第五話 ゲスいお宅訪問
恋人のフリのためにツーショット写真を撮るために下種牧舞の自宅に行く事になった千重里道貞。
普通ならどきどきラブコメ展開になるところだが、ゲスな道貞にかかると、さながら探偵ものの様相を呈してくるのであった。
どうぞお楽しみください。
「ここだよー」
「おぉ……」
案内されたのは高級そうなマンションの前だった。
オートロックの自動ドアに、ホテルのロビーみたいなソファーとテーブル。
これまたホテルのようなカウンターに、スーツ着た人が立ってる。
あれだろ? 管理人じゃないんだろ?
コンシェルジュとかいう人なんだろ?
うちなんか格安公営団地だっていうのによぉ!
良いところだけどな! 公営団地!
「お帰りなさいませ」
「たっだいまー」
「あの、お邪魔します」
「どうぞごゆっくり」
うおおお! 緊張したぁ!
何も悪い事してないのに、お巡りさんの前だと緊張するあの感じ!
まさか家に行くだけでこんな緊張を強いられるとは!
「うち二階だから階段でいいよねー」
「あぁ」
緊張で心臓やばいから、できればエレベーターが良かったが……。
いや、逆に階段を昇っていれば、この動機がバレても階段のせいだと言える。
ひ弱の汚名は敢えて受けよう。
「あ、パンツ見ないでねー?」
「見られたくなきゃ短いスカート履くな」
「えぇ……。パンツ覗いた上に相手に責任なすりつけるんだ……。えぐっ」
「お前の下着なんか見たくもないが、不可抗力で見えた時の責任まで取らされてたまるか」
「うー、ひどーい」
何が酷い、だ。
お前みたいなのがいるから冤罪事件がなくならないんだ。
知らんけど。
「よっ、ほっ、はっと」
何でそんな跳ねるように階段を昇るんだ!
わざとやってんのかこいつ!
見るな見るな目を伏せろ!
見たら最後、何を言われるかわからない!
落ち着けこれはあれだ狩猟本能だ。
視界の端に動くものがあると反射的に追うあれだ。
猫に対する猫じゃらし。
闘牛に対する布。
ちなみに牛は色彩に関する視覚能力は低く、赤い色ではなく布の動きに反応するそうだ。
よし、関係ない事を考えて冷静になれたぞ。
俺は草食系農耕民族だから耐えられた。
狩猟民族だったら耐えられなかった。
「着いたよー」
地獄のような階段を乗り越え、これまた豪華な扉の前に到着する。
「さー、入ってー」
「お、お邪魔します」
……あれ? 反応がないな。
「さっき言ったじゃん。今日は両親帰ってこないって」
「は!?」
からかうための冗談じゃなかったのかあれ!?
「まー、大声出したらコンシェルジュさん飛んでくるからー、変な事考えないでねー」
「元からそんなつもりはないって言ってるだろ」
しかしこれは好都合。
親、特に母親はやたらと子どもの友達に話しかけるもんだからな。
質問責めにされたら、弱みを握るどころじゃなくなるところだった。
「ここがあたしの部屋ー。適当に座ってー」
おお、広い。
ベッド以外のスペースだけで六畳くらいある。
勉強机に化粧台、真ん中にはカーペットと座卓。
随分とこざっぱりとしてるな。
もっとゴテゴテ派手派手なイメージあったけど、不自然な程に片付いている。
俺が来る事を想定していた?
いや、それは考えにくい。今日の今日だからな。
普段から友達を家に呼んでるのだろう。陽キャだし。
「お待たー。麦茶でいいー?」
「ありがとう」
下種が、氷の入ったグラスを俺に渡してきた。
何か意外。出さないか、出してもペットボトルドン!って感じだと思ってた。
「じゃああたし軽くシャワー浴びて着替えてくるわー」
「は!?」
何言ってんだこいつ!?
どういうつもり!?
先にシャワー浴びてくるって、その……!
いや、動揺を気取られてはいけない!
「仮にも客ほっといてシャワー浴びるってどういう神経だよ」
「部屋着の方がお家デート感あるじゃん? 演出演出」
「成程、そういう事か」
勘違いしなくて良かったー!
「のぞかないでよねー」
「そんな事警戒するなら、ここのドアを外から開かないようにでもすれば良い」
「んー、めんどいからいいや。見られて減るもんでもないしねー」
くっくっく……。そんなリスキーな行動はしない!
覗くのはお前の私生活だ!
シャワーを浴びるとなれば、そこそこの自由時間が与えられる!
その間にこの部屋からお前の弱みを見つけてやるぞ!
読了ありがとうございます。
……陽キャの弱みって何でしょうね……(哲学)。
次話もよろしくお願いいたします。