第十二話 ゲスい昼食風景
女性の服選びに付き合うという、男性屈指の難イベントに心折られかけた道貞。
そして未だ撮れていないツーショット写真。
道貞は目的を果たす事ができるのか?
どうぞお楽しみください。
「やー、ありがとねミッチー」
「ど、どういたしまして……」
服の入った袋を抱えて、ご機嫌な下種。
こちらはゆきっつぁんとの別れに悲しみを抱いているというのに。
「ねー、そしたらちょっとさー、ご飯食べてかない?」
「……いや、あぁ、うん」
正直もう帰りたかったけど、考えてみるとデートっぽいツーショット写真が撮れてない。
試着室ファッションショーの写真はあるけど、それでは送られただけと言われたら反論できない。
伴野をぎゃふんと言わせるには、やはりツーショット写真だろう。
そのためにはもう少しこの地獄に耐える必要があるのだ。
「おけー。じゃあさー、服買ってもらったしー、お昼はあたしがおごるよー」
何?
奢る?
それでチャラにする気かこいつ?
冗談じゃない。
あの派手Tシャツのために散ったゆきっつぁんが、それで納得するとでも?
「いや、大丈夫。俺自分の食べる分は自分で買いたいからさ」
「そっかー。でももらってばっかりっていうのも気が引けるんだよねー」
そうだ気にしろ。
俺に対して引け目を感じろ。
そうすれば今後ツーショット写真など、伴野を黙らせるための要求も通りやすくなるからな。
「まぁ何か頼みたい事とかあったらその時に頼むよ」
「おけー」
よしよし。八千円の布石、大事に使わせてもらうぜ?
「じゃーここにしよっか」
「え……」
ボ、ボスバーガー?
くそっ! セレブめ!
「よかったー。すいてるねー」
「……そう、だな」
昼時、ボスバーガーはいつも空いている。
何故なら昼向きじゃないからだ。
単価が高い割に量がそれ程でもない上に、注文を受けてから作る本格志向が、忙しい人のランチに向いてない。
つまり金にも時間にも余裕のあるセレブしか利用しない、名ばかりファストフードなのだ。
おのれ下種!
だが作戦のためだ。一番安いのでお茶を濁そう。
「あたしはダブルボスバーガーのセットでー」
「……バリューバーガー一つ……」
「えー? それだけー?」
「……セットで」
くそっ! 余計な出費がかさむ!
しかし下種に『貧乏人』と思われるのは避けなければ!
席に着き、遅いファストフードの完成を待つ。
そうだ、今のうちにツーショット写真を撮ってしまおう。
時間の有効活用だ。
「なぁマ」
「ねーミッキー、今日何か無理してなーい?」
「ッ」
図星を突かれて言葉に詰まる。
映画も服屋もこのボスバーガーも、無理をしている事は間違いない。
だがそれがバレたら俺の今日の苦労は無駄になる!
服屋に散ったゆきっつぁんも浮かばれない!
「そんな事ない。楽しいぞ」
「あのさー、そーゆーのはホントのカノジョにとっときなよー」
「は?」
「嫌われて困る関係じゃないんだからさー。もっと友達みたいに軽ーく接していーんだよー?」
「……」
それができたらどれだけ楽か。
映画のコアな話で盛り上がって、服屋じゃなくて本屋で漫画の新刊をチェックして、牛丼屋で昼だったら、実に有意義な一日だと思えただろうに。
だが下種にそんな姿は見せられない。
弱みを見せたらつけ込まれる!
「あたしはカレシのフリしてもらってる時点で、けっこー借りあると思うんだよねー」
「……え……」
「だからー、せめてやりたい事とか言いたい事とかー、遠慮しないでほしいんだよねー」
「……」
やりたい事や言いたい事……。
伴野と遊んでる時みたいな……?
それなら……。
「……いや、やめとく」
「えー? どーしてー?」
「また録音されていても困る」
「もうしないよー。なんなら携帯置いててもいーし」
「最近はICレコーダーも進化してるからな。携帯は安心させるためのエサかもしれない」
「……ミッキー、考え方ヤバくない……?」
何とでも言え。
もう無条件に人を信用するのはやめたんだ。
「一度見破られた手なんか使わないよー」
「別の手なら使うと言っているように聞こえるが」
「まー時と場合によってー?」
「それで遠慮するなとかよく言えたな」
でも何だろう。
『裏切らない』と言われるより、『油断したら裏切る』と言われる方が安心感がある。
「お待たせいたしました」
「おー、待ってましたー」
運ばれてきたバーガーに、話は一旦中断となった。
かじった一番安いバーガーは、薄切りピーマンの苦味と、みじん切り玉ねぎの辛味と、トマトケチャップの甘酸っぱさで複雑な味がした。
読了ありがとうございます。
側から見たら普通のデート。
なにゆえもがき耐えるのか。
次話もよろしくお願いいたします。




