第六話 ゲスい女の子のお部屋滞在記
道貞を部屋に招き入れた途端、シャワーを浴びに行った下種牧舞。
その隙を逃すまいと、道貞は弱み探しを開始した……。
どうぞお楽しみください。
さぁ、弱み探しの時間だ。
ここでクローゼットに手を伸ばすのは素人。
たとえそれで決定的な何かを見つけたとしても、公表した際のダメージは、
『下種の秘密 < 女子の部屋を家探ししたゲス野郎』
となる。
違法捜査の証拠は証拠足り得ないという奴だ。
下手すると下着の山が崩れてきたところを録画されて、『変態! 羊の皮を被った獣の本性!』なんてタイトルで社会的に殺されかねない。
あくまで、
「部屋に招かれてのんびりしていたら、こんなものを見つけてしまった、どーしよー」
という体で見つけなければならない。
となると、化粧台の上か、勉強机の上辺りに何かないか……?
お? ……あった、あったぞ!
勉強机の上に、伏せてある写真立て!
まるでゲームのイベントアイテムのようだ!
お約束だろ? こういうのに片想いの相手の写真!
そいつをネタにあいつからマウントを取り返してやる!
「ど〜れ? ……ん?」
……何だこれ?
うちの制服の後ろ姿の男の写真。
背景も学校の廊下だ。
え、この特徴のないモブの鑑みたいな後ろ姿の奴が、下種の好きな男……?
情報少なくない!?
と、とりあえず写メ撮っておこう。
写真立ては伏せた状態に戻して、と。
「うーむ……」
見れば見るほど特徴のない後ろ姿だ……。
これで髪の毛が青とか緑とかだったら一発でわかるんだけどなぁ。
アニメの区別表現は偉大だ。
拡大してみよう。
ん! 首の後ろに黒子、か?
縦に二つ並んで、まるで:だな。
これは手がかりだ。
明日学校で探してみよう。
他には何かないか……?
「お待たー」
「おう」
あの後、何の成果も得られませんでしたな内に、下種がシャワーから出てきた。
Tシャツに緩めのハーフパンツ。
たわわなものに押し上げられてか、へその辺りがちらちら見える。
ふっ、普通の陰キャなら『誘ってるんじゃないか……?』などと勘違いするところだろう。
だが俺は違う。
こいつの本性は既に知っているし、ここで対応を誤った時の地獄も想定してある。
この程度の色香で惑わされるはずなどない。
「じゃあ撮ろっかー。ドーテーもうちょっと寄ってー」
「み、道貞だ!」
うわちょっと待ってめっちゃいい匂いする。
いや待て時に落ち着け!
所詮は市販のシャンプーの匂いだ!
俺は下種にどきどきしてるんじゃない!
シャンプー研究者の飽くなき探究心に胸躍っているだけだ!
「はい撮るよー」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
インカメにした下種の携帯の画面に映った俺の顔が、犯罪級に気持ち悪い!
何にやけてんだ俺!
こんな写真撮られたら、それだけで脅迫の材料になる!
伴野にも見せられない!
……妹を思い出せ!
妹とツーショット写真を強要されていると認識を改変しろ!
よーし、げんなりした気持ちになってきたぞ。
「よし、良いぞ」
「じゃあハッピーラッピーイェイ!」
意味のわからない掛け声と共にシャッターボタンが押される。
うん、良い感じに無だな。
「何か顔のテンション低くなーい? もっと自然に笑ってよー」
無茶言うな。
自然って何だ。山や海と一体にでもなるのか。
お前らみたいに日常的に笑う訓練は受けてないんだ。
大笑いは馬鹿みたいだし、抑えようとすると気持ち悪くなるし、含み笑いとかは不気味だし、陰キャに笑顔は難しい。
「良いよそれで。『初彼女で緊張してて』とか言っとけば良いだろ」
「あ、やっぱ初カノなんだー。ウケるー」
ぐっ、ここでもマウントを取ってくる気か……!
ならこっちにも考えがある……!
「……そうだよ。俺なんかこんな事でもなけりゃ、女子と話すらできない男だよ」
「え……?」
からかう顔が固まる。
くっくっく、秘技! 『自虐落とし』!
責めたりからかったりする相手にこれを使うと、相手は罪悪感で何も言えなくなる!
気まずい雰囲気に落ちるが良い!
「そんな事ないよ!」
えぇ!? 全否定!?
「あたしは確かにカレシのフリを頼んだけど、誰だっていいわけじゃないんだよ! ドーテーがいいヤツそうだったからだし! 顔も別にキモくないし! 臭くもないし!」
すっげぇ力説してるけど、俺の評価ライン低くないですかね?
褒めるところがないなら無理しないで良いんですけど。
「ドーテーは自分の事嫌いなの!?」
「……え、あ、その、まぁ、嫌い、かな……」
「じゃああたしとは!?」
「は?」
「あたしと自分、どっちが好き!?」
……何言ってんだこいつ。
こいつの事は元々嫌いだ。
その上男避けに彼氏のフリを頼んだり、金を要求したり、嘘泣きで騙そうとしたり、どんどん嫌いになっていく。
……それでも。
「俺よりはお前の方がマシだろ……」
「マシとかじゃなくて! 好きなの!? 嫌いなの!?」
何でこいつこんなに必死なんだ……?
もしかして、こいつ俺の事……!
「……また録音してんのか?」
「……えっ」
顔色変えやがった!
おいおいマジかこいつマジか!
「……録画とかもしてそうだな」
「そんな事してないよー!」
「じゃあ録音は?」
「……し、してないよー……」
こいつ隠す気あんのか!?
録画はされていないようで良かったけれども!
「成程成程。そう考えれば、わざわざシャワーを浴びたのも説明がつく。敢えて隙を作ってこの部屋で俺が何かしたら、脅迫材料を追加ゲットするつもりだったんだな?」
「な、何でもそうやって疑うのよくないよー?」
「目がめっちゃ泳いでいる状態でよく誤魔化せると思ったな! その図太さ逆に見習いたいわ! こんな危ないところにいられるか! 俺は自宅に戻るぜ!」
「あ、ちょっとー!」
引き止めようとする下種の声を無視して、足早に部屋を出る。
コンシェルジュさんに頭を下げると、携帯が震えた。
……下種からだ。
さっきの写真……。一応保存しておこう。
ん? また来た。今度はメッセージか。
『今度はドーテーの家で撮ろうねー』
誰がうちに上げるか!
デフォルトで入ってる『NO!』のスタンプを送ると、俺は携帯をポケットに叩き込んだ。
読了ありがとうございます。
『ゲスい』がどちらにもかかる文学的サブタイトル。
ただし内容はゲス。
ひとまず写真立ての男の情報をゲットした道貞。
しかし陰キャである道貞に、その男を探し出す事はできるのか?
次話もよろしくお願いいたします。