新釈「龍の形見」8
「闘いって? 新宿って? 月陰熊五郎って? 先代、何の話のことでしょう?」
子、塚原瑛太の疑問は、当然である。
父、塚原卜然は、疑問に答えるために、子、塚原瑛太のテーブルの真向かいの椅子に越しかけた。
父、塚原卜然は、自分が不在にした理由を、子、塚原瑛太に説明し始めた。
父と子のそばでは、牛丼屋のスタッフが皿や丼などの食器を忙しく片付けていた。
「つまり、『関東興行塚原組』での兄弟分であり、『龍の形見』での闘技大会での最強のライバル、月陰熊五郎がある晩、俺の夢枕に立ったというのがすべての始まりだ……」
「二十年前『龍の形見』が失われ、月陰熊五郎が不慮の死を遂げたため、けりがつかないままになっている俺たちの闘い」
「その月陰熊五郎と俺、塚原卜然との闘いに決着をつけるために月陰熊五郎は、あの世から戻ってきたというのだ」
「月陰熊五郎は、その闘いに決着をつけるために、すでに必要な手はずは整えてあるという」
「『決着の日の当日、闘うために体と心を整えて新宿にやって来い』枕許の月陰熊五郎は、それだけ言い残すと、跡形もなく消えてしまった……」
「しかし、月陰熊五郎に、俺は聞きたかった。『龍の形見』はどうなるのかと? 」
「『龍の形見』が無かったら、二十年前の闘技大会をもう一度開くことは、不可能だ。しかし、月陰熊五郎は、答えることなく闇の中に消えてしまったのだ……」
「その闘いの日、月陰熊五郎が指定した日が、今日というわけだ」
父、塚原卜然は、塚原卜然自身の失踪の訳、月陰熊五郎との闘いについて、一通りはなし終えた。
子、塚原瑛太は、思った。
「先代、塚原卜然の鍛え上げられた肉体は、月陰熊五郎との闘いにのぞむためのものだったのか」
塚原瑛太は、聞いた。
「新宿って広いですからね。約束の場所が新宿というだけでは、先代、どこにいけばよいのか分からないでしょう」
父、塚原卜然は少し失礼な質問に答えた。
「それは分かっている。月陰熊五郎は、都庁前とか言っていた」
子、塚原瑛太は、なぜか、父、塚原卜然の答えに納得しない。
「えっ? 都庁っていま戒厳令が引かれてませんかね。今朝、東京都に、エイリアンが宣戦布告したってニュースでやってましたよ」
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エイリアン側の主張では、十五億円で養子縁組みが成立したのに、その子供を引き取りに行ったエイリアンが、引き替えのために持ってきた五億円を奪われた上に、ひどくボコられた。そういう事件が確かに起こっていた。
それで、エイリアンが東京都に抗議を申し込んだのだが、東京都は、なかなか請け合ってくれない。
今朝、エイリアンが宣戦布告をして、東京都とエイリアンの全面戦争が間もなく始まることになっているらしい。。
子、塚原瑛太は、これを塚原卜然に説明した。
「どっかで、聞いたような話やな。その話、リンダとかいう飲み屋のねぇちゃんの話だろう。例の占い師、岡寺のぶよもからんどるんじゃろ?」
「リンダから、電話があったよ。リンダによると事情があってエイリアンに自分の子どもを売ってしまった。そう言う話だった。取り引きの場に岡寺のぶよという占い師もついてくるとも、リンダは言っていた」
「たしかに、そうです。エイリアンをボコボコにしている人物が、『おかまとか人をなめるんじゃないわよ』とか言っている映像がテレビニュースで放送されてました……」
「その顔や姿は、テレビに出ませんでしたけどね。その声は、僕も、岡寺のぶよのような声だとは思いました」
「そうか、やっぱり、あいつらか。俺は、早まったことはするなと、電話ではとめたんや。しかし、リンダと岡寺のぶよは俺の言うこときかんかったんやな」
「……」
「リンダは、キャバ嬢時代の昔からの俺のなじみや。いまは、かまっとられんが、闘いが終わって手がすいたら、リンダの力になってやらんといかん」
「まだ、リンダや岡寺のぶよも新宿におって、心細い思いをしていると思うんや」
「闘いが終わって、リンダや岡寺のぶよを助けに行くまで待っているように、奴らに伝えられる手立てはないもんやろか」
父、塚原卜然は、ラメのジャケットのポケットからペンと予定表のノートを取りだした。
塚原卜然は、今発生した新たな戦いの予定、エイリアンからリンダや岡寺のぶよを守るという予定を「月陰熊五郎との闘い」の次の予定とて喜々として、ノートに書き込んでいる。
「また、闘いの予定が入ってしもうたわ。人気もんは本当につらいわ」




