第二十一話 ゲスい推理
ヤンキーの絡みから逃れる代償として、警察への説明を行う道貞。
それを終えた時の下種牧舞の様子に異変が……?
どうぞお楽しみください。
「……はい、はい。それでは失礼いたします」
電話を切って一息。
今後も警察を利用するには、善意の市民を装わなくてはな。
あちらも多少虚偽通報を疑っていただろうけど、さっきの半分以上真実の説明をひっくり返す程の証拠も熱意もあるまい。
今後も頼りにしてますよ。警察の皆様。
「終わったぞ、し、マッキー」
「ふぇっ!? あ、うん……」
……? 何だ? 今変な間があったような……。
「どうしたマッキー」
「別に何でもないよミッチー」
……怪しい。
下種が「ミッチー」と呼ぶのは周りに人がいる時だ。
それ以外はからかいを込めて「ドーテー」と呼ぶ。
何を動揺している?
警察との電話中、下種に背を向けていたのは失敗だった。
ここで動揺の元に気が付ければ、一気に優位に立てるのに!
……いや、諦めるにはまだ早い。
「どうしたマッキー。顔が赤いぞ?」
「へぇ!? そ、そんな事ないよー!?」
「あぁ、走ったからか」
「そ、そーだよー。ど、ドーテーが急に走らせるからさー」
「なんてな。全然顔色は普通だ」
「うぇ!?」
「おやぁ? でも今どんどん赤くなってるな。どうした?」
「う、うそ……」
顔に手を当てる下種。
馬鹿め。そうやって意識すれば、顔の血流が多くなるのは必定。
探偵アニメもなかなかに役に立つものだ。
「何にそんなに動揺している?」
「ど、ドーテーには関係ないじゃん……」
「それはおかしい。ここには今俺とし、マッキーしかいないんだからな」
「う……」
厳密に言えば遊具で遊んでる親子とかはいるが、あえて二人きりを強調する。
こうする事で動揺を更に深めさせ、何か決定的な言葉を吐かせる!
「俺の背中に何か付いていたのか?」
「……別に……」
くっくっく、普段の語尾を伸ばす癖も消え、まともにこちらを見る事もできていない。
俺の背中に何かあるようだな。
虫でも付いていて、それにビビリでもしたか?
しかしその様子を俺は見ていないから、動揺する要素としては薄い。
まるで『見ていた事自体が恥ずかしい』かのような反応……。
……え?
まさか……?
「な、何でもないったら! ほら! 電話も終わったし、もう行こ!」
……見ていたのが背中ではなく、首筋だったとしたら……?
それにさっきの下種のヒーローの話。
格好良く助けたつもりはなかったから関係ないエピソードだと思っていたけど、俺の鼻血がきっかけで苗字イジりが無くなったなら、それはヒーロー扱いになるのでは?
……じゃあ、下種の好きな奴って……!
「……」
自分の首の後ろなんか見る機会はない。
もしそこに縦に二つ並んだ、:のような黒子があったら……!
ポケットにしまった携帯を取り出し、カメラモードにして首の後ろに回す。
手探りだが、最近の携帯カメラは質が良い。
うまく撮れるはず……。
パシャシャ!
あれ? シャッター音が二回?
慌てて指が震えたか?
確認してみると黒子も何もない、つるんとした首筋が写っていた。
しかも、一枚だけ?
「……ぷっ! あははははっ! すごいマジな顔で首筋の写真撮ってるー! ウケるー!」
「!?」
さっきまでのしおらしい態度は何処へやら。
そこには携帯を手に、元気に爆笑する下種の姿が!
「……! お前、まさか……!」
「ヤバ! 怒った顔もめっちゃウケるー! 目線こっちー!」
「撮るな!」
ちくしょう! つまりあの写真立ては罠!
俺がそれを盾に優位を取ろうとするのを見越して、わざと残しておいた訳だ!
不自然に思えよ俺!
あれだけ片付けられていて、一点だけ残されていた写真立て!
ゲームのアイテムみたいとか思ってた自分を殴りたい!
そして思わせぶりな行動を繰り返して、俺に勘違いをさせて『自分の首筋を写真に撮る』という不自然な行動に誘導した……!
くそ! 完全に掌の上だったのか!
……かくなる上は、からかって来たところを「いや、首筋がもぞもぞしたから確認のためだ」という言い訳で誤魔化すしかない……!
……いや、「お前まさか」とか言ってる時点で誤魔化しようが無い気もするけど……。
「あー、笑った笑ったー。じゃー、カラオケ行こっかー」
「は?」
「『は?』じゃなくて。カラオケからボーリングでしょー?」
「え、いや、え?」
何で通常モードなの?
イジり倒してくるんじゃないの?
反復横跳びしながら「ねぇ今どんな気持ち? どんな気持ち?」と煽られるイメージさえ浮かんでいたのに……。
「それともなんか一緒に来れないコトでもあるー?」
ぐっ……。
そうか、敢えてからかわない事で、俺の反論を封殺したまま精神的優位に立つつもりか……!
ここで帰れば恥ずかしさに屈し、尻尾を巻いて逃げたも同義……!
「……いや、問題ない。行こう」
額の汗を拭った手を震えそうになる頬に当てて抑え、俺はベンチから立ち上がる。
一瞬でも気を許した俺が馬鹿だった。
下種は悪魔のような奸計と嗜虐趣味に溢れた怪物なのだ。
だが! 幸いあの写メの意味は、俺と下種にしかわからない。
写メだけなら、変な行動をしている俺に過ぎない。
この写メの真の恥は、『俺が下種の好きな男かもと勘違いした』事にあり、それを伝えるには下種の好きな男について語る必要がある。
俺を貶めるためだけにそこまでする程馬鹿ではないだろう。
つまりその写メは不覚ではあるが致命傷ではない!
「なーに歌おっかなー」
上機嫌な下種。
今のうちにせいぜい喜んでおくがいい。
お前が優位を感じて油断している隙を見つけ、決定的な弱みを握ってやるぞ……!
俺と下種のゲスい戦いはまだ始まったばかりだ……!
読了ありがとうございます。
牧舞、恐ろしい子……!
道貞が打ち切りフラグみたいな事を言っている通り、次回でこのゲスい物語は完結となります。
どうぞ最後までお付き合いをお願いいたします。




