第十七話 ゲスいカフェデート
下種牧舞との関係を疑う伴野を何とか屈服させたい道貞。
カフェデートの中で、決め手となる手段を見つけられるだろうか?
どうぞお楽しみください。
「どうだ? その、えっと、……飲み物は」
「うん、おいしーよ。一口飲むー?」
「……いや、いい」
「遠慮しないでいーよ。ドーテーが買ってくれたんだしー」
「……遠慮とかじゃないから」
「あ! もしかしてー、間接チューとか気にしてるー?」
「……別に」
「それ絶対気にしてるヤツー!」
けらけら笑う下種に舌打ちしたい気持ちを抑え、周りのカップルの様子を再度観察する。
伴野に恋人関係を認識させつつ、フリの関係でも大きな違和感なく要求できる様子は何かないか……?
「ちょっとー。こんな可愛い子を前にしてよそ見するとか失礼じゃなーい?」
自分で言うな自意識過剰か。
確かに外見は芸能人と言ってもおかしくないくらい整っている。
しかしそれを自分で言う図々しさでマイナス二億点だ。
さらに人を利用して平然としているところとか、隙あらば俺の弱みを握ろうとしてくるゲスさとか、そのためのあざとい振る舞いとか、そういうところが気に入らない。
同族嫌悪という単語が頭をよぎるが無視する。
「なんか悩み事でもあるのー?」
「ん、まぁちょっとな……」
下種から話を振ってくれるとはありがたい。
伴野に疑われているのはもう知られている訳だから、隠し立てする意味もない。
「伴野が俺とし、マッキーの関係を疑っているのは知っての通りだ」
「なんか英語の教材買わされるとか言ってたねー」
「だから何か納得させる方法がないかと思ってな」
「それで周りのカップルちらちら見てたんだー」
察しが早い。
これが味方なら心強いが、こいつは『隙があればいつでも斬りかかって良い』という条件で仲間になった剣士ばりに攻めてくるからな。
そんな約束はした覚えないんだけど。
「それでさー、なんでそのバンノ君にカレカノのフリバレちゃダメなのー?」
「……どこから秘密が漏れるかわからないからな」
「ふーん」
個人的な復讐だという事はバレてはいけない。
そうなったら今でさえギリギリの力関係が一気に瓦解する。
「じゃあさー、チュー写真でも撮っとくー?」
「は?」
一瞬車を規定の位置に停める神と、中空の針を用いて血管内に薬を注入する神とが脳内に爆誕したが、違うそうじゃない。
キスしているところを写真に収めるって事?
陽キャの間では普通なの?
一体何のために?
呪いでも解くの?
「そしたらカレカノって信じてもらえるんじゃないー?」
「……いや、そこまでして信じるかどうかはわからない。何か別の方法を考えてみよう」
冗談じゃない。
度胸を示すために鰐の口に手を突っ込むような真似をしてたまるか。
ハイコストローリターンの極み。
「わかんないなら試しにやってみようよー」
「は、え、ちょっと……!」
机を回り込んで横に座る下種!
おい待てふざけんなまさかこんな人目のあるところで何考えてるんだ!
「ドーテーは女のコとチューした事ないのー?」
「……ない……」
「じゃーほっぺたにしとこっかー」
……頬なら、まぁ……。
欧米では挨拶だし?
伴野を黙らせるためだし?
「じゃー、カメラよろー」
「……」
カメラを起動し、インカメに切り替える。
角度を調整して……。
「いいー?」
「……あぁ」
「じゃーいくよー」
携帯の画面の中、目を閉じた下種の顔が俺の頬に近付いてくる!
緊張で固い自分の顔が気持ち悪い!
いや、そんな事を考えている場合じゃない!
下種の思い通りにならないためには!
「?」
シャッター音に下種が目を開けて動きを止める。
その唇は、俺の頬に触れる直前で止まっていた。
まるで時限爆弾を残り一秒で解除したような安堵感が俺を包む。
「写真は撮れた。協力感謝する」
言いながら俺は奥へと腰を移す。
そして携帯の画面を見せた。
「この角度ならキスをしているも同然だろう?」
「ホントだー」
うまく下種の頭で唇が隠れる角度を微調整しながら、唇が触れる前にシャッターを切る離れ業……。
何とか成功した……。
「でもチューしてる瞬間の写真の方がよくなーい?」
冗談じゃない。
伴野に信用させるために必要なこの写真でそこまでされたら、下種に大きな借りを作る事になる。
俺は伴野にも下種にも負けるわけにはいかないんだ。
「いや、直接的な部分をあえて見せない事で、想像力を広げさせて説得力を高める作戦だ」
「そーなんだー」
いや知らんけど。
とにかくこれで俺は強力なカードを得た。
待ってろよ伴野。
今度こそぐうの音も出ないところに、敢えて「ぐう」と言わせてやるからな!
読了ありがとうございます。
計算高いと見せかけたドーテームーヴ。
俺じゃなくても見逃さないね。
次話もよろしくお願いいたします。




