第九話 ゲスいデートの誘い
彼女ができた途端に態度を変えた友人・伴野を見返すために、ギャルである下種の彼氏のフリを受け入れた道貞。
交際に驚く伴野に多少溜飲は下がったものの、さらに優位に立つべく下種にデートを提案するのであった。
どうぞお楽しみください。
さて、下種にデートの件をどう伝えようか。
伴野に疑われたと言うのは簡単だ。
俺を男避けにしたい下種にしたら、協力せざるを得ないだろう。
しかしそれだけではいささか面白くない。
貴重な休日を潰すのだ。
何かしらの成果を上げないと勿体ない。
そこでだ。
『今度の日曜日だけど、映画にでも行かないか?』
まるで恋人同士で送るかのようなフランクなメッセージを送る。
下種は、俺のこのメッセージに違和感を覚える事だろう。
そうすると……。
お、早い返信。
『なになに〜? ドーテーはあたしとデートしたいの〜?」
予想通り、俺をからかってきたな。
ドーテードーテーとからかっている俺からこんなメッセージが来たら、不可解さからくる不安を払拭するために無意識にイニシアチブを取ろうとしてくると思っていた。
そこでさらにこれだ。
『あぁ、マッキーとデートしたい』
今までの俺では送ってくるはずのないメッセージに、下種の違和感と不安はさらに増す。
別に口説く気はさらさらない。下種だし。
ちょろい相手だと思っていた俺からの思わぬ攻勢に、力関係の認識が揺らげばしめたものだ。
迷いは反応や対応の遅れを生む。
その隙を突けば、下種に優位を取る事も不可能ではない。
……くっくっく……。早速返信が途絶えたぞ下種?
クラスの後ろ側の俺の席からは、動揺するお前の後ろ姿をじっくりと観察できる!
……あれ。女友達と話してる……。
既読付いてない。
あ、先生来ちゃった……。
タイミングしくじったか……。
ま、まぁ良いさ。
放課後のお楽しみだ!
「ミッチー。途中まで一緒に帰ろー」
「……あぁ」
再びざわめく教室を後にする。
大半が『ミッチー……? 千重里をあだ名呼びってどういう事……?』とあだ名呼びに対する声だったな。
癪ではあるが、下種の提案は効果があるようだ。
着ぐるみの中の人と目が合った子どものような伴野の顔、最高だったなぁ!
「でさー、日曜のデートの件だけどー」
「え? あ、あぁ」
ぐっ! そういうのはメッセージでやろうぜ!
文章の上でならスマホの仮面をかぶって演技余裕だけど、面と向かっての話では無理だ!
何とか打開しなくては!
「あ、あの、何観るか決めてから集合時間とか」
「あたしねー、『ここ先』観たーい」
「ここ先?」
え、ちょ、待て待て待て。
俺の記憶が確かなら、今映画で『ここ先』と言ったら、ラノベ原作の、
『ボス戦なんかで命かけたくないから、雑魚の群れの前で「ここは任せろ先に行け!」って言ってたら経験値ボーナスがエグくて世界最強になったけど、俺は雑魚とだけ戦いたい』
だよな?
ギャルの下種が興味を持つとは意外だ。
「じゃ、じゃあ上映してる時間を調べて……」
「日曜だとー、駅前の『シネマでゴー』なら朝九時からの回はまだ空きあるみたーい」
画面を見せられる。
……本当に『ここ先』だ……。
「そ、そうなんだ……」
「だから八時半に駅前でいいー?」
「……うん」
「おけー。予約取っとくねー」
「ありがとう……」
イニシアチブを完全に握られた……。
しかし下種!
自分の力で勝ったのではないぞ!
その映画の性能のおかげだということを忘れるな!
実際観たいからな!
「あー、楽しみー」
いや、負け惜しみを考えてる場合じゃない!
俺は、下種に、勝ちたい……!
「そんなに俺とのデート楽しみなのか?」
「え?」
さぁ照れ隠せ!
『映画が楽しみに決まってんじゃん。キモッ』と切り返して来い!
「うん。楽しみだよー。服気合い入れて行くから、ドーテーも楽しみにしててねー。じゃああたしこっちだからー。また明日ー」
「……あぁ」
手を振る下種に反射的に手を振り返す。
……今日のところは引き分けってところだな。
読了ありがとうございます。
今日のところはこのくらいにしといたる。
次話もよろしくお願いいたします。