新釈「龍の形見」2
岡寺のぶよが、コーヒーパーラー「ライフ」に熱心に通っていた頃の話である。
岡寺のぶよのぶよの夢枕に、月陰熊五郎がたった。
月陰熊五郎は、下町のヤクザ一家、「塚原組」の組員の中でも、組長の塚原卜然と並ぶ本格派の極道である。
岡寺のぶよの夢に現れた月陰熊五郎は、自分で月陰熊五郎だと名乗った。月陰熊五郎が名乗らなかったら、岡寺のぶよは、誰が夢に現れたのかわからなかった。
月陰熊五郎は、「平安クリーンスタッフ」の社長の塚原瑛太に向けて、「近いうちに会いに行くから」と、お門違いの伝言を言い残した。
「あんた、私と塚原瑛太との険悪な関係知ってたら、そんな伝言私にたのめないはずよ」
岡寺のぶよは、文句を言ってみたが、夢の中の月陰熊五郎は、スッと姿を消した。
そのあと岡寺のぶよは、すっかり目が覚めた。
岡寺のぶよは、自分の夢の中に現れた月陰熊五郎が占い的にどんな意味を持つのか、じっくり占ってみた。
「あの月陰熊五郎が、私の夢の中に現れたというのは、良い兆候とは言えないかも知れない。月陰熊五郎というのは、しょせん、極道なわけだから」
岡寺のぶよは、ひとつの方針を立てた。
「しばらくは、コーヒーパーラー『ライフ』に行くのはしばらくは止したほうがよいわね」
岡寺のぶよは、とるに足らない夢の話であるかも知れないが、念のため、若松春子にも電話した。
「私の夢に現れた月陰熊五郎という男が、あんたの会社、『平安クリーンスタッフ』の社長、塚原瑛太に行くそうよ。夢の中に現れた月陰熊五郎本人がそういってたの」
岡寺のぶよからの連絡を受けた若松春子は、月陰熊五郎からの伝言を「平安クリーンスタッフ」の社長塚原瑛太の伝言をどのように扱ったらよいのかわからなかった。
若松春子は、月影熊五郎から塚原瑛太への伝言について、コーヒーパーラー「ライフ」のマスターに相談してみた。
若松春子の話を聞いた、コーヒーパーラー「ライフ」のマスターは、顔を曇らせた。
「月陰熊五郎といえば、幽霊ということになるし、その伝言がホンモノだとしても、塚原瑛太さんは、仲のよくない岡寺のぶよさんからきた話を伝言として真に受けますかね」
この町にかんするひとつのおとぎ話は、このようにして始まった。
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この話は、「平安クリーンスタッフ」社長、塚原瑛太の憂鬱から出発する。
花のにおいなどで、季節の変わり目を感じ、そのささやかな変化に、無限の癒やしを感じたりする夢見系さわやか男子、塚原瑛太。
年がいっているが、少女マンガ風の大きなキラキラ光る瞳が印象的な、「平安クリーンスタッフ」の社長、塚原瑛太。
「平安クリーンスタッフ」社長の塚原瑛太は、この数日、ぼんやりと清掃会社、クリーンスタッフの二階事務所の窓から、外を眺めてばかりいるのだ。




