第十話 ゲスい映画鑑賞
恋人のフリに説得力を持たせるために、映画デートを提案した道貞。
デート写真をゲットしつつ、下種牧舞の持つ自身への印象を変えさせる事はできるのか?
どうぞお楽しみください。
「遅いな……」
つい口に出してしまう程、俺は焦れていた。
約束は八時半に駅前。
現時刻は八時四十五分。
下種、未だ着かず。
映画館『シネマでゴー』は目の前だからまだ間に合うけど、自分から言ったんだから時間に来いよ。
まったくこれだからギャルって奴は……。
「お待たー」
「!」
ようやく来たか!
十五分も遅れて来たんだ。
舐められないために文句の一つも言わないと……!
「下種。お前……!」
え、誰こいつ。
振り返った目の前には、知らない女子がいた。
「ちょっとー。苗字じゃなくてマッキーで呼んでってばー」
「……」
声は下種。
でも見た目が下種じゃない。
ぴったり目の半袖シャツに、これまたぴったり目のズボン。
髪の毛も後ろですっきりまとめていて、シャープな感じ。
普段の制服姿とも、家で見た緩い服装ともイメージが違う。
え? どゆことこれ?
変身するたびに戦闘力が上がるタイプの宇宙人なの?
最終形態なの?
「おーい。ミッチー? どしたー?」
「……」
「返事しないと大声でドーテーって呼ぶぞー」
「そ、それはやめて……」
ようやく声を絞り出す。
こ、このままでは押し込まれる! 反撃を!
「悪い悪い。あんまり綺麗だから見とれてたよ」
服に気合いを入れて来ると言っていたから、昨晩練習していた歯の浮く台詞!
さぁ、反応や如何に!
「へへー。でしょー。お気にのコーデなんだー」
さすがギャルだ! 何ともないぜ!
くそー! 練習の数だけ辛くなれるよ!
だが今日はこの方向性で行くと決めてある!
下種が喜ぶデートを実践し、俺への印象を変えさせる!
そしてこれまでの印象とのギャップに戸惑い、隙を見せるがいい!
……まぁ今日一日でそこまでは無理だとしても、積み重ねが大事だ。
雨垂れ石を穿つ。
ローキックは後半に効く。
策はここで終わりじゃないぞ!
くっくっく……! お楽しみはこれからだ!
映画終了後、俺と下種はロビーのベンチで残ったポップコーンを片付けていた。
「映画面白かったねー」
「そうだな」
「主人公さー、雑魚とボスとで対応違いすぎてウケたよねー」
「あぁ」
「でも結局ボスにも楽勝なのいいよねー」
「わかる」
「あとバトルシーンはめっちゃカッコよかったよねー」
「確かに」
うおおおぉぉぉ!
語りたい!
流石は賀谷馬一作さんと思わせるアクションシーンの作画枚数!
脚本の九条海先生の原作愛溢れるオリジナル展開!
主人公役の上野勢馬はテンパった時のコメディ演技とシリアスの演技のギャップが素晴らしかった! 闇の高音最高!
そしてヒロイン役の河瀬祝! 俺の嫁! 演技の幅が広い上に歌も上手くて容姿も可愛いとか、天の贔屓の権化。ゆきっつぁんねぇねぇ今どんな気持ち?
サブヒロインの乾夢似子も可愛かったなぁ! あれで夫も子もいる身ですって素晴らしいですわね奥様!
「どしたの? 反応うすくない? 面白くなかった?」
「いや、すごく面白かった」
……面白かったけど、こんなどマニアックな話、下種にはできない。
コーラを飲んだらゲップが出るってくらい確実に引かれるッ!
かといってこのままでは映画が面白くなかったと思っていると思われる!
それはNO! オタク的にNO!
不自然にならないように話題を変えないと……!
「それにしてもし……、ま、マッキーが『ここ先』知ってるって意外だったな」
「あー、知り合いに勧められたの。すごい面白いって」
「そうなのか」
そんな知り合いがいたのか。超意外。
「それにドーテーは、こういうの絶対好きだと思ったからー」
え?
何こいつ俺に合わせたの?
……服装もミニスカートに文句言ったから……?
って事はこいつ、俺の事……。
「……マッキー……」
「なにー?」
「俺に合わせてくれてありがとう。お礼にこの後は行きたいところに付き合うよ」
「ほんとー? やったー! 見たい服あったんだよねー」
「ははは。行こう行こう」
笑顔で頷きながら、怒りと焦りの炎が胸の中で燃え上がる。
ここまで露骨に格下扱いされて黙っていられるか……!
何としてでも俺のイメージを変えさせてみせる!
読了ありがとうございます。
都合良く 考えないから ゲスぼっち
さてさて映画のスタッフとキャストですが、作画の人以外は実際に私のお気に入りの方をもじりました。
わかった人は僕が拍手!
次話もよろしくお願いいたします。




