第1話 ~無能力な男~
人というのは、大抵自分が持ってないものを特に欲しがる傾向にある。
俺の場合は「超能力」
いや、この世界で超能力を持ってないことなんてありえないじゃあないかと思うかもしれない。
だが、俺はこの世界で生まれたにも関わらず、何一つ超能力を持てなかった男なのだ。
超能力と言えば、ほとんどの人間は炎・水・風・地のどれかしらの属性を持った超能力を一つ以上は生まれつき持っているのだ。
そして、素質のあるものは先ほどの属性同士を融合した技を編み出す者もいる。
しかし、俺の場合はそういう次元の話ではなかった。
そもそも超能力を持ってなかったんだ。
どの属性にも当てはまらない超能力を持っているというわけでもなかった。
本当に、ただ生まれつき超能力を持ってなかったんだ。
超能力が使えない俺に興味を持つ人物も当然おらず、小さい時にはよく大柄の同級生たちにいじめられていた、というわけでもなくみんな普通に俺と仲良く接してくれてはいたが、それでも同級生達が超能力を使ってバトルしている様子を、ただ外野から眺め続けるだけの人生はちと厳しいものがあった。
だが、そんな俺でも一つだけささやかな自慢があった。
そう。割り箸を綺麗に割れる事だ。
割り箸を綺麗に割ることにおいては百発百中。
たとえ割っている最中にくしゃみをしようと余所見をしてても、しゃっくりが突然出ようとも、俺が割り箸を綺麗に割れなかったことは人生で一度もなかった。
それくらい、俺にとっては唯一にして最大のアイデンティティとも言えるものだった。
とはいえ、自慢できることがそれくらいしかないような俺は、このまましょうもない人生を送っていく。そう思っていた。
だが、ある日突然、俺の人生は数奇な運命へと引きずり込まれることになった。
その日は、絵にかいたような晴天だった。買い物を済ませ、そろそろ家にたどり着きそうな時の事だった。
「ああ。お兄さん、お兄さん」
突然、それなりに年を取った男性に声をかけられた。
「えっ? どうされました?」
「いや、ちょっとお兄さんに確認しておきたいことがあってね。少し時間大丈夫かい?」
「あっ、まあ、大丈夫ですよ」
「ああ、ありがとう。いきなりで失礼なんだが、確かお兄さん、超能力を持ってなかったよね?」
いくら年下とはいえ、初対面の人間に対しては馴れ馴れしい質問であったが、こちらに危害を加えてくる様子も特になかったため、俺は素直に答える事にした。
「はい、そうですけど。何で知っているんですか?」
「まあ、超能力を持ってない人間がいるというのはこの辺りだと、結構有名な話でね」
「ああ、そうなんですね」
「ただ、ちょっと思ったんだが」
「えっと、何でしょうか?」
「お兄さんは、超能力を持っていないんじゃあない。超能力を持っている事に気が付いていないんじゃあないか?」
かなり意外な疑問だった。俺は自分が無能力者である事に対して、今更疑う必要がなかったからだ。
「いや、そんなことないですよ。だったら今頃、手から炎なり何なり、何かしら出せているはずでしょう」
「確かに私もそう思う。だが、少しある部分に疑問を持ってしまってね」
「何ですか? それは?」
「君、割り箸を綺麗に割れる事が自慢っていつも言っているらしいじゃあないか」
どうやら俺は、知らぬ間に悪い方面で有名になってしまっていたようだ。
「は、はい」
「いやー、私その部分がどうしても気になったもんで。もしかしたらそこに何か君の秘密が隠されているんじゃあないかと思ってね」
「割り箸を綺麗に割れる事が僕の秘密ですか? それってつまり割り箸を綺麗に割れる事が僕の超能力ってことですか? いや、あり得るかもしれないですけど、だとしたらいっそ持ってないほうがいいと思えるレベルの超能力じゃあないですか」
「確かに、もしも君の能力がそれだけだったらとしたら、とても多くの人の役にたつとは思えない。だが、もしもそれだけじゃあないとしたら?」
年老いた男にそう質問され、俺は少しの間考えてみた。
しかし、ただ割り箸を綺麗に割るだけの能力が人の役にたっている光景など、そう簡単に思い浮かべれるものではなかった。
「うーん、今のところ思いつかないんですよね」
「ああ、もしも今その能力が開花しなくとも、まだ諦めるには早いってことだけ知ってくれれば、それでいいさ」
「そうですね。教えていただいてありがとうございます」
「こちらこそ。いきなり君に話しかけてしまって申し訳ない」
「いえいえ。僕がまだ何かしら別の超能力を持てる可能性があるって分かっただけでも収穫です」
「そうか、それは良かった。それじゃあ、またどこかで」
「はい、それでは」
こうしてその男は、自らの名前を名乗ることもせずに、しゅくしゅくと去っていった。
俺にとっては何気なく、それでもたった一つの希望を見いだす事のできた会話だった。
だが、これだけでは終わらなかった。
数日後、俺は半ば趣味でもある狩猟のために森に来ていた。
幸い、この世界には超能力を持っていなくても、何とか生きていけるための道具が揃っていた。
そのため、たとえ超能力を持っていない俺でも、こうして何とかある程度の狩猟は行うことができた。
まあそれでも、流石に超能力を使った方が楽そうではあるが。
そんな時だった。当然、後ろから聞きなれた声で話しかけられた。
「あれ? ラウラ? こんな所で何やってんの?」
「ああ、ソルウか。まあ、狩猟やってんだよ」
「そっか。確かに超能力を使えなくても、町の方で結構色んな道具が売ってるもんな」
「そうなんだよ。そこまで多くは売れてないそうだけど、俺にとっては結構助かってんだ」
「へえ、そうなんだ。いやあ、お前が元気かどうか確かめたくって、つい話しかけちゃったんだよ」
「心配してくれてありがとう。今もバリバリ元気だよ」
「そっか、それは良かった。それじゃあ、」
パァン!
「えっ?」
「お前をここで始末する」
~続く~
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