危機 ヒヨドリ緑・猛禽移動 2006年12月 すずがも通信161号掲載
鳥の国から 2006年12月 すずがも通信161号掲載
危機 ヒヨドリ緑・猛禽移動
11月8日午前5時。真っ暗な中、若猫のウィンクがあわただしく外から戻ってきた気配。キ、とかすかな声が。あわてて電気をつけると、まあなんとヒヨドリをおさえこんでいるではありませんか。大急ぎでヒヨドリをとりあげると、案の上10日ほど前に放した「緑」。幸いに出血も目につく傷もなし。尾羽はぜんぶ抜け、風切羽も1、2枚減ったあわれな姿でしたが、命には別状なさそう。
ヒヨドリの「緑」は都内で1年以上も大切に世話されていた鳥。片目がきれいに開かない上、長く飛ぶと息切れがします。できれば野生に戻したいということでお預かりしたのですが、世話されたお宅では心配で何度もお見舞いに。その度に涙されて帰られ、いつでも戻してくださいとも言われていました。網で追ってもなかなか捕まらないようになったので、思いきって放鳥。先輩のヒヨドリに追いまわされながらもわりあい元気に過ごしていました。しかし通る方の肩に乗って連れ戻されたり、タヌキや猫の届きそうな低い場所に平気で入ったり、いつ食われるか、気が休まるひまなし。とうとうわが家の猫、それも片目失明・生後半年少々のウィンクに見つけられたか。
もう限界かな。元のお宅にお返ししすれば野外には戻せなくなるだろうけれど、これ以上はキモチ的にとても面倒を見きれない。少し尾羽が伸びたころ、取りにきていただこうかと思っています。
ぽかぽか快晴無風という絶好のお天気が何日か続いた10日には、個別室に1羽ずつ収容していたトビ2羽とオオタカ1羽を思いきって仮設禽舎の猛禽部屋に移動しました。野外に放す時はヒヨドリの例のように細心の注意+思い切りが必要なのですが、これは部屋を移動する時も同様。いつも目が届く治療室からそれぞれのリハビリのために動かした後、3日後には体重をチェックします。1羽ずつ入れる個別室なら餌の減り具合を気にするだけでふつうは大丈夫なのですが、この夏のカワセミのように放鳥直前に青大将に呑まれたらしいというくやしい事件も。このトビやオオタカは餌付きが悪かったり、1羽のトビはひっくり返ると骨折・保定したほうの翼を足でつかんで起きられなくなったり、なかなかやっかいでした。おまけに猛禽部屋にはトビ2オオタカ1をはじめ、5種7羽の先輩がいます。おりあいがどうなるか。以前に若いオオタカを移した時にはすぐさま小柄なハイタカを捕らえてあわや大惨事!今回のオオタカは見事な成鳥で、はらはらどきどき。「大安吉日に動かそうか」と言っていましたが、この日は仏滅。でも上天気でほかに忙しい仕事がない。やるっきゃない。
トビ2羽は割合すんなりと落ち着いて、先輩たちともさほど悶着はなさそうでした。オオタカの先輩もいきなり攻撃してくる様子はなし。でも移したほうのオオタカは、足が不自由なハヤブサ雄のギンちゃんを熱心に見て生つばをごくり。あぶないかな、とスタッフの長沼さんが見ている前で、あっさりおさえこんで食べそうに。すぐにギンちゃんともう1羽の雌ハヤブサをいっしょに個別室に移しました。他にも小鳥を何羽か移動したので、しばらくは気がもめる日々が。
若手スタッフたちが手分けして「野鳥病院マニュアル」を作成中。自分がやっている仕事、知っていることを書いてあとで訂正や補充を加え、できれば写真や図解も入れてまとめようという作業。順調に進行しています。よいものになりそう。楽しみと心配の鳥の国でした。