シンちゃんかみつく 2004年12月 すずがも通信149号掲載
鳥の国から スズガモ通信149号 2004年12月号掲載
シンちゃんかみつく
痛いんだよねえ。キーボードに触れるたびに、右手人差し指の傷がうずきます。いちばん使う指なのに。まったくもう、シンちゃんの奴。
後半身付随のハクビシン雌、シンちゃんが野鳥病院に入院したのは5月28日。そろそろ半年になります。人が近づいただけでおびえ上がり、うっかりケージ近くに手でもあればガア、と声を上げて思いきり食いつこうとする。野性味満点というか、こわいのなんの。
8月に入るころから、少し様子が変わってきました。夕方水を足してやると、「お水だけ?」という顔つき。好物のジュースに浸したパンを期待しているようです。パンを差し出すと、「かみつくつもりじゃありません、パンをいただきます」という態度で、そーっとくわえとって行くようになりました。
受け取る様子がいじらしくて、ついつい油断。8月下旬から9月にかけて、掛金をかけ忘れたための脱走事件が3回。3度目の脱出劇は9月22日から10月8日までで、なんと18日間も、傷病鳥舎のどこかに中型哺乳類のハクビシン潜伏、という事態に。とうとうドッグキャッチャーを保健所からお借りして、無事捕獲。
この先どうしよう、と、相当迷いました。たぶん交通事故による脊椎損傷で、野生復帰は望めず。薬殺(いわゆる安楽死)が本来は正しい選択かもしれない。でも、哺乳類は鳥よりはるかに情が移りやすいもの。ケージ内の生活には支障がないし、まあ、一生つきあうのかな、というところに。
脱走・潜伏・回収後、広くて背の高いリスザル用ケージに新居を作りました。達夫さんがとりつけた止まり木3本を器用に伝って、高い方の寝かごまで楽々と上り下り。「2階」に上がるとジュースパンやブドウをやることにしているので、目を輝かせて人の手の動きを見つめます。ごちそうを受け取る時、すきをねらって鼻の頭をちょろっとひとなで。何も持たずに指を出せばかみつこうとするわけで、スリル満点。
11月7日、大粒のブドウを夢中でほおばっている時に、耳の後ろをかいてやりました。まんざらでもなさそう。後足がきかないので、かゆいところをかくこともできないはず。いい気になってどんどんかいていたら、結局ガブリとやられました。
「孫の手があるといいかも」と山口マコちゃん。そこで、プラスチックのスプーンを使ってみました。最初のうちはスプーンにかみついたシンちゃん、孫の手の気持ちよさにすぐ納得し、目を半分閉じてうっとり。鼻の白い筋のところ、口元、あごの下までかいてやりました。誰がやっても大丈夫。孫の手シンちゃんの満足そうな表情に、皆ではまりまくり。