯えてしまった。
とはいえ気にしすぎても仕方がない。
俺は半ば現実逃避をするようにぐっすりと眠った。
>>> 数日後
正午の太陽が歩道を照らす。
俺は特に目的もなく、ぶらぶらと歩いていた。
すれ違う者が襲ってくる様子も特になく、いきなり空から巨大な岩が降ってくるという事もなかった。
何も起こらない退屈、だけど平和な一日だ。そう思っていた時だった。
(ん? なんだあいつ?)
草原の方を見ると、一人の男が俺の方をじろじろと見ていた。
その男は俺を見つけると、ニヤッと邪悪な笑みを浮かべた。
すると、
ビリュッシュッ―ン! 「キャアアアアアアアアア!」
(えっ!?)
突然、男の手から水の矢が射出されたかと思えば、女性と思わしき叫び声が聞こえた。
俺はすぐさま叫び声の方へ顔を向ける。
見ると、一人の女性が先ほどの攻撃を受けた部分から血を流していた。
「おい!? 何してるんだ!」
「フッ、噂に聞いていた通りだ。人が困っているのを見ると放っておけない性格。女でも襲っておけばいくら弱腰のお前でも逃げることはしねえだろう」
ザッザッザッザッ!
俺と男が会話をしている隙を狙って女性は逃げていった。
「逃げることはしねえだろう、って事は、俺に何か用があってあんな事をやったんだな?」
「ああそうだラウラ、まさかこんなにも早く会えるとは思わなかったよ」
「それで? 俺に何の用だ?」
「……フッ」
男が先程と同じように邪悪な笑みを浮かべると、
ビリュッシュッ―ン! 「グフッ!」
突然水の矢が飛んできた。
(なるほど。やはりこいつもソルウと同じように俺を始末しに来た奴って事か。恐らく属性は水)
ビリュッシュッ―ン!
男はすぐさま次の攻撃を放ってくる。
だが俺は、幼い頃から無能力をカバーするために鍛えていた回避術で何とか回避する。
ビリュッシュッ―ン! ビリュッシュッ―ン!
「ちっ! ちょこまかと動きやがって!」
ビリュッシュッ―ン! ビリュッシュッ―ン!
相手も負けじと水の矢を乱射してくるが、10年以上かけて鍛え上げられたこの回避術は確かな結果を表してくれた。
(よしっ! 何とか近づけた! このまま行って)
シュリュリュサバーン!
(なっ!? 何!?)
突然男の手から大波が現れた。
「ガボッ! がはっ、うわああああああああ!」
突然の事に驚き、何も抵抗できないまま荒波に揉まれる。
「馬鹿がっ、俺がワンパターンだけで挑んでくるとでも思っていたのか?」
(まずい! このままじゃあせっかく近づいたのに意味がない! 何とか抵抗しないと!)
そう思い荒波の流れに逆らって必死に泳ぐも、気が付けばあっという間に距離が離されていった。
(仕方ない、こうなったらもう一回近づかなければ)
俺は再び男の方へ近づこうとしたが、先程の荒波のせいで体全体がずぶ濡れになって服が重たくなり、体自体もかなり冷えてしまったせいか、思うように敵の攻撃が避けれない。
ビリュッシュッ―ン! 「グフッ!」 ビリュッシュッ―ン! 「グハッ!」
「んだよもう体力が切れちまったのか? 強すぎるのも嫌だが、こう弱すぎる奴もつまんねえんだよなあ。四属性以外の超能力を持っているっていうから多少期待していたんだが、まさか相手にしててここまで骨のねえ奴だとは思わなかったよ」
男は既に勝利したかのような独り言をつぶやいている。
(くそっ! この威力じゃあいくら近づこうとしても、結局すぐに引き離されてしまう! 恐らく俺の体力もそこまで持たねえ! 前にソルウが出してきた騎士埴輪みたいに水は固形じゃあないせいで分解しようもないから、俺の能力も活かせねえ! 一体どうすれば……ん? ……待てよ? ……水は……分解……できない?)
~続く~
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