表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/36

新釈「龍の形見」16

岡寺のぶよは、堀米泰成ヤスの手紙を受け取ると、自分の肩に置かれているバンドマン ツヨシの腕を払い落とした。


「バンドマン ツヨシ!」


「今度は、堀米泰成ヤスと長い時間行動したんで、堀米泰成ヤスの極道があんたに感染うつってないか?」


「……」


バンドマン ツヨシは、否定せず、ただ、自虐的な笑みを口元に浮かべ、うなずいただけだった。


「では、たしかに私が預かっておくわ」


岡寺のぶよは言ったのだが、バンドマン ツヨシはうちに帰ろうとはしなかった。


バンドマン ツヨシは、なにか言い出したそうであったが、なかなか言い出しそうになかった。


それが、わかって岡寺のぶよは、いらいらしてきた。


「なにをいいたいの」


「実は、今度の出張で、お金をあまりもらってこなかったんですよ」


「急な話だったわけだし、瑛太社長に内緒で出発したし、ということで、いま、五十円しか持っていないす……」


「だから、小銭でいいんです。会社に帰るための電車賃。いくらか、お借りできないかと思って。だから、のぶよさんの姿を見かけたときには本気でうれしかったです。ワンコインでいいんです。よろしく」


「えっ、あんたバカじゃないの。私に小銭を借りたいなんてこんな状況で言うような言葉じゃないでしょう。絶対に、ありえない。ほら、あれをみなさい」


岡寺のぶよは、バンドマン ツヨシの肩をたたいて促すと、空の一角を指さした。


「えーっ」と、言うばかりでバンドマン ツヨシはその光景に息をのみ立ち尽くした。


伝説の獣、麒麟が炎を身にまとい、都庁ビルの上空を周回飛行していたからである。


麒麟は口に五億円分の札束が収まったアタッシュケースをくわえていた。


岡寺のぶよとバンドマン ツヨシが、空高く飛翔する麒麟を見ていると、麒麟の様子がおかしい。


麒麟の不快な気分が伝わってきた、


この時、麒麟が口をもごもごさせてあたが、麒麟が口にくわえているアタッシュケースのカギがカチッと音を立てて開いていた。


そして、アタッシュケースの中から五万枚の一万円札が、ヒラヒラと新宿の空に雪のように舞いはじめたのだ。


岡寺のぶよとバンドマン ツヨシは、一万円札が舞い落ちてくる方向を目指して、駆け出した。



      #       #



数日後、「平安クリーンスタッフ」の事務所にて、瑛太社長は今回の事件のことを頭で整理してみた。


「意地と意地で作られた、男の歴史がそのころまで、この町にもあった。まさしくそういうことだ」


「世界各地に広まった古代文明。それを支えていたエネルギーの一つが『龍の形見』。『龍の形見』の見守る闘いでは、闘士たちはどんなに戦っても死ぬことはない。そういう言い伝えがあった。でも、本当かしら。二十年前には、その言い伝えを信じて、なんにんもの人間が死んでいったと言うけれど……」


「キャバクラのねぇちゃんが、若い男と駆け落ちして、『龍の形見』も失われた。そんな夢物語が、今頃になって現実になって俺のところに降りかかってきた……」


ところで、堀米泰成ヤスの消息については語られてはいない。


「平安クリーンスタッフ」社長、塚原瑛太は、ふと思った。


堀米泰成ヤスのおっさん、今頃どうしているんだろう」


というのは、


「無謀にもエイリアンたちが要求していた金を持参せずに、『龍の形見』を手に入れようというのがあの遺言書の主旨であると思われたからである」


堀米泰成ヤス無謀さには、関係者は誰もがあきれ果てている。


コーヒーパーラー『ライフ』のマスターを含めて、堀米が生還するとは全く考えてはいない。


堀米泰成ヤスこのような考えれば悲しくなるし、このようにうっとうしい事項は、忘れてしまうのが一番だ。


最近では、おしゃべりの中で、堀米泰成ヤスの話題を採り上げることはない。


とにかく、忘れてしまうのが一番であると、暗黙の了解が生まれたのだ。


そして、瑛太社長以下、「平安クリーンスタッフ」の面々は、また、地味でカタギの仕事にいっそう精を出す日々が再び始まったのである。




しかし、それからそれなりの月日が経った。


エイリアンと交渉すると遺書で書き残していた連絡が取れなくなっていた堀米泰成ヤスが戻ってきた。


「平安クリーンスタッフ」



「こいつら、俺の命を狙ってきた刺客や」


片手には、エイリアンの生首がいくつか詰まったナップサック、もう一方の手には、堀米泰成ヤスは、『龍の形見』らしきものを抱えていた。



「『龍の形見』は、計画通りいかんかった」


「闇の技師に制作を頼んだが、いい加減な仕事しかしよらん癖して、ぎょうさんカネふんだくられた」


「しかたないから、新聞の隅から隅までよう捜して、とある地下の闘技大会を見つけた」


「そこの闘技場商品がなんと『龍の形見』となっとったんよ。そこで、俺は、ダメ元で参加してみたんよ。そしたら、優勝して、本物の『龍の形見』が手に入ったというワケや」


「これで、……」


「また、あのころの愉快な日々がこの町に帰ってくるんよ」


堀米泰成ヤスが「平安クリーンスタッフ」の社長、吠えて見せた。



堀米泰成ヤス土手っ腹には、風通しが良さそうな大きな穴が出来ていた。よく見たら、眼窩から、目玉が飛び出しそうである。


堀米泰成ヤスが死んだなんて、決めつけたのは誰だ」


「それを信じて、平和な日が戻ってくると思った俺がバカだったのか」


塚原瑛太の口元に自嘲じちょうの笑みが浮かんだ。


そう、……


塚原瑛太社長にまた鬱の日々が帰ってきたのはたしかなようだ。






 了




やっぱり、


「なんちゃって」編を始めるために、一週間休みます。


続きは、来週月曜日の午前二時!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ