新釈「龍の形見」5
岡寺のぶよは、このところ、外出が続いていたので、留守番電話をセットすることは、絶対に忘れてはならないことであった。
にもかかわらず、このところずっと、岡寺のぶよは自分のうちの留守番電話はセットされないままになっていた。
岡寺のぶよの留守中、彼女の電話は、重大事件を知らせるように執拗に呼び出しのベルが鳴り続けていたのに、岡寺のぶよは、電話に出ることもなく、留守番電話に切り替わることもなかったのだ。
岡寺のぶよが、二日前の深夜、やっと家に帰って、寛ごうと、コンビニのおそうさいとワンカップの日本酒をテーブルの上に並べ、週刊誌を広げたその瞬間に、けたたましく、電話が鳴りだした。
岡寺のぶよが、電話にでると、電話の声はすごい剣幕で、岡寺のぶよは、思わず耳から受話器を遠ざけた。
「あんた、いったい。こんな深夜まで、どこうろついていたのよ。相談したいので、毎日、毎日電話していたのに、いつもつながらないし、留守電にもなっていない。なんで、占い師のくせに携帯とかを持っていないの」
ところで、岡寺のぶよは、スマホは、私用には使わなかった。これは、リンダには内緒だった。
その声は、リンダであった。
リンダは、岡寺のぶよと同い年でコーヒーパーラー「ライフ」の並びのスナックで、雇われ女将をやっていた。
リンダの店は、不況の中、何とか頑張っていた。
リンダは、コーヒーパーラー「ライフ」の常連客で、岡寺のぶよは、それで知り合った。
岡寺のぶよは、リンダの姿を頭に浮かべてみた。
リンダにはどこか暗いところがあった。そこで、岡寺のぶよは、彼女の悩みにのってあげてた。
岡寺のぶよにとって、おもしろいことに、リンダはこの町のことをよく知っていた。
コーヒーパーラー『ライフ』やクリーンスタッフの連中のことなど。年齢でもないのに、この町の生き字引という存在であった。
岡寺のぶよは、リンダの悩みごとの予想はついた。
「ねぇ、例のストーカーの件で、進展があったの?」
「どうして、分かるの?」
「一番、悩んでいるみたいだったからね。その話から聞きましょうか。なんか、嫌な予感がするわ」
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「そう、あまりおめでたい話じゃないわね。相談できそうな人はあなたくらいしかいないのよ……」
「一週間くらい前の晩のことだったわ。雪が積もった夜だった。子供がなにか人の気配に気づいた様子だった」
「そして、家の裏に、何かの物音がしたの。ストーカーだと思った。弱みを見せたらダメだと思っていいたから
「それでも、怖かったけれど、私のことをつけ回しているストーカーの見極めようと決心したのよ」
「一気にカーテンを開き、サッシの扉を開くと、そいつの居そうなところを睨んでやった」
岡寺のぶよは、リンダの大胆さに驚いた。
「危険よ! それは、命知らずのやり方」
「それが違うの! ストーカーというの補私のかん違いだった。そこにいたの、だれだと思う?……」
「それは、エイリアン。一目でわかったの。昔なじみのエイリアンだったの」
「そのエイリアンったら、小さな体で、大きなアタッシュケースを重そうに抱えていたわ」
「そのエイリアン、死んでしまった彼、それも勿論エイリアンなんです」
「その私の彼の友人で、彼と一緒に、二十年前に店にきていた頃には、下っ端のエイリアンだったけど、いまでは、立派で、出世してひとかどのエイリアンになっているように見えたわ」
「聞けば、そのエイリアン。こんどは責任のある任務を命じられて地球にやってきているそうなの。そのエイリアンが、私をつけ回したのは、その任務に関することだったみたい。そのエイリアンと話をしていたら、二十年も前のあの頃の事が、いろいろと思いだしてしまった。そして、いまは、もういないあの人のことを思い出したの」
岡寺のぶよは、電話で長話は嫌だったので、リンダに本筋から話が逸れないように促した。
「リンダ、その元客のエイリアン、何の用事だったの。アタッシュケースなんか持ってきて」
「わたしと彼の子を、譲り受けたい、だって……」
「うちの子は、とあるエイリアン王国のエイリアン王になるべき血筋なので、エイリアンの王として迎えたいと言うことで地球にやって来たらしいの。そのエイリアンが言うには、うちの子供を売ってほしいって。なんと十五億円で、売ってほしいって言われた」
「つまりは、あんたの死んだ彼って、エイリアンの王様だったってことなるの」
「わたしと付き合ってた頃は、皇太子……」
「たしかにそうなるわ。あの人とつきあっていた頃にできたあの子。わたしたちが駆け落ちして、生まれたあの子が、エイリアン王国の王様になるだなんて……」
「あの子が生まれたすぐあとに、あの人、というかエイリアンは死んでしまった。あの人がエイリアンの王になる人だったなんて信じられない」
岡寺のぶよは、いやな予感がした。
岡寺のぶよは、確認してみた。
「リンダ、まさか、あんた……」
リンダは、否定しなかった。
「お金は、十億円を手付けとしてもらったわ。あと五億はアタッシュケースに入りきれなかったので、子供を引き渡すときに持ってくる。エイリアンと、そういう約束になっているの」
「リンダ、やっぱり……。もう売っちゃったのね」
「リンダ、でも、私に相談してくるところをみると、売っちゃったことを後悔しているのね」
リンダの話ぶりからは、覚悟が揺らぐリンダの気持ちが伝わって来た。
「岡寺のぶよさん、お店の方もうまく言っているというわけではないし。あの子に立派な教育を受けさせてくれるって約束してくれたし、あのこの将来の幸せのことを考えたら、それしか、道はないように思えたの。でも、……」
「リンダ、売る気がなくなったなら、お金を返せばいいじゃない。……。えっ、その十億使ってしまったなんて言わないでしょうね」
リンダは、ワッと泣き出したようだ。
「ごめんなさい。使っちゃいました。十億円、全部使ってしまったの。でも、どうしょうもなかったの……」
「月陰熊五郎さんに頼まれて五億円。月陰熊五郎さんは、『関東興行塚原組』の極道だったひとで、コーヒーパーラー『ライフ』では、よく話題にのぼる人なんですけど、私の昔の知り合いでもあるのです」
「月陰熊五郎さんという人の亡霊が、私の枕元にたって、『俺が死んだのはお前のせいだ。一生恨んでやる』とか言って、脅すのですよ」
「また、『五億円だせば、生き返れる方法があるから、生き返れる。そしたら、この恨みをチャラにしてやる』と言って、私の十億円から無理矢理、五億円持って行ってしまったの。幽霊の月陰熊五郎さんは、昔と変わらず悪い人でした」
「残りの五億円は? 残りの五億円は無事よね!」
「だから、言った通り、十億円はすべてなくなりました。というのも、月陰熊五郎さんが来たその翌日には、どこから情報を得たのか。『平安クリーンスタッフ』の堀米泰成が現れて、地下闘技場の再建に五億円がどうしても必要なので、貸してほしいと頼まれました。五億円あれば、いま、エイリアンが所有している『龍の形見』を買い受けることができるそうなの。 あなたも知っているように、『龍の形見』の話を持ち出されたら、この町の人間は誰も断ることは許されないのですね」
「リンダ、『龍の形見』の話は聞いたことがあるけど、本当の話なのね」
「リンダ、月陰熊五郎も、堀米泰成も、『平安クリーンスタッフ』の関係者じゃないの。そこの極道二人にに大切な十億円を巻き上げられるなんて、わたし考えられない。『龍の形見』持っているというエイリアンの話も怪しいわね」
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このとき、岡寺のぶよのあることが閃いた。
「今、思ったんだけど、あんたの子供って、占い料ダンピングで客を取っているどっかのモグリの占い師のことじゃないでしょうね」
「リンダ、エイリアンって、占い上手だってよく聞くから」
「話せば、いろいろと複雑なんだけど、答えは、イエスよ」
「モグリ? そういう言い方もできるかも。新宿の高級美容室で、スペースを提供頂いて、水商売の経営者さんや、政治家の皆さんの占いをやらせてもらっています」
「でも、家の子がやっているのは、占いを超えたもの。運命を読むことなの。うちの子が、人の運命を予言できるのも、この子の父親から受け継いだ血が影響しているのかも知れないわ」
リンダには、モグリの占い師について、まったく罪意識は内容だ。
岡寺のぶよは、腹立たしいので、嫌みを言ってみた。
「あんたの子供、優秀な占い師なら、私なんかに相談するよりも、あなたの子供に占ってもらったら」
「確かにそうね。でも、親子って、難しいのよ。そういうような占ったり、占ってもらう関係になるのは」
岡寺のぶよの嫌みはリンダには通じない。
「やっぱり! しょうがない娘ね。糠に釘。それなら、わたしもこの話に乗るしかないわね。そして、まずモグリの占い師の現場に踏み込むこと。そして、真相を見極める事が大事ね。結局、モグリの占い師は、まもなく、エイリアンの国に帰ってしまう。もう、問題は決着している」
岡寺のぶよは、リンダに聞いた。
「リンダ、あんたの子供をエイリアンに引き渡して残りの五億円もらったら、私にいくらくらいお礼するつもり?」




