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コーヒーパーラー「ライフ」5

コーヒーパーラー「ライフ」の外では、何か騒動が起こったのか。


人が言い争う声が、コーヒーパーラー「ライフ」の外から聞こえてくる。


しだいに、聞こえてくる騒ぎは、大きくなってきた。コーヒーパーラー「ライフ」に向かって来ているようだ。



      #       #


この騒ぎの正体は、思わぬものであった。


これは、「平安クリーンスタッフ」の社員であり、声帯模写の自称天才、高見沢治美が、様々な声色を駆使して、ひとりで台本の読み合わせをやっているのである。


高見沢治美は、この台本の読み合わせなどという近所迷惑もはなはだしい活動は、いつもなら近所の河原に出掛けて、ひとの迷惑にならないように、ひっそりと行っているのだが、大晦日の今日は、通りには、ひとがいないので、高見沢治美は、台本を音読したくなったのである。



高見沢治美は、物まね、発声の練習と称して、近所迷惑なひとり芝居を演じる。


高見沢治美が演じている芝居は、女を怪しげなビルに連れ込む中年男を描いた場面であるらしい。


男「オイ!」


女「社長さんゆるして、ほんと、こんどだけは」


高見沢治美の色っぽさが満載だ。


男「ゆるさんぞ。こんなチャンス二度とないからな!」


(もちろん、社長の役も一人二役で高見沢が演じている)



しかし、高見沢治美の読み合わせは、急に場面が一転する。占い師の独白の場面である。


占い師「不気味な風が吹いてきたわね。真冬なのに、妙に生暖かく、生くさい。これは、血のにおいですね」


      #       #


近づいて来た高見沢治美の声による芝居は、コーヒーパーラー「ライフ」の前までやってくると、コーヒーパーラー「ライフ」には入らず「平安クリーンスタッフ」のある方向に消えて行った。


      #       #


高見沢治美は、組時代からの「平安クリーンスタッフ」への会社成立期からの古株社員である。


高見沢治美は、組の伝統が色濃く残っていた頃からの最古参の「平安クリーンスタッフ」のメンバーとも面識がある。


高見沢治美は、演劇少女として、上京してきて、アルバイトとして「平安クリーンスタッフ」で、働き始めた。高見沢治美は、それからずっと「平安クリーンスタッフ」で、働いている。


高見沢治美は、大柄で、体を動かすことを苦にしないガテン系にみられがちである。


しかし、高見沢治美は、どちらかというと活字を愛する繊細な文学少女的な知性派でもあった。


高見沢治美と、会う人は、高見沢治美の顔が、どこか見覚えのある顔だと思ってしまう。


それは、高見沢治美が、ヒーロー物のテレビドラマの端役はやくとして、テレビに時折登場しているためだ。


まさか、高見沢治美が外でひとりで台本の読み合わせをやっていたとは夢にも思わないマスターは、外の様子を不安げにうかがった。


一方、高見沢治美の台本の読み合わせは、バンドマン ツヨシの睡眠を妨げない。


バンドマン ツヨシは、高見沢治美の声には、仕事仲間としてなじんでしまっているからである。


バンドマン ツヨシは、高見沢治美の騒ぎの正体を眠っていても把握していた。



      #       #



ところで、我々は、コーヒーパーラー「ライフ」に集う「平安クリーンスタッフ」の社員らの紹介をしてきたが、まず第1に紹介すべき大事な人物を抜かしている。


マスターはその男からの電話を朝からずーっと待っていたのだった。


その男は、いつもの年の大晦日と同じく、今年の大晦日も年越しのために、この街に帰ってくる予定である。


その男は、堀米泰成という名前の男で、「平安クリーンスタッフ」の塚原瑛太社長は『堀米さん』と呼んでいる。


マスターと「平安クリーン スタッフ」の先代社長、塚原卜然は堀米泰成のことを「ヤス」と呼んでいる。


ところで、バンドマン ツヨシは、堀米泰成ヤスのことが苦手であった。


堀米泰成が、コーヒーパーラー「ライフ」に現れると、バンドマン ツヨシは、すぐにコーヒーパーラー「ライフ」を出る。


堀米泰成が、「平安クリーンスタッフ」の前身のヤクザ一家の頃の武闘派生き残りであるからだ。


バンドマン ツヨシは、堀米泰成のことを密かに恐れているというか、一目置いているようすだ。


堀米泰成は、年はいっているが筋骨隆々の男である。


堀米泰成ヤスは、会社には滅多に現れない。


しかし、堀米泰成ヤスには、きちんとした給料が払われているらしい。


堀米泰成ヤスは、この会社と、因縁というか訳ありの関係という話だ。


また、堀米泰成ヤスは、重い病気を抱えているという話もある。


その堀米泰成ヤスをこうして、朝から、コーヒーパーラー「ライフ」のマスターは、堀米泰成からの連絡がくることを待ってあるが、その連絡はなかなか来なかった。



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