第十三話 ゲスい危機回避
日曜日のデートのフリを無事乗り切った道貞。
意気揚々と登校するも、それを阻む影が現れ……。
どうぞお楽しみください。
さて、月曜だ。
普段なら憂鬱だが、今日は違う。
日曜にボスバーガーで撮った下種とのツーショット写真がある。
これで伴野はぐうの音も出まい。
「おい、お前」
「へ?」
教室に着く直前、野太い声が上から聞こえてきた。
振り向くとそこには、同じ高校生か疑わしい男がそこにいた。
デカァァァァァいッ! 説明不要!
その大きな手が肩に乗せられた。
このまま地面にめり込まされてもおかしくないぞ。
「下種牧舞と付き合ってるんだってな?」
とうとう来たよ来ちゃったよ!
下種に言いよる男その壱!
「ちょっとツラ貸せや」
うわー、本当にこんな事言うんだこういう人種。
ここで『はい』を選択すると、人目のつかないところでボコボコにされてゲームオーバーなんでしょ? 知ってる。
何としても回避しないと。
「もうすぐホームルームだし、話ならここで聞くよ」
「あぁ?」
廊下の窓際に移動する。
ここなら小声は聞こえないが、大声や暴力は人目を引くベストポジションだ。
俺は過去の経験から知っている。
暴力は振るった方が負けなのだ。
ゲームやフィクションの中なら、強ければ何でも許される風潮があるが、ここは現実。
ここでビビる必要はない。
「大体話はわかってるつもりだ。俺と下種が付き合ってるって事が気に入らないんだろ?」
「そ、そうだ。痛い目にあいたくなかったら別れろ」
わお。いきなり脅迫。
下種だったら即録音だな間違いない。
しかし謎だ。
下種が俺と別れたからって、自分が付き合えるとは限らないのにな。
白雪姫がいなければ自分が世界一と思い込む魔女かこいつ。
なら上手い事言いくるめられるかもな。
「痛い目に遭いたくはないから別れても良いけど、それじゃあ勿体なくないか?」
「は? もったいないって何だ?」
「フリーになった下種に直接アプローチしても、警戒されるのがオチだろ? でも今なら、俺を通じて自然と近付く事ができる」
「何? どういう事だ? お前、牧舞が好きだから付き合ってるんじゃないのか?」
俺はこの人型ゴリラ(今命名)に、指を立てて更に声を落とす。
「……実はあいつの好きな奴は俺じゃない」
「な……!?」
「俺はそいつと上手く行くまでの男避けだ」
「そうだったのか……。道理で……」
おい何に納得してるんですかね。
「だが遠くから眺める相手より、近くで接点の多い相手に惹かれるのが人間の心理だ」
「つ、つまり、お前を通じて牧舞の側にいれば、牧舞が俺に惚れる……!?」
どこまで都合がいいんだこいつは。
あんまりのぼせ上がらせても後々面倒そうだから釘を刺す。
「そこまでは言わないが、今より確率が上がる事は確かだ。そこで下種に好意的な変化が現れたら、お前に知らせる。どうだ? 俺が彼氏のフリをしてた方が得じゃないか?」
「た、確かに……」
頷くゴリラ(ひとタイプ)。
将来ガチめの詐欺に引っかかるなこいつ。
「しかしお前はそれでいいのか?」
「俺は下種が誰かとくっつけばお役御免だ。誰とくっつくかは問題じゃない」
「そ、そうなのか」
俺だって伴野さえぎゃふんと言わせれば良い。
おっと、そのためには男避けとしての仕事もしないとな。
「ただし、俺に男避けを頼むくらい、下種は男からのアプローチに辟易してる。だから、あくまで俺の知り合いのポジションを崩さないでくれ」
「わ、わかった」
「下種をじろじろ見たり、話しかけたりしない事。声を荒げたり暴力的な言動はしない事。そうすれば下種も『他の男と違う』って思うかもな」
「おう! 頑張る!」
よーし、こいつが近くにいれば他の男も寄ってきにくいだろう。
下種には後で伝えておこう。
「じゃあ自己紹介だ。俺は千重里道貞」
「俺は武石熊太だ! よろしくな!」
名は体を表す、だな。
ゴリラ(ヒトのすがた)改め熊太は、俺に手を差し出してきた。
「よろしくな! 道貞!」
騙されてるとも知らないで……。
だがこの単純さ、思ったより使えるかもな。
「あぁ、よろしく」
内心ほくそ笑みながら、俺はその手を握った。
読了ありがとうございます。
新キャラ登場です。
最初は隈田武士にしようと思いましたが、流石にまんまが過ぎると入れ替えました。
由来は、まぁ、お察しで……。
次話もよろしくお願いいたします。




