第十八話 ゲスいカフェトーク
ほっぺにチューをぎりぎり回避しつつ、恋人っぽい写真を撮る事に成功した道貞。
続くカフェトークを無事乗り越える事ができるのか?
どうぞお楽しみください。
さて写真は撮れた。
このコーヒーを飲み切ったらとっとと解散といこう。
小人閑居して不善をなす。
する事がなくなると、こういう手合いは何をするかわからないからな。
「でさー、ドーテーはどんな女のコがタイプなのー?」
ほら見ろ。
にやにやする下種に、さて何と答えて切り抜けようか。
「特にタイプというのはないな」
「えー? そうなのー?」
「タイプというものを特定できる程、恋愛経験はないからな」
「うわ、寂し……」
出たな恋愛至上主義者め。
別に恋愛がなくたって充実した青春は送れるんだよ。
俺が送れてるとは言わないけど。
「その割にはさー、デートしてても落ち着いてるよねー」
お前相手だからだよ。
恋愛対象じゃなければ、無駄にときめく必要もないからな。
「フリだからな。お前だってそうだろう?」
そうじゃなきゃチュー写真とか気軽に言ってくる訳がない。
「そうじゃなかったらどーする?」
「は?」
「実はフリじゃなくてー、本気でドーテーのコト好きになってたらどーする?」
お前は何を言っているんだ。
……はっはーん? またおちょくるつもりか。
その手には乗るものか。
「そうなったらそうなった時に考える」
「へー。いがーい。考えてはくれるんだー。『お前と付き合うなんてアリエナーイ!』とか言うと思ったのにー」
そんな事言ったら、照れ隠しと取られかねない。
それに伴野に一泡吹かせるまでは、この関係の全否定は得策じゃない。
否定もせず、肯定もせず、のらりくらりとこの関係を維持していくのだ。
「そういうお前はどうなんだ? 好みの男のタイプとか」
「あ、気になるー? 気になっちゃうー?」
煽りが腹立つが、首の裏に黒子:の男の手がかりを得るためだ。
とはいえ弱みを晒すような聞き方はまずいな。
「あぁ、もしお前の好みの男がいたら、そいつにはフリである事を伝えた方が良いだろうからな」
「へー、やっさしーじゃん」
くっくっく、優しさを装う事など容易なのだよ。
さぁ、白状するが良い!
「そーだなー……。あたしを守ってくれる人、かなー」
守る、ねぇ……。
そういう意味なら熊太とかどうなんだろう。
頭は悪いけど。
「それとねー、頭の回転の速い人ー」
はい熊太消えたー。
あいつ武力全振りだからな。
「それでいて優しい人ー」
出たよ女子特有の『優しい人』好き発言。
お前らの『優しい男』ってのはあれだろ?
『発してもいない気持ちを察してベストな対応を見返りなくする男』だろ?
そんな三拍子揃った男はフィクションの中しか存在しないんだ。
「そりゃあ見つけるのが大変そうだな」
「それがねー、一人見つけてるんだよねー」
何だと!?
そんな完璧超人がこの世に存在しているのか!?
そいつが黒子の男だ! 間違いない!
「へぇ、そいつうちの学校の生徒?」
「そーだよー」
「学年は?」
「タメー」
よしよし絞り込めてきたぞ。
「クラスは?」
「なになにー? めっちゃ気にするねー」
う、踏み込みすぎたか?
同じ学年というところまで知れたから、今日の成果としては十分とみるべきか。
「うちのクラスだよー」
おお! 値千金の情報!
これで絞り込みは時間の問題だ!
しかしそんな奴いたかな?
下種を守れる、頭の回転の速い、優しい奴……。
! まさか……!
「なーにー? どーしたのー?」
このにやけ顔……!
……成程な。言い寄ってくる男から一応守り、下種の罠に気付いたり熊太を丸め込んだりする程度の頭は回り、外面だけの優しさはある、と。
だがここで「俺か?」なんて言おうものなら、ここぞとばかりにいじり倒される。
「そうか。そんな奴もいるんだな」
「そんな事言ってー。気付いてるんでしょー?」
「あぁ。からかわれてる事に、な」
俺の返しに、下種はにやけ顔をゆるゆると崩した。
「ちぇー、もうちょっとドギマギしてもいーのにー」
お前の思い通りになってたまるか。
しかしこれで黒子の男を探すのは振り出しか。
溜息をつきながら傾けたコーヒーは、さっきより苦く感じた。
読了ありがとうございます。
日が空いてしまって申し訳ありません。
持病の『短編書きたい症候群』の発作が起きていました。
あと『甘々書きたい症候群』の発作も近々起きそうな予感……。
そろそろ風呂敷を畳んで、新たな話に進みたいと思います。
残り二、三話でまとまると思いますので、よろしくお願いいたします。




