新釈「龍の形見」9
岡寺のぶよの話に戻そう。
岡寺のぶよについては、エイリアンが東京都に宣戦布告した前日の昼前の出来事まで話していた。
岡寺のぶよは、リンダに会って感じた。
「やっぱり、リンダは変よ」
電話がかかってきた前日の晩から、リンダは、変だった。
自分の子どものノエル君の重大な岐路だと言うのに、自分の子どものことであるのに、リンダには、なにか投げやりな態度があった。
岡寺のぶよからみれば、リンダは、自分の子供を守る積極的な行動に出ることを拒んでいるように感じられた。
「もう、自分の子供ではないのだから」とか、「決まってしまったことだから」とか、「子供は、自分にとっては手の届かない存在なんだから」とか、「受け取ってしまった金を返せる目処が立たないのだから」とか、とにかく、子供を取り返すために前向きの行動に出ようとしなかった。それが、そばで見ている岡寺のぶよには、歯がゆくもあった。
そして、岡寺のぶよも自身も、煮えきれない態度のリンダのせいか、どういう行動に打って出るべきか、イメージが湧かないでいた。
岡寺のぶよは、リンダの心に探りを入れた。
「リンダ、本気でエイリアンに『ノー』と言える? やはり、リンダ、残金としてもらえる予定の五億円について、未練があるのではないの? でも、お金のために子供を売る親なんて信じられないわ」
「……」
岡寺のぶよは、今度は違った方向から、リンダの心に探りを入れてみる。
「でも、子供ってもう二十歳くらいになるわよね」
「だったら、自立してもおかしくはない年齢と言うことで、残りの五億円自分の未来のためにもらっておくというのも悪い考えじゃないかも」
「……」
「でも変ね......」
「私が聞いている話だと、モグリの占い師は、まだ、学校にも行っていないくらいの子供だっていうけど?」
「……」
「自分の大事な子供を、ぜんぜん知らない人間に預けっぱなしみたいなことができたわね」
「……」
リンダと岡寺のぶよは、ノエル君のいる美容室に到着した。
ノエル君は、この美容室内にスペースを借りて、占いをしているという。
「ここね。我々真面目な占い師の敵がいるというのは。闇で、ダンピング価格で仕事して、たくさんの都内の占い師を泣かしているというのは……」
美容室には、多くの客が占いをしてもらうために詰めかけていた。
美容室の外には長い列ができていた。列には、美容室というのに、男性もたくさん並んでいた。
そして、彼らはまもなく自分たちの未来と直面することになる不安と希望を胸に占いの順番がくるのを待っていた。
「流行っているわね。ずいぶんと儲かっているようじゃないの」
岡寺のぶよは言った。
占いを求める客たちの列の一番先には、テーブルがあって、そこには、二十歳には絶対に見えない幼女が腰掛けていた。
「ついに見つけた。あの子ね!」
岡寺のぶよは、幼女を指さした。
幼女は、テーブルの上の水晶玉のようなものをのぞき込んでいた。
そして、客の悩み事などを聞いている様子であった。
「あの水晶玉がくせ者ね」
岡寺のぶよは、客の列を無視して、リンダのを置き去りにして、幼女の方に小走りで向かった。
岡寺のぶよは、テーブルの幼女の正面に立つと言った。
「すみませんね。お嬢ちゃん。ねえ、占い師さん、失礼なことはじゅうじゅう分かっているんですけど、それでも確認しておきたいことがあるんでね」
「つまり、このお嬢さんが使っている水晶玉の裏には、本物の東京都占い組合認定シールが張られているかどうかと言うことなんです」
「それが張られていないと、普通は、面倒なことになってしまうんですよ」
岡寺のぶよが、幼女の前のテーブルの水晶玉を手に取ると、その水晶玉を光に当てるなどして、仔細に調べ始めた。
水晶玉は、小ぶりであった。
リンダも、岡寺のぶよと一緒に水晶らしきものをながめた。
そして、岡寺のぶよは、最後に驚きの声を上げた。
「……。不審ね。……。えっ? これ、……違っている」
岡寺のぶよは、モグリの占い師のからくりについに気づいた。
一見して、水晶玉に見えたそれは、実は、スノードームだったのだ。
「これって、スノードーム?」
スノードームとは、球形の透明な容器に、水や、きらきら光る銀紙のような小片、そして、建物、橋などのミニチュアが入っている主に幼児のおもちゃである。
それは、岡寺のぶよにもよく分かっていた。
しかし、そのスノードームには、言うにいわれぬ威厳があり、安っぽさもなく、幼児のおもちゃには見えなかった。
「これが『龍の形見』とかいう伝説のスノードーム?」
「二十年前に破壊されたと言う話だけど、まだ、残っていたのね」
そのとき、岡寺のぶよが手にしたスノードームから人の声が聞こえて来た。
「こんにちは、岡寺のぶよさん。はじめまして。岡寺のぶよさん、あなたが来られることは分かっていました。いつも母のリンダがお世話になっています」
「ところで、『龍の形見』は、ひとつではありません。『龍の形見』は、エイリアン王の力と身分の象徴! 龍王の系譜の王は、それぞれに自分の『龍の形見』を持っていると言われています」
「えっ」
岡寺のぶよが、何かを発見して、今度は戦慄のつぶやき声をあげた。
スノードームの中の、タツノオトシゴのようなミニチュアの人形だと思っていたのが急に動いたのだ。正確に言うと、そのタツノオトシゴが生きているように、岡寺のぶよには思えたのだ。
「こんにちわ」
母親のリンダが語りかけると、それに答えてタツノオトシゴうなずいたように思えた。
岡寺のぶよは、同行のリンダとスノードームの中のタツノオトシゴの間に、暖かい感情の往来が感じられた。
瞬いたタツノオトシゴのつぶらな瞳には、岡寺のぶよもかわいらしさに、思わず微笑んでしまった。
「えっ、ひょっとして、あなたの子供って、この幼女ではなくて、このスノードームの中の……」
「そうです。ノエルという名のうちの子です」
「うちの子供は、ほかの子供たちとは少しばかり違っているんです。それで、この子の姿にお客さんが驚かないように、近所の子にうちのノエルが占ったことを伝えるようにしてもらっているのです」




