第七話 ゲスいあだ名決め
下種牧舞の家で、首の後ろに特徴的な黒子を持つ男の写真を見つけた千重里道貞。
その正体を知ればマウントを取れると、道貞は意気揚々と学校へ向かうのであった。
どうぞお楽しみください。
一夜明けて学校へ向かう。
伴野に彼女ができてからは、辛い通学路だったが、今日は違う!
まず待受の下種とのツーショット写真!
こいつを見た時の伴野の顔が楽しみだぜぇ……!
そしてもう一つ、下種の好きな男の存在!
情報は少ないが、首の後ろに縦に並んだ黒子。
これさえ見つければ、あいつにもマウント取り放題だぜ!
「おっはよー」
「うぇ!? あ、お、おはよう」
「ドーテービビりすぎー」
「道貞だ。その呼び方やめろって」
くそー、いきなり後ろから声かけてきやがって。
見てろよ、そのうちそんな呼び方できなくさせてやるからな。
「じゃーミッチーでいいー?」
「は?」
「だから呼び方ー。ミチサダだからミッチー」
「え、いや、その……」
「いや?」
「うーん……」
嫌ではないけどバスケがしたくなるだろ。
「じゃーミチサダだからミッサー?」
「いや、それもどうかと……」
悪魔系ヴィジュアルバンドのライブじゃないんだから。
普通に千重里で呼べばいいだろうが。
「俺の苗字、千重里だから……」
「じゃーチエで!」
「それじゃ女だろう。ちゃんと千重里か、もしくは道貞で呼べよ」
「えー、まんまなんてカレシ感出ないじゃん。じゃーチエサトだから……、エサで!」
「駄目」
何でそこ抜き出した? 結構な悪意を感じるんだが。
「うーん、チサ……? チサト……? チエチエ……? やっぱドーテーが一番呼びやすいなー」
駄目だこいつ……。早く何とかしないと……。
「それともー、チエサトとミチサダを合わせて……、チミー!」
「却下」
「じゃー、チエ……、ミチ……、チエミチ……、チエミッチ……、あ! チェミッチって可愛くなーい!?」
「可愛くないし、可愛くある必要もない」
「そしたらー……」
「……ミッチーで良い……」
「オッケー」
仕方ない。これが一番ダメージが少ない気がする。
「じゃーあたしはマッキーで」
「え? 俺もあだ名で呼ぶの?」
「その方がよくない?」
「いや、それは何かバカップルみたいで……」
「じゃー下の名前でもいいけどー。あたし『牧舞』だからー。牧場に舞うって書いて牧舞なんだー」
牧舞、か。
それでマッキーなんだな。
じゃあそれで……、って呼べるかぁ!
女子の名前呼びとかハードル高いどころの話じゃない!
下を大型車両がくぐれるわ!
「し、下種で……」
「えー、昨日言ったけど、前に『下ネタ』って言われた事あるから、苗字あんま好きくないんだよねー」
「そ、そうか」
「だからマッキーか牧舞で呼んでー」
う、ぐ……、それは……。
「じゃなかったら、あたしもミッチーの事みんなの前でドーテーって呼ぶしー」
「わ、わかった」
ちくしょう! 名前を人質に取るなんて卑怯な手を使いやがって!
……やむを得ない!
「……ま、マッキー」
「なーに? ミッチー」
ぐほぁ!
世のバカップル共を見ては爆発を願い、自分は仮に彼女ができても決してすまいと誓いを立てていたやり取りを、俺は、俺は……!
「さ、じゃー学校行こーかー」
「あぁ……」
さっきまでの意気揚々とした気持ちをへし折られ、俺はとぼとぼと学校に向かうのだった……。
いや! これも首に:の男を見つけるまでの言わば雌伏の時!
くっくっく……! その暁には千重里さん呼びと敬語に修正してやるからな!
読了ありがとうございます。
ちなみに名前の案としては、
「あたしがマッキーだからさ、ドーテーはミッ◯ーにしよっかー」
という案もありましたが、めでたくボツにしました。
それ以上いけない。
次話もよろしくお願いいたします。